怒り心頭に発しました……我を忘れた事を謹んでお詫び申し上げます
「アルベルト様……アルベルト様、痛いですわ」
クラリスの声に我に返る。
困った顔をしたクラリスが俺を見上げていた。
「すまん……」
頭に血が上って、気づかぬうちに力いっぱいクラリスの腕を掴んでしまったようだ。
俺はクラリスの腕を離し、悔しさで拳を握る。
クラリスがホッとしたような顔をしたのを見て、怖がらせ、痛い思いをさせてしまった事を痛感し、自分の情けなさに泣きたくなった。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。実はそんなに痛くなかったんですよ!」
悪戯っ子のような目で「ふふっ、アルベルト様、騙されましたね?」と俺に笑いかける。
嘘つけ……俺が力を加減せず、お前の腕を掴んだんだ……痛かったに決まってる。
俺を気遣って、ニコニコしているクラリスに、いたたまれない気持ちになった。
「すまなかった……」
「もう! 大丈夫ですよ! そんな顔しないでください。いえ、それよりもアルベルト様。どうかされましたか? いつものアルベルト様じゃなかったでしたよ?」
クラリスに心配そうな瞳をむけられた俺は、その真っ直ぐな視線から逃れるように、ふいっと顔をそらす。
我を忘れ、クラリスに痛い思いをさせた事は猛省し、心底詫びるが、それとこれとは話は別だ。
どうかしたはそっちだろう!
「お前、簡単に男に触れさせるな。仮にも公爵令嬢なんだからな」
顔をそむけたまま、俺の脳裏にさっきの出来事がよぎり、ギリッと奥歯を噛む。
「公爵令嬢として……うーむ、たしかに」
横目でクラリスを見ると、目線を下に落とし、小さくつぶやいていた。
…………ちがう。
公爵令嬢、だからじゃない……好きだから。俺がお前を好きだから、他の男に触れさせたくない。
「そうですわね。人がいるところでは、気をつけねば。ですね。ご心配、ありがとうございます」
…………ちがーう!
人がいないとこなら大丈夫って意味じゃなーーい!
そっちの方がよっぽど危ないだろ!
「お前……男をあんまり信頼するな。気をつけろ」
俺はクラリスと視線を合わせる事ができないまま、ぶっきらぼうに注意をするが、クラリスは驚いた声を出す。
「まぁ、あのお二方ですか? 王宮魔道士長様と王宮騎士様ですよ? それに、あの方々は私に危害を加えたり、殺したりはしません。ええ……絶対」
なんだか、やけに自信ありげに……見方によっては得意気に答えている。
俺はそのズレた返答に呆れながらも、やっとクラリスの顔をまともに見る事ができた。
「……殺されるって、なんだよ……いや、気をつけろっていうのは、そういうことじゃなくて……男にだな、その……」
「男の方ですか? んー、皆さん優しくしてくれますけど……」
クラリスは目をクリッとさせ、不思議そうな表情をした。
もう! なんて言えばいいんだ……この鈍感!
世の中には、下心っちゅうもんがあるんだぞっ!
「アルベルト様?」
首を傾げながら顔を覗き込まれ、赤面した俺は、再びクラリスから視線を外した。
なぜ、俺が怒っているのか?
なぜ、こんな状況になっているのか?
それは、昨日のお茶会の時間まで遡る……
本日で20話となりました。
皆様、お読みいただき、ありがとうございます。




