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『ケモ耳っ娘になったからには』『招かれざる獣たち』おまけ閑話集  作者: 都鳥


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【ケモ耳】仲間(試し読み用、本編抜き出し/閑話S17)

昨年開催された「文学フリマ43」にて配布した、ケモモフの試し読み用短編です。本編から56~58話を抜き出して書き直しました。

筋をわかりやすくする為にいくらかシーンを変えておりますが、その旨ご了承ください。


 王都シルディスの西地区にある冒険者ギルド。ここが普段の私たちの居場所で帰る場所だ。

 黒髪黒毛の狼獣人の私は、『冒険者』になる為に1年半前にこの国にやってきた。

 1年間の見習い期間を経て、15歳になり成人と同時に『冒険者』としてデビュー。Fから始まる冒険者ランクを、この半年でCまで上げた。

 私がこれほどに早くランクを上げることはできたのは、Sランク冒険者としての前世の記憶とスキルがあるからで、このことは仲間たちにも明かせない秘密だ。



 今朝まだ朝早い時間に、ホールにあるテーブルに私の仲間たちが集った。


 一番背の高い栗色の髪の青年が、Aランク冒険者のデニスさん。

 彼は気のいいお兄さんのような存在で、この冒険者ギルドの若手たちの面倒見役をしてくれている。といっても、彼もまだまだ若いんだけどね。今は23歳だそうだから、私より八つも年上のお兄さんだ。


 やたらとはしゃいでいる金髪の少年は、冒険者見習いのニール。

 彼曰く、田舎の貧乏貴族の出身だそうだ。でも本人を見ている限り、そんないい育ちのお坊ちゃまには思えないけどね。


 ニールはいつもBランク冒険者のアランさんと一緒に行動している。

 ニールの隣に座る銀髪の青年がアランさんで、ニールの先生役をしているそうだ。冒険者としての指導をするだけでなく、ニールと一緒に暮らしていて生活態度などにも目を光らせているらしい。

 いつもは生真面目で物腰の柔らかいアランさんが、今日はめずらしく落ち着かない。というのも、今日は特別なゲストがいるからだ。


 アランさんの正面の席に座っているのがその『特別なゲスト』。大先輩冒険者、Sランクのシアンさんだ。

 デニスさんと同じ栗色の短い髪。デニスさんアランさんの穏やかな目と対照的に、彼の目は鋭くツリ上がっている。その目の片方は眼帯で覆われていて、それがさらに彼の相貌を悪人の様に見せている。

 でも彼はそんな悪い人ではない。昨日初めて出会ったばかりの私を含め、ここに居る全員がそのことを知っている。

 この国は神代からの長い長い間、おおよそ20年ごとに復活する『魔王』との戦いを繰り返してきた。魔王復活の兆候が現れるたびに、国は7名の精鋭による魔王討伐隊を選出した。シアさんは、前回の魔王討伐隊のメンバーの一人なのだ。



「ったく、朝からおっさんは元気だよな」

「相変わらず俺に対しては口わりぃのな。俺のことは『お兄さま』と呼びやがれ」

 デニスさんがシアさんに向けて言うと、慣れた様子でシアさんが軽口を返す。

 二人がそんな風に気軽に言葉をぶつけ合うのも、シアさんのような有名人が私たちと同じテーブルについているのも、理由がある。孤児院育ちのデニスさんを幼い頃から面倒を見ていたのがシアさんで、二人は兄弟のような関係なのだそうだ。


