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男の夢が叶いそうでした……ゼリー争奪戦勃発です


「食べるのも辛いですか? もしよろしかったら、私が食べさせて差し上げましょうか?」


 はい!? 

 今、なんて言った!?


 食べさせてくれるって…… 

 こ、これは、もしかして……噂のあ~んってやつか!?

 あ~んってやつなのかぁ!!(大事なコトなので2回言いました)


 瞬時に耳まで赤くなったのが自身でもわかった。

 湯気がでるんじゃないかと思うくらい、顔がポッポッと熱くなってきて、そんな自分が恥ずかしくて、すぐさま顔をプイッとそらす。


「まぁ、また熱が出たのかしら。ナクサス、アルベルト様の顔が赤いわ。私、お(いとま)したほうがいいわね」


 膝の上にあったゼリーの箱を隣のテーブルに置き、帰り支度をするため、立ち上がろうとする、クラリス。


 えっ!? まて、まて、クラリス。


 俺が慌てて、クラリスを止めようとするも、クラリスはナクサスに「心配ですわ」と話しかけていて、俺の方を全く見ていない。

 ナクサスはチラッと俺に視線を送り、コホンと1回咳払いをし、説明をする。


「いえ、クラリス様、王子の体調に問題はありません。大丈夫ですよ。ですよね? 王子」

「お、おう」

「なら良いのですが……」


 クラリスは、再び椅子に腰掛ける。


 ナクサス、ナイスアシスト!

 本当に昇給を考えよう。


「アルベルト様、本当に大丈夫ですか?」

「お、おう。大丈夫、だ。それより、ゼリー、食べたいのだが……」


 照れているのを悟られないよう、あらぬ方向を見ながら、クラリスに伝えた。が、どうしても声に緊張していることが出てしまう。


「まぁ、良かった。食欲はあるのですね」


 俺の緊張も何のその、クラリスは気にせずニコッと微笑み「ちょっと待ってくださいね」と言いながら、りんごのゼリーにスプーンをスッと入れ、一口分をすくう。

 

 たまには、鈍感も役に立つもんだ。

 

「はい、どうぞ。アルベルト様」


 俺はぎこちなくも口をあけ……


 こ、これが、男の夢「あ~ん」ってやつだな。

 俺は婚約者なんだし……いいよな?

 


「あ~……ん?」



 俺の耳に、ここにいないはずの聞きなれた人物達の声が聞こえる。


「アルベルト、大丈夫?」

「見舞い買ってきたぞ」


 ゼリーが口に入る、まさに直前。


 ミカエル、ジェスターの悪魔のような声とともに、メイドに先導された2人が元気よく部屋に入ってきたのだ。


 クラリスは無意識にゼリーがのったスプーンを手元に戻し「あら……」とつぶやく。


「な……んで……」


 俺は呆然とし、言葉が出ない。出す元気もない。

 片手を額に当て、苦悩する。


 お前ら…………なんだこのタイミング。

 なんで、来たんだよ……


「王子がジェスター様とミカエル様にも会いたいご様子だったので、早馬を出しておきました」

「まぁ、ナクサス、さすがね」

「お褒めいただき恐縮です」


 ナクサスが澄ました顔で説明しているのが聞こえ、頭の中でぐるぐる回っていた俺の疑問は氷解した。

 恨みがましくナクサスを見るが、ナクサスはどこ吹く風で、無表情で控えている。


 お前ーーーー給料引くぞ!


「アルベルト、ゼリー買ってきたぞ」

「えっ? なに? なんで義姉さまが食べさせてあげてるの!?」

「自分で食べられないほど重症じゃないだろ?」

「それ義姉さまが作ったの? 僕が食べるからさ、アルベルトはお店で買ってきたゼリー食べなよ」

「ああ、そうだな。美味しいと評判の店だぞ」


 2人は怒涛のようにしゃべりだし、俺に話す余地を与えない。


「まぁ、私も評判のゼリーいただきたいですわ……でも、私の分もゼリーを作っちゃって……」


 クラリスが手にしていたゼリーはミカエルが自然な形で受け取った。


 あああ……俺のゼリー……


 ジェスターはクラリスに微笑みかけると、クラリスの分のゼリーを手に取る。


「これは、僕が食べてあげるから、クラリスは買ってきたゼリーを食べなよ。美味しいよ。クラリスの好きなストロベリーのゼリーもあるから」

「わぁ、ジェスター様、ありがとうございます! 良かったですわね、アルベルト様」

「お、俺、……クラリスのゼリー」

「義姉さま、いただきます!」

 

 ミカエルが、パクリと俺の口に入るはずだったゼリーを美味しそうに食べる。


「……あ」


 目の前で起こる事態のスピードの速さに頭がついていけず、クラリスのゼリーはミカエルの口にどんどん入っていく……


「義姉さま、上手に出来てる! 美味しいよ」

「クラリス、僕もいただくね」


 ジェスターは、上品な手つきでゼリーをスプーンですくって口に入れると、うん、美味しい……とつぶやき、ゆっくりゆっくり噛みしめる(ゼリーなのに!)その目は本当に嬉しそうな目をしていた。


「あ……」


 俺……の……ゼリー……


 最後に残ったゼリーに賭け、今まで静観していたナクサスに強い意志を込め、視線を送る。


 お前がもらったゼリーは残しとけ!!


 ナクサスは俺の視線を受け、したり顔で頷くと、クラリスに静かな笑顔をむけた。


「クラリス様、ゼリー美味しゅうございました」


 もう食べたのかぁ!?


「あら? ナクサス、もう食べたの?」

「このナクサス、クラリス様のお手製のゼリーがいただけて、感激でした。ごちそうさまでした」

「まぁ……嬉しいわ。ナクサス」


 かくして、俺のために作られたクラリスのゼリーは、俺の口に入ることなく、消え去ってしまった……



 失意の中、俺は決めた。

 ナクサスは当分、減給にする、と。




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