母親の正体1
「今日はここまでにしよう」
「はい、ありがとうございます」
オフンの指導もアリアが優秀なために熱が入ってきた。
しかしレベルというのも簡単には上がらなくて少しだけヤキモキする気持ちも生まれてしまったりする。
けれど着実に進むことこそが強くなる1番の秘訣であり、単にレベルにだけ囚われてはいけない。
オフンとの組み手を終えてアリアは汗を拭いていた。
「よくやるね。
だいぶ上達したんじゃないかい?」
アリアの鍛錬には誰かしら見学に来ていることが多い。
ゴラックだったりディージャンやユーラ、メリンダも見にくる。
今日は途中からメリンダがやってきて最後までアリアを見ていた。
「まだまだですわ」
習い始めて時間も経っていない。
上達したというよりもアリアは指導に慣れてきて、オフンも指導することに慣れてきたので上手くやれるようになった。
だから最初の頃よりもやれているように見えるだけだ。
ユーラの剣術レベルが9らしくアリアとはまだ2つも差がある。
別に打倒ユーラなつもりはないけど近くにある目標としてユーラを追い越したく思う気持ちもあった。
「オバ様、1つお話よろしいですか?」
オフンが帰っていって残されたのはアリアとメリンダだけとなった。
少し勇気を出してアリアは話を切り出した。
「なんだい?
美の秘訣なら日々の努力だよ?」
「確かにオバ様が美しいことは否定致しませんが今日聴きたいのは美の秘訣ではございませんわ」
「なんでも聞いてみるといいさ。
答えられることなら答えてあげるよ」
「では……聖印騎士団について聞かせてほしいですわ」
いつも余裕があって笑みを浮かべているメリンダの顔が固まった。
まさかアリアから聞かされると思ってもみなかった言葉が出てきた。
一方でアリアはうっすらと笑みを浮かべたままメリンダをジッと見つめている。
「なぜそれを知っているんだい?」
誤魔化そうかと思ったけど誤魔化すには不自然に言葉に詰まってしまった。
聡いアリアのことだから聞きかじっただけの単なる興味で聞いたのではないだろうとメリンダも思った。
「質問を質問で返されるのはいけないことですわ、オバ様」
「それならアリアも聖印騎士団がどんなものか知りたくて聞いてるんじゃないんだろう?」
「あら?
オバ様はご存じで?」
「…………全く、誰に似たんだか」
「では少しご質問を変えましょうか。
オバ様と聖印騎士団のご関係はどのようなものですか?」
核心をついた質問にメリンダも驚きを隠せない。
賢い子だとは思っていたけれどアリアが思っていたよりも遥かに牙を隠していそうでメリンダの背中に悪寒が走った。
聖印騎士団。
これは表の組織ではない。
監察騎士団がいくつかの宗教が人を出して作ったケルフィリア教を表立って取り締まる組織だとすると聖印騎士団は裏でケルフィリア教を排除する影の組織である。
過激な手を使うケルフィリア教の信者を相手にするのに正攻法ばかりではどうしても後手に回る。
被害が出てから対応してケルフィリア教の信者を捉えても被害者が出ることを止められない。
そのために生まれたのが聖印騎士団である。
過激な手には過激な手を。
相手が命を奪うような行いをするならばこちらも相手の命を奪ってでも止める。
事前にケルフィリア教の動きを察知して止める、光の中の闇のような組織として聖印騎士団が生まれた。
その活動内容から正しい行いをしているとしても批判は避けられないために聖印騎士団は非公式、隠された組織である。
アリアは回帰前にその存在をたまたま知ることにはなったが基本的に聖印騎士団の存在や所属であることは周りの人は知らないものである。
メリンダは聖印騎士団であった。
情報屋ペイガイドから受け取ったメリンダの情報にはメリンダが聖印騎士団の所属であることが書いてあった。
それだけであるなら別にそれでいい。
だが聖印騎士団の所属であるなら聞かねばならないことがある。
「……それを知ることの覚悟はあるのかい?」
「オバ様こそ聖印騎士団でありながら今更この家に帰ってきたことの覚悟がおありですか?」
「容赦がないね」
珍しくメリンダが苦渋の表情を浮かべている。
「この機会にディージャンお兄様やユーラお兄様でも取り込みにきたのですか?
ケルフィリア教みたいに」
「なっ……!
そんな言い方は……」
「何も知らないのにどんな言い方をすればいいのか分かりませんわ」
「オーラ……アリア、あんたは一体」
アリアの体から紅いオーラが放たれる。
手には練習用の剣を持ったまま。
対してメリンダは何も持っていない。
例え子供であろうとオーラを使える剣を持った相手と素手では勝てるはずもない。
「質問に答えてくださいまし」
必要なら手を血で染める。
得かけた信頼を失うことになろうとメリンダを排除すべきだと思ったらここで手を下す。
「ふふ……ははははっ!」
真剣なアリアの目をみてメリンダは笑い出した。
気でも狂ったのかと思った。
「何がおかしいんですの?」
「いや、悪いね。
……誰の子かと思ったけど、母親そっくりだ」