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えぴろーぐっぽいもの

 それから三ヶ月が経過した。

 SGはそのままの形でも別の形でも今のところ行われておらず、『アウトロー・ヘヴン』というチーム名もそろそろ風化していきそうな冬の始まり。

 恵と桐継は塔宮学園という学園都市内にある喫茶店でお茶を飲んでいた。

 名前の通り、ここは塔宮グループが経営する学園である。

 幼・小・中・高・大・専と全ての学校が揃っており、高等部からは全寮制でもあるため、学園都市内にはかなりの店が軒を連ねている。生徒が敷地を出なくてもほぼ全てのものが揃えられるようにと言う配慮だろう。

 二人とも何故このような場所にいるかというと、人を待っている為である。

「来たみたいだな」

 そのうちの一人は小走りでこちらに向かっている。

「おーい。師匠~。キリ先輩~。お待たせ~」

 若干息切れしながら同じテーブルに着いたのは黒鋼火錬だった。

「それほどでもない。のんびりお茶しながら待ってたからな」

 恵が新しく飲み物を注文する。

「そっか。あ、カルピスでお願い」

「分かった」

 やってきた店員にカルピスを注文する。

「うあ~。まさか補習がこんなに長引くとは思わなかったよ~」

 ぐでー、とテーブルに倒れ込む火錬。

 どうやら補習上がりでかなり疲れているらしい。

「火錬ちゃんは馬鹿だからな~。でも良かったじゃないか復学できてさ」

「そりゃあ高校中退よりは高卒の方が就職に有利だけどさ~。中退してから勉強なんて全くしてなかったし、この学校やけにレベル高いからなかなか追いつけないのよぉ……」

 あれから火錬は塔宮学園高等部へと編入していた。

 悊人が以前出した追加条件の一つらしい。

 ゲームが終了してあのマンションに住んでもいい理由がなくなってから、火錬はどこか新しい住まいを探そうとしていた。

 しかしそこで悊人がこの学園に来るように指示したらしい。

 塔宮学園は全寮制で住む場所も確保できるし、授業料も今までの賞金で十分に賄える。賞金が減ることを気にしていた火錬だが、そこは塔宮グループの優先株で将来的に増やすということで折り合いを付けた。

 学費免除制度を利用させようとしたらしいが、火錬の場合どうしても学力が足りなかったらしい。実力が釣り合わないのに特別扱いされるのを嫌う火錬は、結局まともなお金を払いながら塔宮学園に通うことになった。

 条件のもう一つは頑張って勉強して大学まで出たら将来は塔宮グループに就職させてもらえるということだ。

 職探しで痛い目を見ていた火錬には願ったり叶ったりの話だったが、もちろん悊人はそれまでに火錬を有能な人材に育てる目論見を忘れていない。休日には色々なところを見学させて、火錬が将来的にやりたいことについて早めに勉強できるように便宜を図ってくれたりもしているらしい。

 お節介にもほどがある、と恵あたりは思うのだが、悊人には悊人なりの打算があるらしく、恩を売ることで信頼できる人材を確保したいらしい。

 裏切りや騙し合いの多い企業世界の中で、無条件に信頼できる部下というのはかなり得難いものらしい。

 人間は利益で簡単に裏切るが、恩人は簡単に裏切らないということだろう。

 もちろんそれが通用しない人間もいるが、そのあたりの見極めには自信があるのかもしれない。

 確かに火錬は一度受けた恩義には必ず応えようとするだろう。これで結構義理堅い性格なのだ。

「そうそう。前に会った女装美少女もいたよ~」

「女装美少女って確か……」

 朔の時に稀血を提供してくれた美少女……もとい美少年(?)のことだろう。

 悊人の養子だと言っていたがこの学校に通っていたことまでは知らなかったらしい。

「棗生って言ってたっけ? 会ったって、女子学園の方で?」

 塔宮学園高等部は女子学園と男子学園に分かれていて、火錬が通っているのはもちろん女子学園の方である。男子学園は大きな壁を隔てた向こう側にあり、許可がなければ入ることはできないらしい。

