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マッチとポンプで異世界神様業  作者: ゆうと
第Ⅸ部:知己朋友編
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閑話:フェイスレス騒乱(1)

 こちら、「閑話:おサボり守護神によるひそひそ仕事(6)~」に登場したナナシさん(本名:ハグリット・グルーセル・ディプトン・フォン・ダマルカスタ)の視点です。

 





「おぃ! 新入り! てめぇ何べん言えば覚えんだ? あぁん?」

「すいやせん! ()()()!」


 はぁ。

 ったく。

 今日も始まりやがった。このやり取り……無駄に長ぇんだよなぁ。

 親分も、親分だ。

 毎回、俺たちを整列させて。

 毎回、このやり取りを聞かせやがる。「これは新入りへの説教だ! 見せしめだ! だから全員聞け!」とかなんとか言ってよ。


「だからよお! それだよそれ! それを! その()()()って呼び方をよぉ! いっさいがっさい止めろって言ってんだろうがよぉ? あぁん?」

「わかりました! オレっち頑張ります! 親びん!」

「てんめぇぇぇぇ! 俺の話を聞いてねぇのか? あぁん?」

「もちろん全力全集中で聞いておりますです! 親びん!」

「聞いてねぇじゃねえか!」

「しかし親びん! 親分を親びんと呼ぶのはオレっちの生まれ故郷では最高に最大級の尊敬の表れなのでありますからして! だからオレっちが親びんのことを親びんと呼ぶのはこれはもうしかないことなのであります! ふむ!」

「尊敬?」

「はい!」

「最高の?」

「はい!」

「最大級の?」

「です! 親びん!」

「ったく、仕方ねぇなぁ。今日だけは許してやる。お前にだけ特別に、だ。わかったら返事しやがれ! あぁん?」

「はい! 親びん! ありがとございますますです!」

「今日だけだからな?」

「はい!」

「特別に、お前だけだからな? あぁん?」


 いや、わかってるから。

 間違っても俺らは呼ばねぇから。あんたのことを親びんなんて。


「ありがとうございますますです! 親びん!」

「おぉよ! 感謝を忘れんじゃねぇぞ?」

「もちろんですとも! ふむ! それにしてもさすがオレっちの親びん! 心がでっかく寛大でカッチョ良いことこの上ないのでありますからして! やはりもう尊敬不可避! 大尊敬不可避! ゆえにゆえに今日もオレっちは親びんのことを親びんと呼ばせていただきますのであります! ふむ!」

「おぃ、新入り。てめぇ今、なんて言った?」

「尊敬不可避です親びん!」

「おぉよ! で、その前だよ前。なんて言った?」

「寛大でカッチョ良いです!」

「あぁん? 寛大でカッチョ良い?」

「もちろんであります! 親びんの寛大さはこの星を包むレベルなのでありますからして! カッチョ良さと言ったらそれはもう……もうこの地上の言葉では説明のしようもないくらいに表現できないレベルに達しておられるのでもうこれ以上もうもうもう言いようがないくらいなのでありますからして! ふむ!」

