これで王族ともお友達1
王家から家を訪ねたいと連絡があって大騒ぎだった。
ゴラックは準備に奔走し、メリンダも手伝って慌ただしく忙しくしていた。
対してアリアはのんびりとお茶を飲む。
子供のアリアに出来ることはないのだから仕方ないけれどメリンダには一体何をしてきたんだいと困り顔で聞かれた。
アリアとしては迷子のお馬鹿さんを保護しただけでこんな大事になるだなんて思いもしなかった。
普段から屋敷内は綺麗にしてあるのだけどノラが来るということで埃一つないほど屋敷の中はピッカピカにされていた。
それはアリアも例外ではない。
王子であるノラを迎えるためにお風呂に入れられてピッカピカにさせられた。
ゴラックも礼服に着替えてピシッと身だしなみを整えた。
ディージャンやユーラもそこそこ良い顔しているし、その親であるゴラックも身なりを整えると年よりも若く見えて中々カッコいいおじ様であった。
メリンダも普段はラフな緩いドレスを着ているが今はは出過ぎないが綺麗でタイトなドレスを着ている。
エルダンの家系は顔がよろしいようでとアリアは思う。
自分の顔も結構良い方ではあるとアリアの中では自負もある。
「それにしても何をしたのだ?」
一通り準備を整えてあとはノラが来るのを待つだけとなった。
ちょっとぐったりとした顔をしたゴラックが砂糖多めの紅茶をすすりながらアリアに視線を向けた。
細かな用件は書いていなかったがアリアにお礼がしたい旨のことが書いてあった。
元々エルダンを訪問するつもりだったのではなく、何かがあってアリアに会いに来ようとしているのだ。
ちょっと買い物に行くと言って出て行ったのにどこでどうやって王族を引っ掛けるというのか。
「私もそんなつもりありませんでしたわ」
アリアも小さくため息をつく。
王族だなんて知っていたら近づかなかったかもしれない。
そうでなくともあんな態度は取らない。
お礼に来ると言いながら雑な態度取った責任でも追及されるのではないかとちょっと不安にすら思う。
他の王族ならともかくノラとはこんな出会い方したくなかった。
「ほんととんでもないことをしてくれるものだね」
メリンダは愉快そうに笑う。
大変ではあるがアリアの行動は予想外の騒ぎをもたらしてくれて面白い。
王族なんて田舎の貴族に嫁いだメリンダには一生のうちでも会うことなんてない相手で息子に良い土産話でもできたと考えている。
きっとこのことを話せば誰もが驚く。
それにこれは良い機会だと思った。
ビスソラダ、それにケルフィリア教のせいでエルダン家の評判は大きく下がった。
みんな表立っては言わないがどうしてもヒソヒソと噂されてしまうことは避けられない。
王族が訪問なんてしてくれたらエルダンに関する噂は王族に関することに上書きされる。
訪問の目的を吹聴して回ることなんて王族もエルダンもないから噂は推測を産む。
王族に関して悪い噂など立てれば処罰されてしまう可能性もあるのできっとみんな良い方向で推測してくれる。
下がったエルダンの評判も少しは戻って悪い噂はかなり減る。
中立派であるエルダン家が王族の争いに首を突っ込むことになると噂も立つことになるかもしれないが現状よりも状況は良くなる可能性の方が大きい。
「なんでも第三王子だって?
たしか第三王子はまだお相手が決まっていないそうだね」
「オバ様?」
「はっはっ、冗談だよ!」
「姉さんもそんなことを……」
下手すると不敬にも当たりそうなことを言うメリンダにゴラックがヒヤリとする。
「ここには私たちしかいないんだからいいだろ?
本人の前じゃ言わないんだから大丈夫さ」
お相手とは文字通りお相手である。
いわゆる婚約者というものだ。
王族ともなると小さい頃から相手が決まっていることも珍しくない。
王族の後ろ盾が欲しい家門、逆に王族が後ろ盾として欲しい家門や取り込みたい家、王族に相応しい血を持つ一族など様々な要因を考えて物心がつく頃には将来のパートナーが決まっていることがある。
第一王子がそうだった。
やや特殊な事情はあったりするけど第一王子は小さい頃にお相手が決まっていて今も仲睦まじい。
第二王子も相手が決まっている。
大きな家門の貴族のご令嬢で貴族からの猛プッシュがあって決まったはずだったと記憶している。
しかし第二王子のお相手はまもなく病死する。
王族のお相手ともなっていたので一流の医者も呼んだのだろうけどその甲斐もなく息を引き取ってしまうのだ。
その子が生きていてくれたら回帰前のアリアの人生も違ったものになっていたのになと思う。
そして第三王子は3人いる王子の中でもお相手が決まっていない王子であった。
第一王子と第二王子の母親はそれぞれ大きな貴族出身の人だったが第三王子の母親は小さな領地を持つだけの誰も知らないような貴族の出であった。
そのためにノラはやや肩身が狭い王子だった。
許嫁となる相手が決まらないのにはそうした要因も絡んでいた。
「第三王子でも王族は王族……もしかしたら一生楽な生活を送れるかもしれないよ?」
「私には手に余るお相手ですわ」
「そうだ……いや、そうじゃないがアリアにはもっと良い相手がいるはずだ」
王族の相手になんか選ばれたらアリアは今のうちから家を出て英才教育を受ける必要がある。
アリアにとって幸せなことかもしれないけどゴラックとしてはせっかく仲良くなってきたアリアが王族に見染められて出て行ってしまうのには寂しい想いもある。
それに王族になるのは苦労も多い。
親心としてはそのような苦労ない方がいいと考える人も意外といるのだ。