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ノットさんの裏切り

キングウルフを倒し、何とか町に戻って来た。

薬草はある程度準備できたので、これで材料の目処はたった。

後はひたすらポーションを作り続ければ、納品期日に間に合う。

ギルドが見えてきて生きて帰れたことを実感する。


「ただいま帰りました!」

「おかえりなさい!」


リーザさんが泣きそうな笑みで駆け寄ってきて、トールさんに抱きつく。


「ただいま、リーザ」


トールさんは少し照れながらリーザさんを抱きしめる。

俺はその横で口を開けてその光景を見ていた。


「私、もし帰って来なかったらと思うと怖くて怖くて」

「心配かけたね。でも僕たちは戻ってこれたから安心して」

「うん」


また抱き合う二人。

俺はその光景を真っ白な頭で眺めていた。

しばらくして落ち着いたリーザさんが俺の方にもやってくる。


「ラムさん!!血だらけじゃないですか!!!」

「大丈夫です。怪我はないですから」

「良かった」


そう言うと俺も抱きしめられる。

え!さらに頭が真っ白になる。


「ラムさんも無事に戻って来てくれて、ありがとう」


あたふたしていると、スッとリーザさんが離れていく。

リーザさんが離れてやっと頭が働く。


「ラム君が居なかったら、僕は生きてなかったよ。本当にありがとう」


その言葉を聞いてリーザさんはトールさんの顔を驚きの顔で見る。


「トール、それってどういうことなの!?」

「心配掛けてごめん。でも僕たちはこうして帰ってこれたから」


トールさんは森で遇ったウルフやキングウルフの話をリーザさんにする。

話を聞きながらリーザさんの顔は、みるみる真剣な顔つきになっていく。

話が終わると、俺の顔を信じられない物を見る目で見てくる。


「ラムさん貴方は一体何者何ですか・・・ウルフの群れを退けて、さらにキングウルフも倒すなんて・・・」


何者と言われても、自分でも分からん。

まー、異世界転生したチート野郎です。


「何者と言われてれも、分からないです」

「リーザ、ラム君の詮索はいいじゃないか、ラム君は命を懸けて僕を助けてくれて、こうして薬草を集める事も出来た」

「そうよね、あまりにもびっくりしちゃって」


取りあえず俺への詮索が終わってホットする。

聞かれても答えようがない。

みんなで一息ついた事で、生きて帰った実感がする。


「早速、ポーション作りを始めるわね。トールとラムさんは今日は休んで」


さすがに今日は疲れた。

リーザさんの言葉に甘えて帰らせてもらう。

一度風呂に行って、血だらけの服と体を綺麗にしてから、リカの食堂に行く。


いつものように、入り口横の大皿から、三品ほど選ぶ。

一品目はもちもちした食間の白い一口大の餅のような物に、トマトベースのタレが掛かっている。

二品目はガッツリ骨付き肉、骨が邪魔だが骨をしゃぶるのも美味しい。

三品目は魚の粗のスープ、めっちゃ良い出汁が出ている。

ここのご飯はどれを食べても旨い。


「いらっしゃーい!飲み物はいつ物でいい?」

「ありがとう。いつものお願い」


いつものリカの笑顔。

ホットさせるその笑顔を見ると、肩の力が抜ける気がする。

格好つけずに、ありのままで良いよて言ってくれている気がする。


この店に置いてある飲み物はワイン、果実酒、エールになるがエールはビールほど美味しくない。

キンキンに冷えた美味しいビールが飲みたい。

果実酒もリカのお勧めで飲んで美味しかったが、好みの問題でワインをいつも頼んでいる。

ちなみにこの世界はお酒の年齢制限は無いようだが、常識的に小さい子にはあげない。

お酒は高いので、基本お金を稼げる年齢にならないと、呑めない。


「お待たせー」

「ありがとう」

「なんか今日は少し男前に見えるけどなんかあった?」


さすが客商売鋭い!


「ふふふ!今日俺は男になったのだ!」

「え!」


リカが固まる。


「今日、森に薬草を取りに行ったら、ウルフに遭遇しちゃって、バシっと倒してやったのさ」

「ああ!そっちか!驚かせないでよー」


ばしばし肩を叩いてくる。


「いや、どっちだよ」

「はははー。でもすごいじゃん、ウルフやっつけるなんて。怪我しなかった?」

「腕をパクリとやられちゃって、昨日防具を買って着けてたから傷が浅くて良かったよ。ポーションですぐ直したからほら傷は無いけど」


リカに噛まれた腕を見せる。

うっすらと噛まれた歯形が残っているが、ほぼ治っている。


「うわーーー。痛そう!」

「噛まれた時は必死で、そこまでじゃ、無かったんだけど、倒して傷を見てから痛くなったよ」

「あんまり、無理しちゃ駄目だぞ!」


バスっと頭を叩かれた。

優しくじゃなく比較的痛かった。


その日は泥のように眠ってしまった。

次の日の早くには起きれず、寝坊してしまった。

いつもの朝飯の屋台に行くと、すでに終わっていて、昼の準備を始めていた。


朝飯は諦めて、ギルドに行く。


「おはようございます!」


元気良く、挨拶して中に入るとまたみんな集まって暗い顔をしている。

え!また何か問題があったの?今度はどうした!


