ザラの回想 ~ザラ視点~ 1
――いい人生だった……悔いはな…………いや、ある……あれから半世紀以上たったのに……忘れる事なんてできない……僕のかわいい妹……みさ……――
最期に若くして逝ってしまった大切な妹のことを思い出し、僕の人生は幕を閉じた。
次に目を開けた時には、この不思議な世界にいた。中世のヨーロッパに近いが、まったく違う世界。1番の違いは魔法が存在するということだろう。
僕はブライトン伯爵家の次男に生まれる。
ザラ・ブライトン。
それが、今の名前。
赤ん坊の頃にぼんやりしていた前世の記憶は3歳くらいから徐々にはっきりしてきたのだが……これが、世にいう転生というやつか?
一生分の記憶はあるが、気持ちは23歳くらいだな。
まぁ、この世界でも不自由なく暮らせているし、昔から、占いやら心霊やらは信じなかったけど、魔法が存在するこの不思議な世界が今の僕の現実なのだから、受け入れて、淡々と生きていくか……僕は良くも悪くも現実主義者なのだ。
なんともかわいげのない3才児だろう。
こんな息子をもった両親が少々不憫に感じた。
淡々と生きていくつもりだった僕は、6歳の誕生日に人より早く魔法を発現させ、魔道士となってしまった。
恐ろしいほどの魔力量を生まれた時から秘めていた僕が発現したのだ。ブライトン家がお祭り騒ぎになるのは必然だった。
2つ上の兄、エドワードは「ザラ、スゲー、ザラ、スゲー」と、録音してリピートしているのかと思うくらい連発しているし、父も母も誇らしげで嬉しそうだったから、育ててもらっている恩返しが少しはできたかな? なんて、精神年齢23歳の僕は子供らしくない事を思ったもんだ。
その後、魔道士協会から派遣された先生の授業も2週間で終わらせ、SSクラス魔道士に認定されたが、今まで通りの日常を何事もなくすごしていた。
あれは8歳の時だっただろうか……
兄さんが剣の勝負で王宮騎士団長に勝ってしまう。という前代未聞の出来事が起こった。
10歳の子供が我が国最強の騎士を負かす……兄さん、化け物?
兄さんは魔力がまったくないが、昔から剣は強い。
才能、力、剣さばき、戦闘センス、どれをとっても、ずば抜けていた。
だからって、我が国の騎士団長に勝つのは、すごすぎだろ……王宮騎士団長も自分の後継者ができたと喜んでいるが。
いいのか? 騎士団長。子供に負けたんだぞ? 大丈夫なのか? この国は……
「おう、ザラ。お前もやるか? 剣の稽古」
ある晴れた日。
空が高く見え、風の心地よさを感じた僕は、たまには外で勉強をしようと思い立ち、庭に出た。
剣の鍛錬をしていた兄さんの横を通ると、手を止め、懐っこい笑顔で僕に声をかけてくる。
「ああ、僕は剣は苦手だから……この本を読みたいんだ」
「お前は、本当、勉強が好きだなぁ」
「まぁ、兄さんよりは」
「言うようになったな」
兄さんは笑いながら、自分の汗を拭く。
「兄さん、ここで本、読んでていい?」
「おう」
僕は兄さんの鍛錬が見える場所に座り、本を開いた。
兄さんは鍛錬の続きを始める。
少年ながら凛々しい顔つきの兄さんは、大人になったら骨のあるいい男になるに違いない。将来が楽しみだ。
おっと、前世の癖で爺さん臭いことを思ってしまった。
兄さんの剣さばきを見ながら感心する。いつ見ても、見事。そして、美しい。
凛とした空気を纏い、鍛錬をしている兄さんの姿は格好良くて、そんな兄さんを眺めるのが僕は好きだった。
「どうした? 全然、ページめくってないじゃないか?」
「あっ」
ぼんやりしていて、兄さんが隣に座っていたことも気づかなかったが、そんな僕に構わず、大きく伸びをして、澄んだ青い空を見上げている。
「あー、剣道やりてーな」
「ケンドー?」
「おっと、なんでもない。独り言だ」
兄さんは笑いながら、僕の頭にポンと手を置くと、懐かしそうな顔をして、空に浮かんだ雲を見つめていた。
今、兄さんはケンドーって言った?
ケンドー? ケンドウ? あの剣道か?
えっ? もしかして……
「兄さん、もしかして日本人?」
兄さんの目を真っ直ぐ見て、ズバリ聞いてみる。
こういう事は直球で聞いたほうが早いし、もし、違っても「ニホンジンってなに?」と聞かれるだけだろうし。
兄さんは大きく目を見開き、口をポカーンと開けていた。
驚きすぎて声が出ないようだ。この兄さんの顔を見ただけで、答えはわかった。
「前世の記憶、あるんだね」
兄さんが唾をゴクリと飲み込む音をたてる。
「ザラ、お前もなのか?」
「そうだよ」
「もう少し、驚けよ」
「いや、だって、実際、僕も前世の記憶、あるしね。他の人にも記憶があってもおかしくないし。兄さんは、前世では剣道をしてたの?」
自分で言うのもなんだが、僕は前世の時から冷めた人間だったと思う。でも、前世の話がこの世界でできるなんて思いもよらなかったので、こんな口調でも僕にしては浮かれていた方だ。
「まぁな、世界大会で優勝もしたし」
「へぇ……剣道の基礎があるから、兄さんの剣は綺麗なんだね。僕の前世の兄さんも剣道の世界では有名だったんだ。変わった名前で、森宮天って言うんだけど。同じ時代ではないかもだけど、聞いたことある?」
つい話してしまったけど、兄さんがいつの時代の人だったか、わからないよな。もしかして、戦前とか下手したら明治とかの人かもしれないし……馬鹿なことを聞いてしまったな……
少し喋りすぎたと反省をしていると、普段無口な僕が饒舌なのが珍しくて驚いているのか、兄さんは僕を凝視し、口を金魚みたいにパクパクさせていた。
ちょっと、驚愕しすぎじゃない?
やっと声を出した兄さんの台詞は、さすがに冷めてる自覚がある僕も腰を抜かしそうになるものだった。
「お前…………雪斗か?」
お読みいただきありがとうございます。
ザラ視点の回です。
ブライトン兄弟の裏話的なお話です。
登場したばかりなのに、3話独占。
さすがは、王宮魔道士長。←なんか違う。




