お花畑は満開でした……脅してません、事実です
ダンスパートナー決めのイベントから1ヶ月がすぎたが、いまだに俺は、カール・グロスターがクラリスを抱きしめようとした件を腹ただしいと思っている。
ナクサスにも、王子なのにとか、器が小さいとか、さんざん言われているが、なんとでも言ってくれ。王子の前に男だからな。
ことクラリスのことだけは、簡単には許さん。
だいたいさ、王子である俺の婚約者に手をだすなんて、勇者かアホかのどっちかだろ?
後日、カールはザラの授業終わりに呼び出されたり、エドワードの剣術授業でしごかれていた。
まぁ、俺はいつもあれ以上しごかれてるけど。
理由は十中八九、アレだろう。
なにを言われ、なにをされたかは知らないが、憔悴する日々を過ごしているカールが、さすがにかわいそうに思えてくるが、正直、俺はあの件を2人が知っている事の方に冷汗がでた。
しかも、あの時カールがお腹に衝撃が……と苦しんだのは、あのペンダントが攻撃したと思われる。
発動条件はわからないが、今のところ、俺は攻撃されてない……ミカエルとジェスターもだ。
発動条件がわからない以上、いつ攻撃されるかと、戦々恐々の日々を過ごす事になり……
無自覚で武器を所持する俺の婚約者……ザラ、なんてものをクラリスに持たせるんだ!
比喩でも、脅しでもなく、本当に男避けだったなんて……はぁぁ、なんなんだよ……あいつら。
「アルベルト王子」
ダンスパートナー決め以来、俺のことを避けていたカールが珍しく話しかけてきた。
公務で授業に出られなかった分のノートを写していた俺は、顔を上げ、あからさまに不機嫌な顔をする。
かわいそうだとは思っているが、クラリスにしたことを許すつもりはない。
「なに?」
「あの……」
そんな雰囲気を察してか、カールはなかなか話し出そうとせず、何度も顔を上げてはうつむくを繰り返す。
「なんだよ?」
ノートを早く写したいから、とっとと話してくれ。
カールは震えながらも、グッと顔を上げ、やっと口を開いた。
「クラリス嬢と婚約破棄してください!!」
はあぁぁぁ!?
あまりの予想外の言葉に、持っていたペンを落としそうになる俺。
「なんで、婚約破棄しなくちゃならないんだよ」
「噂によると、お二方とも愛のない婚約で破棄を望んでいると聞きました」
はあ? 噂? 何だそれ?
それに、俺の方には愛はあるぞ。俺の方には……な。
「アルベルト王子はたくさんの婚約者候補がいらっしゃって、毎日、令嬢たちを選り好みしてるとか……」
はい!?
それはジェスターが送りつけてきている、婚約者候補リストのことか!?
選り好みなんかしてねーよ。俺はクラリス一筋だってーの!
「そんなの、クラリス嬢がかわいそうです。ぜひ早く婚約破棄を!」
俺が呆れて何も言わないのを肯定と取ったのか、それとも調子づいてきたのか、矢継ぎ早に話すカール。
誰だよ、こんな噂流したの……いや、わかってる。間違いない、ジェスターだ。こういう裏工作はジェスターの得意分野だ……あいつ、覚えてろよ。
「それはあくまで噂だ。婚約破棄は絶対しない。絶対だ。だが、なんでお前が婚約破棄しろって言いに来るんだ? お前、関係ないだろ?」
「愛に目覚めたからです!」
「はっ?」
「最初は、邪な気持ちがありました。SSランク魔道士の公爵令嬢、僕の格が上がる最高の結婚相手です」
まぁ……な。俺には関係ないことだけど、クラリスのステータスは令嬢の中でもトップクラスだ……で?
「そんな浅はかな僕をクラリス嬢は心の底から心配してくれました」
はぁ……クラリスは優しいからな。超鈍感だけど……で?
「僕を心配してくれた姿は天使です。あんなに気にかけてくれるなんて、きっとクラリス嬢も僕のことを……」
こいつ、やっぱりアホの方だったな。
クラリスが天使……は否定しないけど。
「僕のことを想いながら、アルベルト王子と愛の無い結婚なんてクラリス嬢がかわいそうです」
だめだ、こいつ。頭の中で花が咲いてる。
「王子は婚約者を選り好みしてる方、クラリス嬢でなくてもいいわけで……」
「ちょっと、まて」
俺はイラッとして、カールの勢いを止めた。
聞き捨てならねーことばかり言いやがって。
ふぅ……落ち着け俺。
相手は花畑だ。
まともに相手しても、たぶん無駄だ。
「俺が万が一、万が一だぞ? 婚約破棄したら、お前どうするんだよ?」
「もちろん、クラリス嬢と婚約します!」
意気揚々と答えるカールに俺は頭を抱える。
はあああ……本格的なアホだ。逆にここまでだと清々しい。
「お前、たしか婚約者いたよな?」
「愛のない婚約です。もちろん破棄します!」
「お前が破棄するのは勝手だが、俺は絶対しない」
「クラリス嬢がかわいそうだと思わないんですか!」
どっちかって言うと、クラリスが鈍感すぎて、俺の方がかわいそうだよ。
「あのなー、万が一があったとしてもお前がクラリスと婚約はできねーよ」
「そんなことないです。愛があれば!」
お前は知らんが、クラリスの方に愛はないだろ。
「お前、クラリスを甘くみるな。あいつの防御は鉄壁だぞ?」
そう、我が王宮の防御より鉄壁だ。国を落とすより、クラリスを落とす方が難しいんだからな?
まず、強敵であるジェスターとミカエルを何とかしたとしよう。
まぁ、それも120%無理だと思うが……あの2人だけでもじゅうぶん厄介な存在なのに、難攻不落の兄弟が控えているんだぞ。我が国攻防の要の2人がクラリス1人に全力を注いでるんだぞ?
命をかけなきゃ、あの2人とは戦えない。
極めつけはクラリスの鈍感パワーだ。
これは結構心がえぐられるぞ?
「お前はクラリスに手をだすな。命が惜しければな」
あまりにも無知なお花畑に俺は親切心で忠告する。
「アルベルト王子は、クラリス嬢を独り占めしたいからって、そう言って脅すんですね!」
カールは顔を真っ赤にして怒るが、脅してるわけじゃなく、事実なんだけど。
独り占めはもちろんしたいが。
「僕はいつかクラリス嬢を貴方の手から救いますから!!」
……お前みたいなお花畑、クラリスの周りをうろつかない方がいいって。
いいか、俺は忠告したからな!
あとから聞いてなかった……なんて言うなよ!
お読みいただきありがとうございます。
今回はいつもより、長めになりました。
内容の関係で、長かったり、短かったりいたしますが、お許しくださいませ。
愛すべきアホの子カールは、書いてて楽しいです。