「っち。手下にそこまで正直に褒められちゃぁ仕方ねぇ。説教はこれくらいにしといてやらぁ」

「よっ! さすが親びん! 凄いぞ凄いぞ親びん! 器がデカいぞ親びん!」

「おぉよ!」


 ふぅ。

 ようやく終わったか。

 ま、今日は短い方だったな。助かるぜ。


「よし! テメェら! 飯だ飯! 明日に備えて英気を養いやがれ!」


 その一言を待ってましたと言わんばかりに、皆がテーブルに駆け寄る。


「いやっほぃ! さっすがお(かしら)! 気前がいいぜ!」

「ありがたく頂戴します」

「あざますですです! 親びん!」


 口々に感謝の言葉を伝えながら。

 木製のジョッキになみなみとワインを注ぎあって、お頭とそれぞれ乾杯した後、料理を口に運ぶ。


「おぃ、ナナシ? ボケっと突っ立ってどうしたってんだ? 腹でも痛ぇのか? 」

「や、大丈夫っす。何から食おうかなぁって迷ってました」

「なんだおめぇ、飯食う時にまで頭使ってんのか? いいからさっさと食いやがれ!」

「はい! いただきます」


 こんな感じでこの親びん、あ、違う違う。この親分‐‐‐ドッスンは、気前がいい。前に仕えてたボスとは大違いってもんさね。

 さっきみたいに新入りに言いくるめられてる感じもあって、頭はちょっとアレだ。見た目もちょっと、いやかなり強面なアレだけど。

 豪気で憎めない人柄。まったくもって、前に仕えてたボスとは大違い。

 手下に好かれたいからか、尊敬されたいからかわからんが、本当に気前がいい。毎回、ちょっとデカい仕事の前にはこうやって、手下に食い物と酒をふるまう。

 そしてこの食い物が……ばかうめぇ。

 マジでうめぇ。

 いったい誰がつくってんのか、どうやってつくってんのか俺にはわかんねぇけどもよ。王様だってこんな美味いもん食えねぇだろって思うレベルでうめぇ。

 香草を使った鳥肉の炒め物は、お好みでレモンを絞れる。味の仕上げを自分好みにできるなんて……考えたやつ天才か。天才だな。

 このピザとかなんとかいう料理は、パンにチーズを乗っけて焼いただけかと思いきや……トマトベースのソースが甘みがチーズと奏でるハーモニーがやべぇ。

 サラダとかいう野菜だけの料理も人気だ。このゴマ風味のドレッシングが野菜のうま味と歯ごたえを引き立ててくれるからに違いない。

 だからこの飯を食ったが最後、仕事の不満なんざ吹き飛んで、みんなすっかり親分の虜になっちまう。


「プハァ! うめぇっ!」

「お? ヤス、いい飲みっぷりじゃねぇか!」

「はいお頭! 飯も酒も今日も最高でさぁ!」

「そうだろうそうだろう!」

「 で、お頭! 明日はどんな仕事で?」


 がぶ飲みしたワインを袖で拭った後、今日もフードをかぶったままのヤスが、親分に話を振った。なんでも首と背中の傷を隠すためだとかで。割と礼儀にうるせぇ親分もヤスに「食事中はフードをとれ!」だなんて説教はしねぇ。

 もちろん、その傷にはどんな物語があるんだとは、親分は聞かねぇ。俺らもだ。

 まぁ、こんな組織だ。

 過去に知られたくねぇ話が山盛りの連中揃いなのは明らかで。

 互いに過去に触れそうな話題は避けあう。それがここでの流儀ってもんさね。


「なんだヤス、仕事が気になんのか? あぁん?」

「あったり前でさぁ! こんなうめぇもん食わせてもらっちゃ頑張るしかねぇってもんでさぁ。下手しでかさねぇように、ちゃんと仕事の内容を覚えて、今夜のうちにしっかりと準備しねぇと!」


 ヤス、真面目なんだよな。

 いっつもニヤニヤニタニタしてるくせに。

 魔法と近接戦が得意な実力派。特に魔法の高速詠唱は目を見張るものがある。観と勢いで唱えてると言ってるが、それが本当なら天才だ。魔法の。

 だが勝負となると卑怯なことを……近接戦で目つぶしや金的攻撃を好んで選ぶ。おそらくこれまでの人生…ケンカで学んできた戦い方だろう。勝利に美学はなく、ただ勝ち負けがあるだけって感じさね。


「ヤスに同意します。ぜひ明確な説明をお願いしたい」


 こっちは(かえで)。おそらく元はどこぞの貴族……その落ちぶれた現在、って感じだな。身だしなみには気を遣うし、食事中も姿勢を崩さねぇし、なにより言葉は丁寧だがどこか偉そう。間違いない。ちょっと大物だったはずさね。

 そしてコイツは、腕が立つ。幼少期よりしっかりと剣を習っただろうことは、その構えや剣筋から明らかだ。剣をちょこっと齧ったことがあれば誰でも知っている名門流派……おそらく奈落白夜流の流れを、楓は組んでやがる。強いのは強いが習うのにとんでもなく金がかかる流派、としても有名だ。