「女子学園だよ。いやもうびっくりした。ほんっきで美少女だし! 娘さんにも会ったよ。なんていうか、ちょっと個性的な先輩だった……」

「個性的、ね……」

 悊人の娘もこの学校に通っているらしく、火錬よりも一学年上の先輩らしい。

 一体どのように個性的だったのか、それは聞かない方がいいのかもしれない。

「しかし女装しているとはいえよくもまあ男を女子高に通わせてるよな、あの人も」

 桐継がかなり呆れた調子で言う。

「まあオレ達には計り知れない事情があるのかもな」

 それも多分、知らなければよかったと思うようなくだらない……もとい拍子抜けするような事情があるように思う。

「まあ学生生活を楽しんでいるようで何よりだ」

「うん。勉強は大変だけど結構楽しいよ。やり甲斐もあるし、頑張ってるつもり」

「そっか」

 恵は火錬の頭を優しく撫でる。そのまなざしはとても温かい。

 火錬の方も嬉しそうにそれを受けている。

「……そうやってるとたった一か月で別れたカップルには見えないな」

 その様子を眺めていた桐継がコーヒーをすすりながら言う。

「うーん。別に嫌って別れたわけじゃないからね~」

「だな」

 あの事件が終わってからすぐに恵と火錬は付き合い始めた。

 同じ病室で何日も過ごすうちにそれなりに仲良くなったらしい。

 しかし一か月もするとすぐに別れてしまう。

 浮気や喧嘩別れではなく、お互いやっぱり別れた方がいいという結論からそうなったらしい。

「なんかねぇ。師匠や戦友として当たり前のように隣にいるのは大丈夫なんだけど、恋人っていう甘ったるい雰囲気になるとものすごい違和感があるんだよねぇ」

「だな。付き合っていくうちに何かが違うって思い始めたらもう駄目だ。お互い元の関係の方が自然だってことで別れた」

「友達同士の方が居心地いいんだよね、私と師匠の場合」

「同感」

「………………」

 端から見ている桐継にしてみれば、どうにも甘々なバカップルにしか見えない。恵はとことん火錬を甘やかしているし、火錬の方も嬉しそうに甘えている。

「ま、時間が解決するだろうな」

「ん?」

「何か言ったか?」

「いや何も」

 桐継は再びコーヒーをすする。

 なんだかんだでお互いが傍にいるのが自然になっているこの二人は、きっと『恋人』という関係に違和感を感じただけで恋人関係そのものを嫌ったわけではないのだろう。

 お互いが傍にいることが自然で、傍にいないときは寂しいと感じる。

 こういうのはもう少し歳を取ったら分かってくるのだろう。

 数年後あたりには恋人期間をすっとばして夫婦にでもなりそうだなと思いながら、桐継はそんな二人を微笑ましい気分で見守った。


「そういえば満月ちゃんの家庭教師を引き受けたんだって?」

 恵が話題を切り替えて桐継に言う。

「ん? ああ。こっちは前の学校よりもかなり進んでいるらしくてな。困ってるみたいだからちょっと助けてやろうと思って」

 悊人が満月に出した追加条件も火錬と同じく、塔宮学園に通う事だった。

 初等部と中等部は希望者のみ寮に入れるようになっている。

 満月は最初寮に入ろうとしたのだが、母親の朔が退院後学園の事務員として雇われることになり、敷地内にある職員用マンションに住むことになったので、今はそこから初等部に通っている。

 満月だけならまだしも母親の就職や住まいまで面倒を見るのはかなり甘いのではないかと桐継も思ったのだが、そこはそれなりの打算があったらしく、

『棗生くんにもしものことがあった時の為に、シスAB型の人間を管理下に置いておくことは私個人にとって有益なことなのだよ。安全策だと思えばこの程度の支援は安いものだ』

 とのことらしい。

 養子だとは思えないくらい大事にしているのかもしれない。

「塔宮さんもだけど、桐継もなんだかんだで満月ちゃんに甘いよな」

 恵がからかうように言うと、

「まあな。俺は現在進行形で光源氏計画を進行中だ」

「は……?」

「何のこと?」

 恵と火錬が首をかしげる。

 光源氏計画?

