情報を買った
「お嬢様、このようなものが」
ある日シェカルテの家の机の上に置いてあった一枚の紙。
真っ白い紙の真ん中に夜の空を駆ける鷹の絵が描いてある。
情報屋のペイガイドの紋章である。
鍵も閉めてあったのにどうやって入ったのか分からない。
シェカルテはすぐさまその紙をアリアのところに持っていって見せた。
これが何を意味するのかはアリアも見た瞬間に分かった。
「外出の用意を」
「分かりました」
すぐさまアリアは馬車を用意させてペイガイドへ向かった。
ちゃんと前回同様にお菓子屋さんに寄って自然に見える工作を行った。
付いてくる護衛も同じくレンドンとヒュージャーなので向こうも前と同じかと汲み取って行動してくれた。
相変わらず古臭いペイガイドに着いた。
今度はヒュージャーがついてきていたけれど同じく外で待っているように言うと大人しくそれに従ってくれた。
「お早いご登場で」
前と同じ年齢不詳の店主がアリアを見て驚いた様子もなく出迎えてくれた。
「早い方がいいと思いまして」
「ほっほっ……確かに何事も早い方がいい」
さて、と言って店主は立ち上がると一度店の奥に消えて1冊の本を持って戻ってきた。
「ゼムーシャ・ヘカトケイについてはまだ調査中ですがメリンダ・アクオについては分かりましたのでこちらにまとめてあります」
古書店らしく本に偽装して情報をまとめてくれている。
「お代はちょっと値の張ることになりますが初回のサービスとこちらとしても面白いことが分かったのでお値引きさせてもらいます」
持ってきたお金がほとんど無くなる値段にアリアの顔も一瞬引きつった。
せっかく貯めたお小遣いがこれでパーである。
けれどこれでサービスしてくれていると言うのだから従うより他に方法もない。
「……少しあなた様のことを調べさせてもらいました」
「あら、正直に言うのね?」
調べられることは予想していた。
誰にでも情報を売る情報屋といっても実際は誰にでも売るわけじゃない。
敵対する相手や危険な犯罪者など一定の倫理観はあることにはあるのだ。
つまり客となる相手も選ぶし当然のことながら調査するだろうことは分かっていた。
ただされる側としては不快だ。
怒り出す客だっているだろうから普通は調べましたなんて告げはしない。
「私を怒らせたら後が怖いのご存じなくて?」
「申し訳ございませんが存じ上げませんでしたね」
「そうなの?」
「そうです。
不思議なぐらいお客様には情報がありません。
このようなことをするお方ではなかったという過去の他には」
犯罪歴もなければ特殊な思想もない。
まだまだ親を亡くしたばかりの子供でたどれる経歴だって短いものだ。
「何があなた様をあなた様たらしめているのか。
……目的はなんなのか、是非とも長いお付き合いにしたいものです」
「それで何が言いたいのですの?」
「今回のメリンダ・アクオの調査のお代は結構です」
「情報屋が情報をタダで渡すと言うの?」
「お客様にご満足いただければそれで十分でございます」
どうにも情報屋の興味を引いてしまったようだ。
これが吉と出るか凶と出るかアリアにも量りかねる。
「まあタダでいただけるならそれに越したことはありませんわね」
しかし何を思われようとこの場でできることはない。
それなら素直な喜んでおくフリでもしておく。
今後も情報は必要になるので情報屋を利用することがあるだろう。
向こうが長いお付き合いをと言うなら長いお付き合いにしてやろうじゃないか。
「じゃあこれは貰っていきますわ」
いかにもそれっぽいタイトルをつけられた情報本を手に取ってアリアは古書店を出て行った。
「……本当にこれで良かったのですか?」
誰もいなくなった店の中で店主がポツリとつぶやいた。
「それでいい」
その声に答えて1人の男が棚の影から姿を現した。
フードを深く被った男性はアリアが出ていったドアをジッと見つめている。
「リャーダの娘か……何もなく暮らしていて暮れればよかったのに、何の運命なんだろうな」
「不思議な子ですね。
エルダンの事件の中心ではないが、あの子が来てから事が動きました」
「エルダンの中で起きたことは目撃者も少なくて調べきれなかったのだろう?」
「はい。
断片的な情報しか手に入りませんがあの子に手を出そうとしたことから始まったようだと思われます」
「数奇なものだ。
たまたまこちらの支部に来てみれば面白いものが見れたな」
「お代を免除した件はご自分で報告願いますよ、支部長」




