第6話 『朝の約束、桜の下で』
屋上。
朝の光が桜の枝を透かし、淡いピンクの花びらがゆっくりと舞う。
風が頬を撫で、花びらが二人の周りで揺れる。
世界は静かで、まるで二人だけの時間が流れているかのようだった。
「……おはよう、さくやさん」
陽菜は小さく声を出す。手のひらは少し緊張で握られていた。
「おはよう、ひな」
さくやは微笑み、視線を陽菜に落とす。
「今日は……少し早く来ちゃったね」
「はい……昨日のことが頭に残っていて、安心したくて……」
言葉にした瞬間、胸が少しざわつく。手のひらをぎゅっと握る。
「そうか……でも、手を握ってくれた君の温もり、僕には十分伝わったよ」
陽菜の頬が赤く染まる。胸がぎゅっと締め付けられ、心臓の鼓動が少し速まった。
「……そ、そうですか……」
「もちろんさ。ひなが怖かったり、不安な時も、僕はここにいる」
その言葉に、陽菜は目を細め、小さく頷いた。
沈黙が少し流れる。
風が桜の花びらを揺らし、光が花びらに反射してちらちらと舞う。
陽菜がぽつりと呟く。
「……花びら、きれいですね」
「うん、ひなと一緒に見ると、もっときれいに見える」
その言葉に、陽菜は頬を少し背けるが、目は笑っている。
「……さくやさん」
「ん?」
「今日、一緒に屋上で朝ごはん、食べませんか?」
「もちろん。ひながそう言うなら、何でも付き合うよ」
陽菜の胸が少し高鳴る。
「……嬉しいです!」
「僕も楽しみだ」
二人は小さなブランチを広げた。
パン、フルーツ、温かい紅茶。
陽菜は少し緊張しながらも、さくやと一緒に食べる時間が心地よく、自然に笑みがこぼれる。
「……ひな、昨日の話、覚えてる?」
「はい……手を繋いで、怖くても一緒に進むって……」
「そう。その覚悟を、今日も君に感じたい」
「……はい、私も、さくやさんと一緒なら……頑張れます」
「それにしても、ひな、笑顔が増えたね」
「……そうですか?」
「うん、君が安心しているからだと思う」
陽菜は少し恥ずかしそうに微笑む。
「……ねぇ、さくやさん」
「ん?」
「もし、また怖いことや悲しいことがあっても……」
「僕がいる。ひなが振り向くその時には、必ず手を握ってる」
「……はい……ありがとう、さくやさん」
話は少し弾み、昨日の思い出やちょっとした日常の出来事を交わす。
陽菜が紅茶の湯気を見つめて呟く。
「……湯気が、さくやさんの匂いみたいです」
「匂い……?」
「はい……安心する匂いです」
さくやは微笑み、そっと陽菜の手を握る。
「それは嬉しいな、ひな」
風がそっと吹き、花びらが二人の手元に舞い落ちる。
陽菜の指先とさくやの指先が触れ合い、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
互いの呼吸が少し重なり、時間が止まったように感じる。
「……さくやさん」
「ん?」
「私、ずっと……こうやって、あなたと一緒にいたいです」
「僕もだ、ひな」
手の温もりが、言葉以上の安心と勇気を陽菜に与える。
「……ねぇ、これからも、いろんなことを二人で経験していけますか?」
「もちろんさ。怖いことも、悲しいことも、喜びも、全部一緒に」
「……はい……嬉しいです」
陽菜の目がうるみ、でも笑顔は止まらない。
二人は笑い、話し、時には真剣な顔で将来のことを語る。
小さな日常の中で、手を取り合い、互いの心の奥まで触れ合う。
桜の花びらが舞い、光が揺れる中で、胸の奥にじんわりと温かさが広がった。
「……さくやさん、今日のこと、覚えててくださいね」
「もちろんだ。ひなと過ごす朝のこと、全部覚えてる」
「……それなら、安心です」
陽菜は深く息を吐き、微笑む。
その笑顔は、昨日よりもっと強く、もっと温かかった。
風が吹き、桜の花びらが二人の周りで舞う。
二人の絆は日常の中で少しずつ確かに深まり、未来への希望として胸に刻まれていく。




