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第218話:付与魔法使いは明後日の結論を出す

「うむ。魔族がこちらの世界にも人類に紛れて潜んでいるという話は有名な話じゃ」


 確かに、その話は聞いたことがある。何世代にも渡る交配で人間や獣人と同化してしまった個体は、見た目では獣人と区別がつかない。メイル王国において獣人の扱いが悪いのも、こういった事情が関係していたりもする。


「彼らの中には自分が魔族であることを知らない者すらおる。誤って同胞を殺さぬよう、慎重に行動しているのじゃろう?」


「……っ」


 ジュピラとソフィアの指摘に図星を突かれたような表情を浮かべ、言葉に詰まるジェノス。


 どうやら、事実のようだ。なお、このやりとりは今回が初めてではない。ジェノスが全て事実を語るとは限らないため、このように既知の事実との矛盾を指摘したり、具体的な詳細を詰めることで少しでも精度の高い情報を引き出せるよう尋問している。そのため時間がかかっているのだ。


 苦労の甲斐があり、これでようやく全ての質問を終えることができた。


「よし、じゃあ最後にお前の処遇を決めるとしよう」


「えっ⁉︎ アルス、まだ魔族や魔王の居場所について聞けていませんよ⁉︎」


 俺が尋問を終わろうとすると、セリアが慌てた様子で指摘してきた。


「どうせ聞いても確かめようがない。それに、俺に考えがある」


「なるほど……? そうなのですか」


 納得がいかないといった様子だが、これでいいのだ。それよりも、これを探る上でも必要なのがこいつの処遇。


「こいつに関しては、解放しようというのが俺の案だ」


 俺がこのように述べた瞬間、一気にこの場の緊張感が高まった気がする。


「ア、アルス⁉︎ 正気ですか⁉︎」


「ちょ、何を言っているの⁉︎」


「いくら師匠の言うことでも……さすがに勘弁してくれ。結果的に犠牲者は出なかったが、破滅されかけたんだぞ⁉︎」


 もちろん、俺は情けをかけようと言っているわけではない。


「こいつをここで殺せば、魔族側は何が起こったのかわからない。そうなると、どうなるか——エルフを脅威と見做して、滅ぼそうとするかもしれない」


「……!」


 ここまで言って、ジュピラたちは冷静さを取り戻したようだった。


「だから、正体不明の人間の介入で仲間を失い、逃げ帰ってきたと報告させる。そうすれば、警戒対象はこの里じゃなく俺になる」


「た、確かに……だが、それでは師匠に危害が……」


「俺を特定できるレベルで報告させる必要はないだろう」


「だが、こいつが約束を守るわけが——」


「もちろん、タダで解放するわけじゃない。こいつには、俺の駒になってもらう」


 俺は右手をジェノスにかざし、付与魔法を発動した。王都で『レッド・デビルズ』のメンバーにかけられていた呪刻魔法だ。俺は何度も呪刻魔法の解除をしてきたが、これは魔法の構造を全て理解し、編まれた糸を解すような作業だ。解除ができるなら、当然付与もできる。


 俺は、あの時の感覚を思い出し、それを付与魔法で再現する。対象の体内に魔力の塊を埋め込み、術者の意に反する行動を取れないように縛る。さらに、反抗すれば自爆するよう刻んだ。


「何をしたのか知らんが、き——っ⁉︎ こ、声が出ない……だと⁉︎」


 『貴様』とでも呼ぼうとしたのだろう。俺に対して礼節に欠ける言葉を発せないため、声が出なかったということだ。問題なく機能しているようだ。


「俺の命令に背けば、お前は同胞の魔族を巻き込んで木っ端微塵になる。それが嫌なら、俺に従うしかない」


「なんだと⁉︎ こ、この悪……が! くっ!」


 『悪魔』とでも言おうとしたのか? まあいい。


「俺たちは里を出たらアクアディア帝国に向かう。こちらの世界に来られるタイミングで俺に会いに来い。その時にまた改めて指示を伝える」

 そう言って、俺は縄を解いた。


「くっ……」


 ジェノスは、悔しさに顔を歪めながらも、それ以上何も言うことはなかった。彼は、自分の命よりも同胞の命を選んだのだ。無言で頷くと、森の奥へと姿を消していったのだった。

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