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白い空【第六話】

「……」


 私は自分の皿へ手を触れた。

 すると、料理の中からにんじんだけがスッと抜け出し、他の子どもたちの皿へ飛んでいく。


「リリーありがとー!」


「リリーやさしー!」


「ふんっ!」


 得意げに胸を張る私へ、ルークが呆れたように口を挟んだ。


「何いいことしたみたいな顔してるんだよ。ただ嫌いなもの押し付けてるだけだろ?」


「違う」


 私は大げさに肩をすくめた。


「私は嫌いなものを食べなくてすむ。みんなは少しでも多く食べれれる。誰も”損”してない。合理的でしょ?」


「…………」


 ルークは無言で、自分の皿のにんじんをスプーンですくった。


 そして――そのまま私の口へ突っ込んだ。


「むぐっ――!?」


 数秒後。


「うおえぇぇぇぇ……!」


 ルークが腹を抱えて笑う。


「リリーへんなかおー!」


「リリーぶさいくー!」


 食堂に笑い声が広がった。


「ちょっと、何してるの?あなたたち」


 困ったようなアンバーさんの声。

 みんなの笑い声。

 温かな食堂。


 ――その思い出は。


 血の臭いに塗りつぶされた。


 * * *


「っ……ぁ……」


 私は吐き出した。


 血の臭い。

 臓物の臭い。

 吐瀉物の酸っぱい臭い。


 ――ルーク。

 そうだ。

 ルークと合流しないと。


 ふらつきながら歩く。

 視界が揺れる。


 すると、何かへ足を引っかけた。


「……っ」


 視線を落とす。

 そして――見てしまった。


「……え?」


 床へ転がっていたのは、ルークだった。


 仰向けに倒れている。

 頭から大量の血が流れていた。

 後頭部の周囲が、淡い赤色に濡れている。


 違う……

 違う違う違う。


 だってさっきまで。

 さっきまで普通に喋っていて。

 一緒に青空を見に行くって。


 約束し――


「……し?」


 死。

 その言葉だけが、頭の中で浮かぶ。


 理解できない。

 したくない。


「あ……あ……」


 ――バンッ!


 破裂音が鳴った。

 遅れて、肩へ焼けるような熱が走った。


「あ……?」


 何が起きたのか分からない。

 ただ、体から力が抜けていく。


 指先が冷たい。

 息がうまくできない。


 私はゆっくりと崩れ落ち――ルークへ覆いかぶさるように倒れこんだ。


 ――もうどうでもいい。

 私のすべては壊れてしまった。


 夢も。

 居場所も。

 ルークも。


 生きる理由なんて、もうない。

 このまま一緒に死ねれば、それでいい。


 コツ、コツ、と死神が近づいてくる。


 ルークに覆いかぶさったまま、私は薄く目を開ける。


 ……ルークと一つになるような感覚。


 黒装束の男が、黒い武器をこちらへ向ける。

 装備の一部は焼け落ち、穴が開いていた。


 私はゆっくりと、自分の肩を見た。


 そこには鉄塊が埋まっていた。


 これは、”あいつが撃った”もの。

 元々は、”あいつの中に”あったもの。


 そして――私とこれは”別々”だ。


「……お前だけは」


「殺す」


 肩の中の鉄塊が、肉を裂いて飛び出した。

 一直線に飛んだそれは、男の首の”穴”を貫く。


 黒装束が崩れ落ちた。

 私は、その死体を蹴り飛ばした。


 そして、小さく呟く。


「これで”公平”だ」


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