迷子の子4
「その……」
「何かしら?」
少しイラつくアリア。
行くならさっさと行ってほしい。
「僕も……迷子で」
男の子が消えいるような声で絞り出した言葉。
「はぁ?」
「その……僕もここらに住んでるんじゃなくて……だから……どこに行ったら知り合いに会えるか分からなくて」
「あなた自分が迷子なのにあの子を助けようとしたのですか?」
「う……はい」
もはやため息しか出ない。
「泊まっている宿の名前は?」
「……ごめんなさい」
1発ぶん殴ってそこら辺に捨てて行こうかと考えた。
何も分からないのであれば何もしょうがない。
フードの向こうの顔が真っ赤になっているのがわかる。
「どうしますか、お嬢様?」
果物を買いに行くのは別に大切なことでもない。
土地勘がない迷子の子供を放っておくのも気が引ける。
「……アダノ青果店に行きましょう」
「えっ、この子は」
「あなたも行きますわよ」
どこではぐれたのかもどこに泊まるのかも分からないのならできることは少ない。
町中を巡回する兵士に引き渡してもいいができることはしてあげる。
こうなったら出会った場所に戻るのがいい。
男の子とはアダノ青果店に近いところでぶつかった。
なので一度そこまで行ってどう逃げてきたか辿れば少しは保護者を見つけられる可能性がある。
「あなた、お名前は?」
「僕は……ノラ」
「ノラ?」
「どうかなさいましたか?」
「いえ……知り合いにもそのような名前がいたものですから」
男の子の名前を聞いてアリアは思わず立ち止まってしまった。
ノラという名前を聞いてある人のことが頭をよぎった。
回帰前に優しかった人でこの腐った世界でも生き延びて欲しいと思える人だった。
ただこんなところにいる人ではない。
たまたま名前が同じ人だろうと思い直してまた歩き始める。
「それにしてもあなたこれほど人にお世話になっておいてお顔も見せないつもりですの?」
ノラはずっとフードをかぶっている。
何かの事情で顔を見せたくないのかもしれないがここまでアリアたちに世話になって、迷子なんですと助けまで求めておいて顔も見せないのは無礼というもの。
「あっ……ええと」
「……いいですわ」
そんなに期待もしていない。
渋った時点でアリアはさっさとノラから顔を逸らしてしまう。
ミステリアスなのは悪いことではないが行き過ぎると不快感もある。
「あ、待ってください!
顔を見せるので!」
呆れられて少し嫌うような雰囲気を感じたノラが慌ててフードを下ろした。
悪態をつきながらも助けてくれていたアリアにはちゃんと恩を感じていて、不快にさせるつもりはなかった。
「……あの?」
金髪碧眼綺麗な顔をした少年だった。
カッコいい顔してるのに顔をじっと見つめてくるアリアに不安そうな表情を浮かべている。
ベースの顔とのミスマッチがちょっといい感じ。
だけどアリアはノラの顔の造形の良さに驚いたのではない。
ノラが記憶の中にある人物であったからだ。
記憶の中にある容姿よりもはるかに幼いがその時の面影がある。
「何者だ!」
その時レンドンとヒュージャーが剣を抜いて動き出した。
「お前らこそ何者だ!」
前に出てアリアたちの方に走って来る男たちに剣を向ける。
走ってきた男たちも剣を抜いてレンドンとヒュージャーと睨み合いになる。
「近づくな!」
「離れろ!」
レンドンとヒュージャー側は変な男たちなので近づくなと主張していて、対して男たちは離れろという。
いきなりの出来事でヒートアップしているのでその主張の食い違いの違和感に気づいていない。
キッカケでもあったなら今にも切り合いに発展しそうな雰囲気に道ゆく人も足を止めて遠巻きに見物を始める。
シェカルテは事情がわかっていないようで困惑してアリアを見ている。
そしてノラもノラでレンドンたちと男たちの剣幕に押されて顔を青くしていた。
「おやめなさい!」
ここで今状況を見守るとケガ人が出るかもしれない。
睨み合う両者の間に入りながらアリアが声を荒らげる。
「お、お嬢様……」
「剣をしまいなさい!」
「しかし……」
「これは命令です!
そちらも剣をしまいなさい!」
子供とは思えない迫力。
レンドンとヒュージャーのみならず熱くなっていた男たちもアリアの勢いに押されて剣を収める。
「ノラ、あなたでしょう?」
男たちは別に襲いにきたのでもない。
ノラと会った時に悪い男たちがいたからレンドンたちも警戒してしまっていたのだろう、ほんの少しのすれ違いである。
アリアは分かっていた。
男たちはノラを探していたのだと。
「ノラスティオ様、探しましたよ!」
「ごめんなさい」
アリアがレンドンとヒュージャーを退けさせると男たちはノラのところに行く。
「どういうことでしょうか……?」
みんなはまだ状況が飲み込めていない。
「ふぅ……ノラは貴族ですわ」
「えっ、そうなんですか!?」
「考えてもみなさい。
土地勘もなく泊まる宿も知らない。
顔を見せたがらず厄介事に首を突っ込んでいく。
それにあの容姿」
「……なるほど」
アリアが言ったことはどれも1つだけでは人の属性を特定しない。
けれど全部を集めてみるとあら不思議、そんなやつは裕福なご家庭の貴族だろうと予想ができてしまう。
そんなことするのは世間知らずの坊ちゃんぐらいなのである。
まあ綺麗な金髪碧眼は貴族の容姿に多く、平民は厄介事に首を突っ込みたがらない。