 ケンカまみれの人生を送ってきただろうヤス。貴族ライフを送ってきただろう楓。

 一見すると水と油な感じなくせによ。なぜか二人とはそりが合うらしい。仲良く二人で雑談している姿を、割とよく見かける。


「楓も気になるってんなら仕方ねぇ! 話してやるか!」


 ドンっとテーブルにジョッキを置いた親分。

 常に豪快。

 常に豪気。

 実に男前な……ヒュムのおっさんだ。ワインは既に5杯目。飲み比べで負けたことがねぇって自慢話は、まんざら嘘でもなさそうだ。


「よっしゃ! さすがお頭だぁ! 一生ついていくぜ!」

「ヤス、落ち着け。まずはお頭の話を聞こうではないか」

「おぉっと、すまねぇ。お頭、頼んます!」

「俺からもお願いします」

「頼みますです親びん!」

「ったく、ナナシに新入りにまで頼まれちゃあ仕方ねぇ! でもまぁちょっと待て! ワインをもう一杯飲ませろ」


 そそくさとワインを注ぐ新入り。半月ほど前に加入したばかりで、素性は他の奴らよりさらに不明。顔もわからん。なにせ、武装する変態錬金術風仮面とやらで、いつも目元や顔の多くを隠してやがる。それに、おそらく認識阻害の機能が付いた仮面なんだろう。顔の輪郭さえ、判然としねぇ。

 でも、わかってることが一つだけある。

 コイツは……ヤバい。


「ぷっはぁ! よっしゃお前ら! 気合い入れて聞けよ! あぁん?」

「へい!」

「しかと」

「はい」

「おっけーですです親びん!」


 皆の視線が集まる中、六杯目のワインを空にした親分は、ニヤリと笑った。


「標的は……王城だ。その宝物庫からたっぷり頂いてやろうぜ?」


 しばしの沈黙。

 高鳴る動機。

 ヤスは両目を見開いて。楓は口を少し開いたまま。

 皆、動揺しているらしい。

 もちろん、俺もだ。

 完全に想定外。

 なにせ親分は……この組織は、いわゆる義賊。

 悪徳商人や貴族から財を頂いて、貧しき者や困っている者に配分する。それを必要悪だと断言してきた。そこに共感して集まったメンバーから構成された組織がうちだ。

 そんな親分が、王城の宝物庫をねらうという。

 それじゃもうただの悪党だ。

 話が違う。

 皆、そう言いたい。

 でも、どう伝えていいかわからない。

 そんな表情だ。


「親びん! 質問してもよろしいでありますか?」

「おぅ! 何でも言ってみやがれ!」


 こういう時、新入りはいい。

 うちの事情をよくわかってないから、率直な質問ができる。俺と同じことを考えたのか、ヤスと楓が新入りをじっと見つめる。期待を込めたまなざしで。


「王城の宝物庫から、何をたっぷり頂くつもりなのでありますからして?」

「おぉ! いい質問しやがるじゃねぇか新入り! 今回の獲物だな? そうさ、そこなのさ。今回のターゲットを王城にした理由はよ、そこにあんだよ」


 親分も、わかってたらしい。

 楓とヤスが困惑するだろうってことを。


「お前ら、王城の宝物庫にゃ、あの記録が眠ってる。いやこれは間違いねぇ情報だ」

「記録? でありますか?」

「記録ってお頭…」

「…まさか」


 いや、いやいやいや。

 マズい。マズいマズいマズい。

 それはマズい。


「あぁ、そうさ。楓とヤスは知ってやがるみてぇだな? ヒュム族の多くの民が開示を求めているものの、今なお王家が開示を阻み続けている。あの記録だ」

「……正気かよ、親分」

「なんだナナシ、お頭に反対なのかよ?」

「や、そういうわけじゃねぇ。そういうわけじゃねぇが……相手は王家だぞ? しかも財宝じゃねぇ。記録だ。配っても一文の特になりゃしねぇ。それに王家が悪事を働いたってわけでもねぇ」