 俗な意味で解釈するなら……

「マジか?」

 その意味を把握した恵が変態を見るような目で桐継を見る。

「幼い女の子を将来的に恋人にするために育て上げていくっていう、アレ?」

 火錬も同じような目で桐継を見ている。

「何とでも言え。あんな一途で健気で可愛い女の子は滅多にいないぞ。あのまま育てばかなりいい女になることは間違いない」

 悪びれもせずに言う桐継。

「そりゃそうだけどさ……」

「年齢差を考えろよ……」

「ふん。あと十年もすれば関係ないさ。二十九と二十なら十分に釣り合うだろう?」

「………………」

「………………」

 どんだけ長期計画なんだ、と呆れ果てる恵と火錬。

「今でも時々『将来はきりお兄ちゃんのお嫁さんになる~』とか無邪気な笑顔で言われるとかなりぐっとくる」

「………………」

「………………」

「朔さんともそれなりに仲良くなったし、将来的にはかなり良好な関係が築けるだろう」

「………………」

「………………」

 変態的な嗜好の割にかなり堅実な行動計画を立てているらしい桐継に二人は何も言えずにいる。

 そんなやり取りをしているうちに満月がやってきた。

 待ち合わせメンバー最後の一人だ。

「ごめんね。わたしが一番最後だったんだ!」

「気にしなくていいわよ。そんなに待ってないから」

 火錬が慰めるように言う。

「よかった~。あ、きりお兄ちゃん。この前きりお兄ちゃんが教えてくれたところテストにでたよ! すっごく助かったの。ありがとうね!」

「どういたしまして。また分からないところがあったらいつでも電話してくるといい。時間が空いたときに教えに来てやるからな」

「うん。ありがとー!」

 くしゃくしゃと頭を撫でる桐継。えへへと嬉しそうに笑う満月。

「………………」

「………………」

 光源氏計画は着々と進行中のようだ。

「ところでちょっとキリ先輩から聞いたんだけど、将来はキリ先輩のお嫁さんになるって本当?」

 火錬が面白半分に訊いてみる。

 満月はきょとんとなってから、

「うん。本当だよ! みてみて~」

 満月は胸のところからネックレスを取り出す。

 そこにはちょっと高そうな指輪が鎖に引っかけられていた。

「……ええと、それは?」

 嫌な予感がしつつ、火錬が問いかける。

「こんやくゆびわ、なんだって。きりお兄ちゃんがくれたの。わたしがお嫁さんになりたいって言ったらじゃあ予約代わりにゆびわをあげるって」

「……キリ先輩」

 軽蔑するような視線を桐継に向ける火錬。

 いくらなんでも小学生相手にそこまでするか、と言いたいのだろう。

「……お前、いくらなんでもそれはやり過ぎだろう」

 恵も声を潜めながら桐継に言う。

 小学生に婚約指輪を贈る大学生。

 端から見れば立派にロリコン趣味の変態の犯罪行為だ。

「牽制代わりだよ」

 しかし桐継はあっさりとした口調で言う。

「牽制?」

「満月ちゃん、あれで結構モテるんだ。たまに告白されたり手紙をもらったりするらしい」

「……マジか」

「で、そういう時にあの指輪を見せれば話は早いだろう?」

「……小学生にそれが通じるかあ?」

「男には通じなくても女には結構通じるらしい。ロマンチック、素敵、など言われて勝手に盛り上がってくれている。つまり女子の方で勝手に噂を広めてもらるからそれだけで十分な牽制が成り立っている訳だ」