 シアさんは、楽しそうに皆の顔を見回して言った。

「で、今日はクエストとか行くのか? 皆で行ったら楽しいよな。どうだ?」

 それに真っ先に応えたのはニールだった。

「俺、シアンさんとクエスト行きたい!」

「いいけど、おっさんは見物な」

 デニスさんがそう言って釘を刺す。

「えー、なんでだよ」

「おめー、自分のランクを忘れてんのかよ。Sランクどころかそれ以上のヤツが、俺らと一緒のクエストに参加出来るわけないだろうが」

「そんなこまけーこと気にすんじゃねえよ」

シアさんはいつもの様に笑って誤魔化した。


 * * *


 結局、5人でオーク狩りに行くことになった。

 デニスさんもシアさんも肉が食えるなと喜んでいる。二人ともよく食べるからこういうクエストが好きなのよね。


 ニールは弓を使うらしい。まだ見習いなので、比較的安全な場所から戦えるようにとの、アランさんの判断だろう。剣士のアランさんと組んで戦うそうだ。

「以前よりは上達していますが、他の皆さんの邪魔にならないように、気を付けてくださいね。それから――」

 アランさんの言葉に、ニールがうんうんとひたすら頷く様子が、まるで首振り人形のようで少し面白い。

 そんな彼らを見ながら、右手に嵌めた鈎爪(クロー)のベルトを締めなおした。


「よっしゃー、おびき出すぞー」

 魔獣寄せの笛を手に、シアさんは皆に声をかける。

 これだけの人数がいるからと、彼が選んだオークの集落は、この辺りで一番の大きさの所だ。


「おっさんが本気だすんじゃねえよ。あいつらの出番が無くなっちまう」

 デニスさんの言葉に、シアさんはニヤリと笑う。

「俺を誰だと思ってるんだ? 元・魔王討伐隊の『サポーター』だぜ?」

 そう言ってシアさんは、空に向かって笛を長く吹いた。


「魔獣に魔族、もちろん魔王もだが、こいつらを倒すのは『勇者』か『英雄』じゃなきゃいけねーんだ。他のヤツが倒しちまったら、勇者の剣に魔力が集まらない」

 私たちの方を向いたまま、腰の剣に手をかけたシアさんの後ろから先駆けのオークが2頭飛び掛かると、彼がそのままの体勢で振るった剣の1撃で1頭が倒れた。

 もう1頭はシアさんが軽く体をかわした脇をすり抜け、アランさんとニールの方に向かっていく。アランさんの剣がオークの1撃を受け止めたのに視線を向けようともせず、シアさんは話し続ける。


「だから戦闘中の『サポーター』の役割としては、『英雄』への補助や援護がメインとなる。そして敵に致命傷を与えぬ程度にダメージを与えて動きを封じ、また時には『英雄』の盾になる」


 ようやく後続のオークの群れが追いついてきた。その群れの多さに緊張したのか、デニスさんが短く息を吐いて自らの大剣を構え直した。


 デニスさんは元Sランク冒険者だ。

 過去に依頼を失敗して仲間を死なせ、ランクダウンを受けており、それが今でも彼の心の傷として残っている。いくら元魔王討伐隊のシアさんがここに居るといっても、そのことが思い起こされ、不安になるのだろう。

 シアさんもそのことを知っているのか、ほんの少しだけ薄くした目でデニスさんの方を見るとようやくオークの大群の方に体を向ける。そして駆け出した。


 オークの大群の中、シアさんが駆け抜けるとともに、次々とオークが倒れていく。

 そのうちシアさんの襲撃を逃れたオークたちが数頭、こちらに目がけて迫ってくる。これらは討ち漏らされて来ているのではない。この大群を相手に私たちが自分の戦い方ができるように。シアさんが間引きをしてくれている。


「『サポーター』に必要なのは強さだけじゃない。周囲を見て瞬時に判断し、敵を倒し過ぎることもなく加減をする。それはただ倒すよりも難しいこともある。その『サポーター』に俺を推挙してくれたアイツの選択は正しかったはずだ」

 最後の一言で、シアさんの様子が変わった。


 とうとう群れの中心部に辿り着いたシアさんに向かって、オークの群れが一斉に襲い掛かる。

「俺以上にアイツの為に命をはれるヤツはいない。なのに……!」

 力強い口調でふり絞るように叫びながら、シアさんは体ごと剣を一閃する。彼を囲んでいたオークたち内側からえぐったかのように1周分、弾け飛んで倒れた。

「シアンさん!」


 様子の変わったシアさんに気付いたデニスさんが、オークを大剣で薙ぎ払いながら声を上げる。その声で、シアさんは元の雰囲気を取り戻した。

「……ああ、すまない。やりすぎたな」

 そう言って、シアさんは申し訳なさげに頭を掻いた。

「おっさん、もうちょい後輩にも遣り甲斐残してやってくれや」

 そう言って、デニスさんはため息を吐いた。


 シアの話に心が痛んだ。

 彼がそんな風に、自分のことを責めていたなんて、思ってもいなかった。


 倒れたオークの肉の壁を越え、次のオークたちがシアさんに襲い掛かると、さっきのように、その群れたちをまたシアさんが私たちに間引いて送ってくれる。

 それからは、もやもやした気持ちを晴らしたくて、手加減をするのをやめた。

 本当は前世の実力を隠さなくてはならないのはわかっている。でもどうにも気持ちが晴れなかった。


 これは八つ当たりだ。

 飛び掛かってくるオークに向けて、目いっぱい鈎爪(クロー)をふるう。この胸に沸いた複雑な思いと痛みを、ただただ振り切るように。


 * * *


 皆で倒したオークは百を超えた。その大量のオークを冒険者ギルドに納品し、残ったオークキングを、行きつけの定食屋兼酒場『樫の木亭』に持ち込むと、早速本日のおススメメニューに使われることになった。


 オークキングは普通のオークよりもずっと脂がのっていて旨味も強いのだけど、当然安くはない。いつもなら庶民がなかなか口にすることができない高級料理が、今日は幾つもテーブルに並べられている。