「ナナシよ、それは違うんじゃねぇか?」

「あぁ、そうだ。ヤスに同意する。ナナシは理解できていない」

「理解できてねぇ?」

「あぁ、そうだ。多くの国民が長らく知りたいと願っている。その記録を独占している時点で、王家は悪事を働いているとみなせる」

「だな。楓に同意するぜ」

「あぁ、ヤスと楓の言う通りだ。国民の知りたいという思いを成就させる。これも俺たちの立派な仕事……必要悪だろう?」


 親分の言葉に、古参の楓とヤスが迷いなく頷く。

 こうなれば俺に、もはや反対票を入れる資格はねぇってことさね。


「ヤス、楓、ナナシ。そして新入り。今回もお前らに働きに期待してるぜ? あぁん?」


 きょとんとしたままの新入りをよそに、親分と乾杯を始めたヤスと楓。どうやら新入りは、本当に知らないらしい。記録について。


「特にナナシよ、お前の精霊は今回も協力してくれるよな?」

「あぁ、親分。協力は得られる。間違いなく」

「そいつを聞けりゃ安心だ! 頼りにしてるぜ? あぁん?」

「任せてくれ」

「ふむ? 精霊ってことは今回も、姉御の出番ってことでありますか? 氷の兄貴!」

「あぁ、そうなる。なにせ相手は王族だからよ。こっちも本気でいかねぇと」

「これは大興奮間違いなしの激アツ展開不可避! なにせまた姉御と兄貴の連携技が見られるってことでありますからして! ふむ!」


 楽しそうに万歳するこの新入り。

 おそらく、相当に頭が切れる。

 こいつがうちの組織にやって来てから、負けなしだ。全ての作戦行動が計画通りに進みやがる。

 それに、武芸のたしなみもあるらしい。

 コイツが加入してからも、これまでの作戦行動であぶねぇ場面は幾つかあった。特にあの時はヤバかった。悪徳貴族が雇った護衛とのお宝攻防戦。互いに大けがを負う事態に発展したくらいさね。

 間違いなく、ケンカを売った相手が悪かった。

 なにせ相手は、新進気鋭の竜人族冒険者パーティ。

 その名も【純潔の守護者】。

 花龍のナック、氷龍のゼニス、雷龍のキリトといえば、実力とルックス、人格を兼ね備えた冒険者として名高い。攻守のバランスも良かった。

 近距離戦に強い前衛、剛腕のナック。花龍の能力でこちらのデバフと自己バフとを同時展開しやがった。こちらを殴りながら、だ。

 攻撃を回避しつつ、デバフ分をバフ魔法で補おうとする俺ら。それを俊敏な動きで邪魔したのがキリト。雷龍の能力で敏捷性爆上げしつつ麻痺付与効果のある蹴りを連発してきやがった。そんな二人に氷の姉貴の力で広範囲攻撃を仕掛けた。二人を凍らせた隙に戦線離脱……そんな目論見でぶちかました俺の攻撃は、残念ながら失敗に終わったわけだ。ゼニスだ。氷龍の能力で氷壁を創成し、ナックとゼニスの二人を完璧に守りやがった。

 まさに完璧。完璧な連携ってやつさね。

 それにさすが竜人族。威力満点の攻撃の数々。

 当然、こちらも魔法や精霊召喚で全力で抗った。

 抗ったが……大怪我を負った。ヤスも、楓も、親分もだ。

 そんな激しい戦闘で、コイツが負った傷はゼロ。切り傷どころか、擦り傷一つ負わなかった。

 そして、この後からだ。

 新入りが親分の作戦に、提案をしだしたのは。

 それ以降、俺たちの作戦は失敗なし。多少の攻防が相手と繰り広げられることはあっても、大きな怪我もなし。

 親分が今回のターゲットに王城を選んだのも、コイツのおかげで成功する可能性が高いと考えてのことだろう。


「お前ら、腹は膨れたか? あぁん?」

「堪能しました。ごちそうさまです」

「満腹満足でさぁ!」

「俺もです」

「親びん最高です!」

「よっしゃ! じゃあ、今から作戦を伝えるぞ! 今日も意見を自由に言ってくれ!」


 ニヤリとしながら新入りを見た親分。

 それを見つめるヤスと楓。


「親びんのために頑張りますです! はい!」


 元気いっぱいの新入り。

 どうやら胃が痛いのは、俺だけのようで。

 とりあえず氷の姉貴に、なんて説明したらいいもんかなぁ。

 ……はぁ。







 今日もありがとうございました!

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