「おはよう、ラム君」

「おはようございます。何かあったんですか?」


心を折られて、うつ向いてるリーザさんの代わりにトールさんが説明してくれる。


「実は朝、書き置きがあってノットさんが、メイソンギルドに行ってしまったんだ」

「えーーー!!」


やっと薬草の目処が立って、後はポーションをひたすら作るだけで良かったのに、ここでノットさんが引き抜かれたのは、痛い。

リーザさんはトラブルが続いていて、支えが欲しい時に一番頼りになる、ノットさんが居なくなったのは精神的に堪えるだろう。

それに俺の寝る時間が無くなる。


「昨日、ラム君に死ぬ思いをさせて申し訳ないけど、もう依頼は諦めるしかない」

「え!諦めるんですか!」


リーザさんが泣きながら声をあげる。


「しょうがないのよ!私もあきらめたくない!だけどもう無理なの!」


そのまま泣き崩れてしまう。


「僕たちも諦めたくないけど、ノットさんの担当分が全く手付かずで、さらにハイポーションに使う、上級魔石も持って行ってしまって無いんだ。だからもう諦めるしかないんだ。悔しいけど分かって欲しい」

「トールさん、トールさん、昨日倒したキングウルフの魔石て使えますか?」

「!!!。確かに、キングウルフの魔石なら十分使える!」

「ハイポーションとマジックポーションなら俺が作りますよ」


「でも、でももうあと二日しかないの、ずずず、ラムさんが作れても時間がないのよーーえーーーん」

「リーザさん、たぶん大丈夫だと思いますよ。実はハイポーションまだ作る余裕があったんですけど、びっくりさせないように毎日二個しか作ってなかっただけなんで」


それを聞くと、リーザさんが涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした顔でこちらを見てくる。

リーザさんの側に言って地面に突っ伏しているリーザさんの肩にそっと手を置いて、元気づける。


「ラズ君、本当なの?」

「ええ、大丈夫ですよ」

「ラズくーん」


リーザさんが抱きついて泣いてくる。

昨日に引き続き二回目の抱擁だったので昨日ほど、動揺することは無かったが、トールさんもいるし、気まずくてそっとリーザさんを離す。


「早速試してみましょう」


恥ずかしさから、強引に話を進めていく。

いつも使っている錬金術室にノットさんの部屋から、マジックポーション、ハイポーションの材料を持ってくる。

まずはハイポーションを作っていく。

薬草、癒し草、血止め草、水、魔石が材料になる。

十五分程で一個完成する。

いつも作ってるのでここまでは全く問題ない。


「凄い早さ・・・」

「うん、全く迷いがないね」


リーザさんとトールさんが驚いているが、もらったチート錬金術のお陰なので、俺は何も凄くない。

さて問題は何個連続で作れるかだ。

その後さらに三つほどハイポーションを作る。


「ラムさん、体調は大丈夫ですか?」


リーザさんが心配そうに聞いてくる。

もちろん俺の体調も心配してくれているが、連続で何個作れるかも、このギルドの運命を握っていて、期待と不安が入り交じっている。


「全く問題ないです。次はマジックポーション作ってみますね」

「すごい!すごい!ラムさん!」


俺の手を取ってめっちゃ喜んでくれるリーザさん。

ノットさんが居なくなって、ドン底に落とされてそこから希望が見えて、本当に嬉しいんだろう。

マジックポーションの作り方は、錬金術書で一通り覚えている。

材料はマジックキノコと鈴花の滴と水と魔石だ。

鈴花は白い花が鈴の形で咲く花で、それを絞った液が、鈴花の滴と呼ばれる、錬金術素材となる。

作り方はポーションとほとんど同じだ。


慎重に各分量を秤、ゆっくり混ぜ合わせていく。

混ぜるスピードも均一に、混ぜすぎても駄目だし、かき混ぜが少なくてもダメ。

始めて作る物なので緊張しながら、各作業を進める。


「錬金術!」


出来上がった物に錬金術をかける。

ピッかと眩しく光、光が収まると紫色のポーションが出来上がっている。

直ぐに、リーザさんが光にかざしながら、確認する。


「出来てます! 成功ですよラムさん!」


リーザさんの眩しい笑顔が完全に戻ってきた。


「これで納品に何とか間に合いそうですね!」


リーザさんに元気が戻って良かった。

トールさんとリーザさんの関係は何となく分かった。

それはショックだったけど、当然と言えば当然で、お似合いだしボンヤリだけど納得しようとしている。

それでもリーザさんには笑顔でいて欲しい、笑顔が似合うと思っている。

だから俺はもう少し頑張ろうと思う。


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