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悪役令嬢、悪になる〜真紅の薔薇よ、咲き誇れ〜  作者: 犬型大
第二章

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迷子の子5

 ちょっとした不審なことも全てを総合すると貴族であるというのはシェカルテも納得した。

 貴族であるなら今の状況も分かる。


 レンドンたちと対峙していた男たちもノラの護衛であったのなら険悪な雰囲気なったことの説明もつく。

 知らない男たちが剣を持ってノラの方に行かせまいとしたら護衛としては緊急事態を疑う。


 剣を収めて冷静に話し合いなんてしている場合かどうか確かめる余裕もあるか分からないのだからああした一触即発の状態にもなる。

 そうしているとノラのお付きの人や護衛がさらに集まってくる。


「……行きますか」


 保護者が見つかったのならもういいだろう。

 これ以上関わると面倒なことになりそうだとアリアは思ってアダノ青果店に向かおうとした。


「待って!」


 こっそりとその場を離れようとしたアリアにノラが気がついた。

 大きな声で呼び止めるものだからみんなの視線がアリアに向いてしまう。


「アリアさん、ありがとうございました」


 ノラがアリアの前に来てペコリと頭を下げる。

 護衛たちがざわつく。


「ノラスティオ様、そのように頭を下げられては……」


「お世話になった僕だ。


 それに君たちだって剣を向けたじゃないか。


 無礼なことまでしたのに口で礼するだけなんて許されないよ」


 この頃から真面目な性格だったのだなとアリアは思った。


「それはそうかもしれませんが……」


「下げた頭は戻らない。


 もういいでしょ?」


「失礼ですがあなたは何者ですか?」


 ヒュージャーがアリアを守るように前に出る。

 こちらもまたバカ真面目。


 明らかに相手も只者ではないと分かっているのにアリアの護衛として得体の知れない相手に立ち向かおうというのだ。

 回帰前には記憶にもない男であったが悪くない気性の持ち主である。


「貴様、このお方を……」


「エグズ卿!」


「むむ……」


「失礼しました。


 まだちゃんと自己紹介していませんでしたね」


 ノラは背筋を正して、ヒュージャーの後ろにいるアリアの目を真っ直ぐに見据える。


「僕はノラスティオ・フォン・ガルジェンダイン。


 この国の第三王子です」


 やはり。

 そうアリアは思った。


「えええっ!?


 第三王子!?」


「ヒュージャー、下がっても大丈夫です」


 シェカルテは大驚きだがアリアは冷静だ。

 ヒュージャーも内心は驚きながらも仕える主人はアリアだから簡単には引かなかった。


 アリアはヒュージャーを下げさせてノラの前に立つ。

 こうなった以上はこっそりとこの場を離れることは出来なくなった。


「アリア・エルダン。


 王国の星にご挨拶させていただきます」


 スカートの端をつまみ上げてお淑やかにお辞儀をする。

 アリアが冷静に挨拶をしたことにみんな目を見開いて驚いているがノラだけはなんだか嬉しそうな顔をしていた。


「エルダン……っていうとこの土地を持っている貴族のお家だね?」


「そうでございます」


「……ん、もうあんな風に気軽に話してはくれないの?」


 先ほどまでの雑な態度と違ってアリアは壁を一枚隔てたかのような冷たい態度になっていてノラは困惑する。

 流石のアリアも王族に対してそんな態度は取らない。


 先ほどまでの態度は王族だとは知らない迷子のバカに対する態度であって、王族だと知った今同じ態度を取ればいかにエルダン家であっても処罰されてしまう。

 ノラはシュンとした顔をするけどそんな顔されてももうどうしようもない。


 この場合はアリアが正しいのだ。


「一体何があったのですか?」


 少し遅れてきた年配の女性がノラから事情を聞き出す。

 ノラが迷子になってその時に子供が悪事に利用されていてとっさに助けてしまったこと、そしてそれをアリアに助けられて迷子だった自分をここまで連れてきてもらったことなどを話した。


 思わず呆れ顔を浮かべる年配の女性を見てアリアは思い出した。

 ノラに仕えていた侍女長のマーメッサだと。


 この人も良い人だった。

 むしろこの人が良い人だったからノラもそのように育ったのだなと回帰前は思っていた。


 大きくため息をついてマーメッサは呆れ返った顔をした。


「ノラスティオ様……何をしておいでですか……」


「ごめんなさい……」


「そのことは後でお話しいたしましょう。

 

 アリア様」


「はい、なんでございましょう?」


 マーメッサは表情一瞬で柔和な笑みに変えるとアリアに向き直った。


「ノラスティオ様がお世話になりましたようで。


 お礼申し上げます」


「いいえ、困っている方を助けるのは当然のことですから」


 中途半端に無視もできずたまたま頼られたから助けただけだがそんな言い方はしない。


「つきましては正式にお礼をしたく思いますがもう今日はこんな時間です。


 後日エルダンのお屋敷の方にお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 やめてくれ。

 そう喉まで出かかったがここで拒否する人はまずいない。


 ノラもなんだか期待したような目をアリアに向けている。


「そうおっしゃられてはこちらとしてもお断りするわけにはまいりません。


 事前に連絡いただけましたらおもてなしさせていただきます」


 基本的にもてなすのはゴラックだろうけど。

 アリアが綺麗にお辞儀をしてみせるとマーメッサは少し驚いたような顔をした。


「絶対にちゃんとお礼はするから」


 だからいらないって。

 ひくつきかける顔をなんとか取り繕ってアリアはニコリと笑っておく。


 ノラたちと別れてようやくアダノ青果店に行くことができたアリアだったがアリアが着いた時にはアダノ青果店はすでに本日の営業を終えてしまっていたのであった。

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