タイミングが悪すぎました……いえ、タイミングが良ければいいというわけではないです。断じて
声がした方向を振り返ると、赤いドレスに赤いリボンの令嬢が突進してきて「あっ」と言う間にガバッと抱きつかれ、俺は反動でクラリスの腕を離す。
「マ、マーガレット」
「アルベルト兄様、会いに来ましたぁ。あら? クラリス様。こんにちは」
「お久しぶりでございます。マーガレット様」
俺に抱きついたままのマーガレットにクラリスは令嬢スマイルを作り、丁寧にお辞儀をしながら、挨拶の言葉を述べる。
「マーガレット……離れろよ」
「ええ……せっかく会えましたのにぃ」
「……男に簡単に抱きつくもんじゃない」
「ご安心ください。私、アルベルト兄様、大好きですもの」
「そういう問題じゃないだろっ」
ベッタリくっついているマーガレットと俺の周りに冷たい空気が流れているように感じ、クラリスの方に顔をむけると、すごく冷めたブルーの瞳が俺に特上の笑顔を向ける。
その笑顔になぜか寒気を感じ、慌てて首に巻き付いているマーガレットの腕を引き離す。
マーガレットは「もう、アルベルト兄様、意地悪っ」とぶうたれているが、俺だって困る。クラリスの前で抱きつくなよ。いや、いなきゃいいってわけじゃないぞ。
「お前も令嬢なんだから、すぐに抱きつくな」
「はぁぁい」
マーガレットは注意されたことで不服そうに返事をするが、絶対にわかっちゃいないだろ。
マーガレット・ホワイトウェル。
俺の4歳下の従兄妹で、なんていうか……昔から俺に懐いていて、妹みたいな存在で……
「アルベルト兄様ぁぁ」と腕を組んでこようとするマーガレットをよけながら、俺はこっそりため息をつく。
今、めちゃくちゃタイミング悪いんだけど。男が好きだの、好きな令嬢がいるだの、クラリスの誤解を解いている最中なのに、更に従兄妹まで加わったら、ややこしくなるだろっ。
一瞬ショックを受けたように見えたクラリスだったが、すぐにいつもの微笑みに戻り、興味深そうに質問をする。
「いつも抱き合っているのですか?」
ぶっ……なんだ、その質問。そんなことあるわけ……
「んなわけ……」
「はいっ」
「おまっ……」
クラリスに変な事言うなよぉぉぉ。
「まぁ、仲がよろしいのですね」
「ま、まて、クラリス。勘違いするなよ?」
「クラリス様ぁ、兄様と婚約破棄した後は私にお任せくださいっ」
「マーガレット、なんでその事……」
「ジェスター様に聞きましたわっ」
ジェスター……余計な事を……
「あ、お父様が呼んでますぅ。では、アルベルト兄様、クラリス様、御機嫌よう」
マーガレットは1人で勝手に喋り、俺達が返事をする間もなくサッサと行ってしまう。嵐のような娘だな……さすがのクラリスも呆気に取られたのか、マーガレットが去った方向を眺め続けていた。
「いつも、お元気ですよね……」
「だな……」
「アルベルト様が大好きなんですね」
目を細めてふふっと笑うクラリス。
おっと……こうしちゃいられない。誤解は早く解かねばならぬ。
「俺はマーガレットとはなんでもないし、抱き合ってなんかいない。お前が思っているような好きな令嬢もいない」
「そうなんですか?」
「いや、いるが……」
クラリスは振りむき、俺の顔を見てクスクス笑い始めた。クラリスの様子がおかしく感じたのは気のせいだったのか、いつもと変わらない笑顔だった。
「……矛盾してますよ?」
「いや、だから! 俺はお前が」
もうここで気持ちを伝えるしかないと覚悟を決め、再度、クラリスの腕を掴み軽く引き寄せた。クラリスはそのまま俺の胸にトスンと顔をうずめる形になり、俺はそっと抱きしめ……
ヒュン
得体の知れぬ物体が凄いスピードで俺の顔スレスレを飛んでいき、風を切る音だけが俺の耳に残る。
ヒュン?
物体の正体を確認する為、飛んでいった方向に目をやると、鋭利な氷柱が壁に刺さっている。
はっ? つらら? 氷柱……だよな、コレ。
なぜ、王宮内で氷柱が飛んでくるのか……わかった様な、わかりたくない様な……とにかく、嫌な予感が怒涛の勢いで押し寄せてくる。
俺はゆっくり氷柱が飛んできた方向に視線を動かすと、当たって欲しくない予感は見事的中……そこには、無表情のザラが大きめの氷柱を魔法で手のひらから出し、空中に待機させていた。
「ああ、外しましたか」
辺り一面を凍らせてしまいそうな冷たい声色のザラの言葉を聞いてゾッとする。
俺を殺す気かぁ!?
お読みいただきありがとうございます。
一難去ってまた一難、アルベルト、がんばれ。
マーガレットは執筆してて楽しい子です。




