第4話『揺れる心、交差する想い』
屋上。
風は穏やかになり、桜の花びらが静かに舞う。
「……さくやさん」
陽菜がそっと声をかける。
「ん?」
「昨日のこと、覚えてますか?」
「もちろんだよ」
「……私、覚えているんだか、覚えていないんだか……」
「……ひな」
自然と名前を呼ぶ声に、自分でも驚く。
陽菜は少し笑った。
「……呼ばれると、なんだか安心します」
「……僕もだ」
風に吹かれ、二人の髪が絡まるように揺れる。
目を合わせるだけで、言葉以上のものが伝わる気がした。
「ねぇ、さくやさん」
「……ん?」
「もし、思い出したくないことを思い出したら……どうしますか?」
「……怖いよな」
「……はい、怖いです」
「でも、君と一緒なら……少しは乗り越えられる気がする」
「……さくやさん……」
陽菜の瞳が揺れる。
「……ひな」
「……はい」
「もし、辛いことがあっても……僕のそばにいてくれ」
「……ええ、さくやさん」
小さく頷いた陽菜。
二人の手が重なる。
その瞬間、胸の奥が温かくなる。
「……手、冷たい?」
「……少し」
「……でも、僕の手の方が温かいから」
陽菜は笑う。
「……さくやさん、冗談も言えるんですね」
「……君といると、自然に笑えるんだ」
沈黙が訪れる。
でも、その沈黙は決して寂しくはなく、心地よいものだった。
「……ねぇ、さくやさん」
「……ん?」
「これから、私たちはどうなるんでしょう」
「……それは……僕たち次第だ」
「……さくやさん……」
「怖いことも、悲しいこともあるかもしれない」
「……はい」
「でも、僕は君と一緒に歩きたい」
「……私も、さくやさんと」
桜の花びらが舞い、光が二人を包む。
「……ねぇ、さくやさん」
「……うん」
「私、名前も思い出も全部忘れてしまったけど……でも、今、こうしてあなたといることは忘れたくないです」
「僕もだ、ひな」
その言葉に、二人の胸は強く響く。
「……ありがとう、ひな」
「……さくやさん」
風がやさしく吹く。
桜の花びらが舞う。
揺れる心が交差する瞬間、二人の絆は静かに、しかし確かに結ばれていく。