 定番のジンジャーソテーは生姜の香りと風味が脂の多い肉でもさっぱりと食べられる。少し濃い目の味付けが、皆に好評らしい。


 せっかくの美味しい肉だしじっくり味わいたいだろうと、オークキングカツに使うロース肉は敢えて分厚く切った。肉の厚みの分、じっくりと時間をかけて揚げてある。

 揚げたての切り口から上がる美味しそうな匂いに、ニールがこぐりと喉を鳴らした。


 スペアリブのグリルには粒マスタードのソースをかけてある。

 シアさんとデニスさんが、エールに合いそうだと喜んだ。二人ともまるで兄弟のように仲が良い。食事の好みも似ているようだ。アランさんは赤ワインをグラスに注いでいる。

 さらにバーベキューソースが掛かった山盛りの串焼き肉を運ぶと、皆の歓声があがった。


 メインはキングオークの肉料理だけれど、野菜もちゃんと食べないとね。

 サラダには茹でた薄切りオーク肉をたっぷりのせておいた。野菜だけだとみんなあまり食べないんだもの。


 皆で乾杯をし、料理に舌鼓を打つ。話は今日のオーク狩りの話からシアさんの昔話に流れていった。

 シアさんが昔の仲間と魔獣を狩った話には、ニールはもちろん、アランさんまでも、少し興奮した様子で食いついた。ハルピュイアの群れに遭遇した話、マンティコアを倒した話、ヒュドラの首を落とした話。

 そんな話の盛り上がりが一区切りを迎えた時、ニールが魔王の城に行った時の話を求めると、シアさんは眉間に皺を寄せた。


「……すまんな。そこは話せねぇ…… ただな…… お前たちも聞いているだろう噂にあるような、あんな酷い出来事は起こらなかった」

 シアさんが語りはじめたのは魔王の話ではなく、討伐隊の仲間の話だった。


 前回の魔王討伐隊で『英雄』の一人が命を落とした。

 その一人が民衆代表の冒険者出身だったこと、そしてその『英雄』の剣を受け継いだのが王族に選ばれた騎士だったことで、民衆の間で疑惑と不信が沸いた。『英雄』の剣を奪う為に、わざとその命を奪ったのではないか、と。


「そうじゃない。アイツは自分から仲間を守るために飛び出したんだ。でも本当は『サポーター』である俺が、死んでもアイツを守らねぇといけなかったのに、俺はアイツを守れなかった。しかも俺は目をやられちまって、『英雄』の剣を受け継ぐことができなくなっちまったんだ。だから、あれは俺の所為だ」


 違う。あれはシアの所為でも、他の誰の所為でもなかったのに……

 彼の話を聞いて、また私の胸がきゅうと締め付けられ、痛くなった。


「リリちゃんー、悪いけど手伝ってちょうだいー」

 店主の奥さんから呼ばれ、ハッと気付いて辺りを見回した。

 オークキングが『樫の木亭』に持ち込まれたと言う話がどこからか広まったらしく、いつの間にか店内は満員状態になっていた。

 「ちょっと店を手伝ってきますね」と皆に言って、席を立った。


 * * *


 忙しい時間を乗りきって、ふぅと息を吐く。顔をあげると、さっきまで座っていた仲間たちのテーブルに目がいった。

 今は何の話をしているんだろう? 皆が楽しそうに笑い合っている。

 いつもの仲間の笑顔の中に、今日はシアさんの笑顔が加わっていて、その横顔を見て昔を思い出す。あの頃の彼もここでこんな風に仲間たちと笑っていた。そしてその中には『前世の私』も居たのだ。


 『前世の私』はシアの仲間の一人だった。もちろん、今の彼は『私』が転生してここにいることを知らない。伝えるつもりもない。

 昨日シアから聞いた話は、もちろん私も知っていた話だ。そして、あの時の仲間の何人かはすでにこの世には居ないことも、私は知っている。

 私が転生する為の約束、『魔王を倒す』という目的を、私は果たさなければいけない。それは、私自身の願いでもあるのだ。


 その思いを再び胸の奥に仕舞い込み、皆のいるテーブルに向かった。

お読みくださりありがとうございますー♪


前書きにも書きましたが、主要キャラが集まった時の話の書き直しです。リリアン視点で書いてみました。


本編を読んだ方にはわかるんですが、マーニャいないんですよね。

マーニャはシアンを避けて活動していました。

幸い(?)にも、シアンはふらふらと放浪の旅をしていたので、帰ってくるときだけを避ければ良かったんですよね。


避けると言えば、ポーション売りの魔族の少年、マルクスもシアンを避けてましたね。(見つかっちゃった時は、転移魔法で飛んできたので逃げられなかった)


もしや、シアンって嫌われ者?(笑)

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