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『ケモ耳っ娘になったからには』『招かれざる獣たち』おまけ閑話集  作者: 都鳥


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【ケモ耳】菓子と花束(バレンタイン閑話/後日談/閑話S9)

 今日の街は、いつもに増してカップルが多い。まあ、今日は恋人同士の日だから、当然だろう。


 すれ違う恋人たちの何人かは、俺の方をちらりと見る。俺がまあまあ有名人なのが理由の一つ。もう一つはいいおっさんが花束なんか持って歩いているからだろう。


「あれ、シアンさん。こんなところで珍しいですね」

 声をかけられて、そちらの方を見た。


 西の冒険者ギルドの受付嬢、カナリアだ。暖かそうな上着の下に、受付嬢の制服を着ているので休憩時間か何かだろう。両の手に大きな紙袋を持っているので、買い出しかもしれない。


「お花、リリちゃんから貰ったんですか?」

 まず目についただろう、花束のことを訊かれた。

「いいや、俺が買ってきたんだ」

「自分用……? ではないですよね」


 その言葉に吹きだしそうになる。そんだけ俺に花が似合わないと思われているんだろう。まあ、間違っちゃいないけどな。


「リリアンに渡すんだ。そっちはチョコでも買ってきたのか?」


 いくら今日がバレンタインデーだからといっても、そんなに大量のチョコを買い込むことはないだろう。義理チョコにしても多すぎる。

 そう思って言った冗談だったのに、予想と違ってカナリアは首を縦に振った。


「ええ、用意していた分が足りなくなっちゃって」

「うん? 用意? そんなに配ったのか?」


 そう尋ねると、カナリアは眉間に皺を寄せて、不満そうな顔をしてみせた。

「全く、誰の所為だと思ってるんですか?」

 そう言われても、俺には全く心当たりがない。


 ひとまず、大荷物を持ったままの女性を立たせたままで長話をして困らせるほど、俺はダメな男じゃあない。

 片手分、カナリアの荷物を引き受けると、冒険者ギルドに向かって二人で歩き始めた。


 彼女が買い込んだチョコレートは、彼女自身が配る物ではなく、仕事で配るのだそうだ。

 つまりは受付嬢たちから男性冒険者たちへの贈り物、という名目なんだそうだ。そして、これはギルドマスターの計らいらしい。


 そんな事務的な物を喜ぶものかと思ったら、意外に喜んでもらっていくらしい。しかも受付嬢からのチョコレート目当ての冒険者が朝から通ってくるもんだから、早々に品がなくなり、こうして買い出しにくる羽目になったそうだ。


「先の討伐隊のメンバーの、殆どが西ギルドから出ているでしょう? だからあの後、うちに通う冒険者が増えてしまっていて、用意した分があっという間になくなってしまったんですよ」

 あー…… そういや殆どどころか、全員が西のメンバーだったな。


 リリアン、デニスは勿論、王族代表のニールもうちで活動していたし、王族サポーターのウォレスが抜けて代わりに入ったアランも西のメンバーだ。さらに言うと、マーガレットもよく西に出入りしていたし、メルに化けていたジャスパーも西の冒険者だ。ただし、ジャスパーは正体を隠していたが。


 さっき、カナリアが俺の所為みたいに言っていたのはこのことだろう。

 正確にはこれはリリアンの所為なんだが、表向きには俺がデニスとリリアンを鍛えたことになっているから、そう思われても仕方ない。


「まあ、ギルドが賑わうのは良い事じゃねえか」

 そう言うと、カナリアはまたむくれたような顔をしてみせた。

「冒険者が増えれば、人手も要るんです。シアンさんにも色々と手伝ってもらいますからね」

 どうやら、やぶへびだったらしい。



 そんな話をしているうちに、冒険者ギルドに到着した。預かった荷物を受付のカウンターに置くと、カナリアは「ありがとうございます」と仕事用の笑顔で礼を言った。


「シアンさんも要りますか?」

 カナリアが言ったのは、皆に配っているチョコのことだ。


「もらえるのは嬉しいが、お返し代わりにと言ってこき使われそうで怖えなぁ」

 笑いながら答えると、今度はふふふと嬉しそうに笑いながら、俺の手にチョコを置いた。

「よくわかっているじゃないですか。またよろしくお願いしますね」

 まあ、受けとらなくても、こき使われるだろうけどな。


 * * *


 片手に花束を持ってロディの店に寄り、奥さんにお願いしてあった焼き菓子を受け取った。


「今日はリリアンちゃんから貰えるんじゃないんですか?」

「いや、リリアンはこういうのにうといし苦手だからな。それなら俺が用意しようと思ってさ。女から男にやるんだから、男から女にあげたっていいだろう?」

「あら。リリアンちゃんは幸せ者ですねぇ」


 奥さんの冷やかしに、笑って応えながら、店を後にした。



 アッシュもそうだったが、リリアンも恋愛ごとにはやけにうとい。

 今までバレンタインも他人事のようだったし、いつだか聖夜祭の日に手を繋いで歩いたことも、そういう意味合いがあるとは全く思ってなかっただろう。

 リリアンの兄のカイルによると、灰狼族の集落でもリリアンは割りとモテていたらしい。でもそれには全く気付かなかったそうだ。

 うとい上に自己評価も低い。未だに、俺がそのうち居なくなるんじゃないかとか、思っていそうだ。


 そんなリリアンが、いくら俺と恋人同士になったからと言っても、バレンタインにチョコレートをくれるなんて望みは薄いだろう。


 ロディの奥さんに言ったのは本当だ。過度に期待してがっかりするくらいならば、俺からあげりゃあいいんだと、そう思って花と菓子を用意した。

 リリアンはびっくりするだろうな。そのびっくりした顔も可愛いんだけどな。

 そんなことを考えながら、西地区の外れにある、俺らの家に帰りついた。



「シア、お帰りなさいー」

 玄関のドアを開けると、リリアンが出迎えに出てくる。俺が持つ花束に気付く前に、彼女の手に菓子と一緒に押し付けた。

「え? これどうしたの?」

「バレンタインは好きな異性にプレゼントをする日だろう?」


 そう伝えると、彼女の吊り目がまん丸になる。その後で、その目がまた吊り上がって、今度は眉間に皺が寄った。


「……シア、ずるい」

「へ?」

「私から渡そうと思ってたのに……」


 そう言って、小走りで部屋に駆け戻る。その後を追いかけた俺の視界に、可愛くラッピングしてある小箱を持ったリリアンが映る。彼女は真っ赤な顔をして、それを俺に手渡した。

 もちろん、中身はチョコレートだ。


 過度に期待をしていると、的が外れた時には余計にがっかりするもんだ。

 でも期待していないときに嬉しい事があると、余計に嬉しい。てか、恥じらう姿がたまんねえ。


 そのままソファに押し倒した。


 * * *


 ひとしきりいい汗をかいて、やっと落ち着いたと思ったら、リリアンが俺の持って帰った義理チョコに気付いた。可愛らしくヤキモチを焼くもんだから、一回じゃすまなかった。

時系列イメージは、二人が一緒に住むようになってしばらくくらいです。

デニスは爺様のところに行ってしまったので、二人きりになっています。


ちなみに、この時点では西地区の外れの一軒家に二人で住んでいますが、ニール夫婦に子供ができた辺りで彼らにあの家を譲ってフェンリルの城に居を移しています。

まあ、遠くても転移魔法で移動するんで、さほど不便はないんですけど(笑)

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