「……あくどいなぁ」

「計算高いと言ってもらいたいな」

「どっちも大差ねえよ」

 男同士でこそこそ話しながら女の子二人を見守る。

 満月は嬉しそうに指輪を見せながら、

「今はくびかざりだけど、十八さいになったらちゃんと指にはめてくれるんだって。えへへ。ちょっと楽しみ~」

「あはは……そうなんだ……」

 純真な笑顔を見せてくれる満月に対して引き攣った笑顔で応える火錬。

 どう対応していいか困っているのだろう。

「ん?」

 恵の携帯電話が着信音を鳴らす。

 電話に出ると、

「え? ちょっと待てよ。今日は午後からオフだって言ってただろ? は? 急用? ったくしょうがねえなあ。分かったよ。今から向かうからちょっと待ってろ」

 電話を切ってやれやれと肩を竦める恵。

「仕事か?」

「ああ。急用が出来たからついて来てほしいってよ。ったく世話の焼けるご主人様だぜ」

「そう言ってやるな。彼も立場上色々あるんだろう」

「分かってるけどな」

 恵は悊人の紹介で要人警護の仕事をしている。

 某国の皇子らしいのだが、色々な経緯があって塔宮グループに所属しているらしい。皇位継承権や機密情報など様々な問題で命を狙われることが多い人物なので、出来れば腕の立つ護衛が欲しいとのことだった。

 暴力仕事大歓迎ということで早速その皇子と引き合わされたのだが、これがまたいい性格の美青年だった。

 偽装として日本人に見えるよう髪の色や瞳の色を変えたり、偽名を名乗ったりもしているのだが、とにかくそんな事どうでもいいくらいに美形だった。

 年齢は恵とほとんど変わらないため、雇い主というよりは友人として接して欲しいと言われた。

 なので要望通り、恵は友人として彼に接している。

 友人同士になってしまった分、実に遠慮のない頼み事をされたりするのだが、許容範囲である間は聞いてやっても構わないと思っている。

 今回は急用で、ある人物と面会に行くから護衛としてついてきて欲しいと言われた。

 恵が護衛を引き受けてから二ヶ月と少し経つが、その間だけでも彼を襲ったトラブルは軽く十を超える。実に退屈しない毎日だったが、外出一つに護衛がいるというのは大袈裟でも何でもないことがこの事実から分かる。

 本人もかなりの使い手なのだが、やはり専門ではないため接近戦では恵に遠く及ばない。

 しかしたまに手合わせをしたりしてそれなりに楽しんでいる。

「というわけでちょっくら行ってくるわ。夜には戻るからオレの部屋で久し振りに騒ごうぜ」

 恵の雇い主が学園都市内の研究施設に常駐している為、恵も学園都市内へと居住空間を移している。

 恵、火錬、満月と四人のうち三人が塔宮学園の敷地内に住んでいる為、チーム解散してからもたまに集まるようになった。

「いってら~」

 火錬が軽く手を振る。

「がんばってね、けいお兄ちゃん」

「おう」

「……殺すなよ?」

「殺すか!」

 皇子の元には結構な手練れが送り込まれてくるので、たまに殺しかける場合もある。それを知っている桐継が笑えない突っ込みを入れてきた。

 まあ相手が殺すつもりでやって来るのだからこちらが間違って殺しても文句を言われる筋合いはないのだが、やはり殺さずに済むのならその方がいいに決まっている。

 恵は立ち上がって雇い主の下へと向かった。

 桐継と火錬、そして満月はその後ろ姿を見送る。


 こうして、四人はそれぞれの日常を過ごしている。

 それは決して楽しいだけの毎日ではないけれど、こうやってたまに揃って笑い合うことが出来るなら、それはとても幸せなことなのだとそれぞれに思うのだった。

『アウトロー・ヘヴン』は解散したけれど、直純恵、草薙桐継、黒鋼火錬、夜乃満月は今もこうして一緒にいるのだった。

 


これにてアウトロー・ヘヴン完結であります。

最後までお付き合い下さりありがとうございました。

最後の最後で桐継たんがロリコン化していますが、まあ白い目で見てやってくださいませ(^_^;)

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