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死を覚悟しました……いや、冗談抜きで

 

 やばい、死ぬ。本当に死ぬ。

 

 俺は川の中で必死にもがく。

 魔法で手のひらから風を出し、川底にむけるが、川の流れが思ったより早く、水流に負けてしまう。

 

 ダメだ、威力が弱い。

 息が苦しい……もう少し、もう少し……魔力を……


 体に眠る全魔力を手のひらに集中させるが、意識が遠のきそうになる、何度も何度も。


 俺……死ぬのかな……

 息が……そろそろ限……界……


 ぼんやりした頭に泣いているクラリスの姿がよぎる。


 俺が死んだらクラリスが泣く…………たぶん。


 死ねない……


 魔力集中で手のひらが熱くなるのを感じ、体内全魔力を風に変える。


 川底に向け、一気に放出し、手から放たれた暴風の勢いで俺は川から抜け出し、息を思いっきり吸った。


 ふぅ……助かっ…… 


 だが、一難去ってまた一難。

 勢いよく放出した風によって、俺の体は高く高く空に浮かび……風魔法が止まってしまった。


 ……え? 今?


 落下の一途を辿る、俺……ええっ!?


 やばい、やばいってば!

 

 必死に風を出そうとするも、手のひらから出てくる風は、とてもかわいらしい音を立てる。


 プシュン、プシュン


 役に立たねーーーー


 落下スピードが早すぎて、俺の頭が追いつかない。


 コレ、俺、死ぬ、かも。

 

 人間とはすごいものだ。

 死を覚悟しても、なんとか助かろうと体が動く。

 

 俺は川岸に叩きつけられる直前に、無意識に体にシールドを張り、衝撃を抑えた。

 

 うつ伏せのまま落ちた体をゴロンと仰向けにし、大の字になる。

 力を使いすぎて、立ち上がることができない。


 びびった……はぁはぁ……相変わらず……容赦ない……はぁ……ザラ、ほんと、こえーー


 足りなかった酸素を思いっきり取り入れ、俺は青い空を見る。


 ああ、生きてる……


 

 しばらくその場から動けなかったが、早く帰らなくては……と考え、息を整え、なんとか立ち上がる体力も戻り、辺りを見渡した……そして思う。



 ココドコ?



 俺が立っている場所……草が青々と生い茂り、聞いたことない鳥達の鳴き声がチューンと響く。

 のんびりとした雰囲気に王都ではない事だけはわかった。

 

 お、王国内……だよな?


 きょろきょろしていると、通りすがりのじいさんが不思議そうな顔をする。


「兄ちゃん、何やってんだぁ? 泳ぐにはまだ早いじゃろ」


 その言葉で気がつく。

 

 俺、服、びしょびしょ……


 気がついてしまうと、急に気になるもので……濡れた服が肌にぴったり張り付き、ブルッと体を震わせる。


「すいません。ここどこですか?」

「えっ? 兄ちゃん、記憶ないのけ? ここはマダリヤだけんど」


 マダリヤーーーーー!?

 めちゃくちゃ王都から遠いじゃないか!


「大丈夫けー、兄ちゃん」

「あ、はい」

「この辺じゃ見かけん顔じゃんけ、どこから来たんだ?」

「えーと……少し遠くからですかね……記憶はあるので大丈夫です。ありがとうございました」


 こんなところに、この国の王子が供もつけずにびしょ濡れで立っているなんて、誰が信じるだろうか……いや、誰も信じまい……


 俺はじいさんにお辞儀をして歩き始める。

 じいさんは「気ぃつけてなー」と言うと、反対方向に歩いていった。


 少し離れ、人がいない事を確認し、飛行魔法を使うが、俺の魔力じゃ一気に王都へ帰れない。

 休み休み、王都にむかい、王宮が見えた頃には夕焼けが空一面広がっていた……


 ちくしょー、夕日が目に染みるぜ。


 やっと王宮にたどり着いたボロボロの俺は、門番に偽物じゃないかと疑われ(ちゃんと仕事してえらいネ)、すったもんだありながらも、やっとザラの執務室の前に立つことができた。


 自分の頬を両手でパシッと叩き、背筋を伸ばし、ザラの執務室をノックする。


「ザラ先生、戻りました」

「遅かったですね」


 ザラはチラッとだけ見ると、すぐに書類のチェックを始める。

 机の上の書類の山は2つ減ってはいたが、また、新たな山が3つできていた。


「ジェスターはもっと早かったですよ。川を脱出時の風魔法、もっと効率よく使いなさい。魔力集中も時間がかかりすぎです。魔力コントロールが悪いから魔法が切れ、落下したのです。落下時にシールドを張ったのは、悪くない選択ですが、もう少し早く張りなさい。飛行魔法の飛行距離をもう少し伸ばすように」


 書類を確認しながら、俺の顔を見ずに一気に指摘するザラ。


「……はい」


 ……全て、お見通しでしたか。


 半端なく疲弊した俺は、私室に戻り、すぐに眠りについた。




「俺がクラリスを守る。ジェスターでもミカエルでもなく、俺が守る」


 夢の中で何度もクラリスに誓いを立てる俺がいる。

 

 クラリスは穏やかに微笑んでいたが、なぜかザラと王宮騎士が1人、クラリスの前に立ち、俺はクラリスに近づけない。


 えっと、あの騎士の名は、たしか……


 俺はそこで目が覚めると、ゾクッと背中に冷たいものを感じた。


 時計を見ると、日付を超えたばかりで、もう1度ベッドに潜り込む。


 嫌な夢だ……

 久々の鍛錬で疲れすぎたか……

 ザラと王宮騎士が俺の前に立ちはだかる夢なんて。

 あの、王宮騎士は……


 ゾゾッと悪寒がしたが、俺はたかが夢だと思い直し、そのまま眠ってしまう。


 

 次の日、俺は風邪を引いていた。




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