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恵の報復

 で、改めて悊人が今回の顛末を説明してくれた。

 SGは今回完全に中止になったこと。

 今回のようなことがあるかもしれないので今後の開催は見送られるかもしれないこと。

「さすがに今回は余計な被害が大きすぎたからな。被害を被った一人として廃止に向けて動きたいと思っているよ」

 悊人がそんな風に言う。

 元々取引上の付き合いで参加させられていただけらしく、このゲーム自体あまり乗り気ではなかったらしい。

 SGがなくなることに未練は全くないが、それでも別の形で復活するだろうということだけは予想できた。

 若者の虚無的な暴力衝動と上流社会の悦楽主義はなかなか度し難いものがあるらしい。取引の都合上、そういうのに関わらなければならない時もあり、経営者とは面倒なものだよとぼやく悊人。

「偉い人ってのも色々大変そうですね」

 恵がそんな合いの手を入れると、

「ははは。その分やり甲斐はあるがね。可愛い娘に跡を継がせるまで経営を傾かせるわけにもいかないしね」

 どうやら娘がいるらしい。

「それで、こいつを君達に受け取って貰いたい」

 悊人は持ってきていたアタッシュケースをテーブルの上に置いた。

 ケースを開くと、そこにはぎっちりと札束が入っていた。

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 四人とも絶句。

「ええと……これは……?」

 恵が辛うじて口を開くと悊人はにやりと口元を吊り上げた。

「今回の迷惑料だ。君達が最終戦に勝利したときに貰えるはずだった賞金五億円」

「俺達、勝っていませんけど」

「だから、迷惑料だ」

「多すぎませんか? 今回塔宮さんもそれなりに出費があったと思うんですけど。PMCへの報酬とか、私たちの入院費用とか……」

 さすがの火錬も今回ばかりは気が引けるようでそんな風に言う。

 満月はあまりのことに開いた口がふさがらない状態だ。

「その点は心配しなくてもいい。こいつは今回例のディスクを紛れ込ませた張本人からぶんどってきた金だからな。私は一切損をしていない」

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 更に絶句。

 いくら迷惑料といっても一人に五億を負担させるとは悊人もかなり極悪な手段に出たらしい。

「もちろん今回かかった費用もそいつに負担してもらう。ゲームを台無しにした報いはきちんと受けて貰わないとね。これは主催者全員の意見だ」

「……なるほど。『緋色の爪』への賠償もそいつが?」

 恵が気になっていたことを問いかけるが、

「いや。彼らは怪我の補償だけだ。君達が蒙った迷惑の方が遙に大きいからね」

 どうやら賞金の補償までしてもらえるのは自分たちだけらしい。

「まあ……塔宮さんが損していないというのならこの金は遠慮なく受け取りますが」

「ですね。今回のことは少なからず腹立たしいものがありますし。この金を受け取ることで元凶が痛手を受けるというのなら喜んで」

「ああ、なるほど。そういう考え方も出来るわけね。じゃあ私も遠慮なく」

「ええと、いいのかな」

 遠慮のない三人と違って、満月だけはちょっと気まずそうだった。

 酷い目に遭った分くらいは取り戻しても問題ないと割り切っている恵達と違って、朔の手術も無事に終え、今後必要な金銭も十分に確保できている満月にとっては、勝ってもいないのに金を受け取るのは抵抗があるらしい。

 それを察した悊人が満月の頭を撫でながらこう付け加える。

「いいから受け取っておくといい。これは君達の正当なる権利だ」

「うん……」

「でも塔宮さん。こう言っちゃなんですけど、満月ちゃんに必要以上の大金を持たせるのは危険じゃないですか? その……宝くじを当てた人間に擦り寄るアレ……みたいな事が起こったとき満月ちゃんだと対処できないんじゃないかと思うんですけど……」

「確かに恵君の言う通りだな。……しかし満月ちゃんだけ受け取らないというのも不公平が生じるし。どうしたものか……」

「一時的に塔宮さんが預かっておくというのはどうですか? 満月ちゃんは未成年ですし、後見人という形で資産運用していけば増やすことも可能ですし。満月ちゃんが成人するまではその方法の方が確実だと思いますけど」

「それは名案だ桐継君。それでいこう。満月ちゃんはそれでいいかな?」

「ええと、よく分からないけどそれが一番いい方法ならおねがいします」

「分かった。塔宮グループ株を購入しておけば数年後には倍に膨れ上がっているだろう。期待してくれたまえ」

「?」

「……さすが塔宮グループ。オレも購入しようかな」

「構わないよ。君達四人相手なら優先株を発行しよう」

 大金を貰った後に更なる大金を稼ぐような話をある程度した後、軽くお茶を飲んだりお菓子を食べたりしながら雑談を続けた。

「さて。私はそろそろ仕事があるので失礼するよ。君達はゆっくりしていくといい。この病室は治療行為以外は不干渉を徹底させているから何時まででもいてくれて構わないし、泊まっていってもいい。まあベッドは二つしかないからソファに寝て貰うことになるがね」

 悊人は立ち上がって退室しようとする。

 恵も立ち上がって一緒に病室を出ようとする。

「途中まで見送りますよ」

「そうかい?」

 恵と悊人は一緒に病室を出た。

 二人で廊下を歩いて、ロビーにまで辿り着く。

「塔宮さん。少し頼みたいことがあるんですが」

「何かな? 今の君達の頼みなら大抵のことは聞いてあげられるよ」

「では今回ディスクを紛れ込ませた張本人と、それから俺達を襲ってきた多国籍マフィアの一番偉い人を教えてください。出来れば潜伏場所も」

「………………」

 物騒な頼み事に眉を顰める悊人。

「何をするつもりだ?」

「今回の落とし前をきっちり付けさせて貰います。金で解決出来ればそれで良かったんですけど、火錬ちゃんの件だけはちょっと許せそうにないんで」

「……断ると言ったら?」

「自分で調べます。幸い、調査資金は腐るほどありますからね。これだけ大事になったんだから情報なんて金次第でどこにでも転がっているでしょう?」

「………………」

 確かにその通りだった。

 悊人が断っても恵はとことん調べるだろうし、いずれ欲しい情報にも行き当たってしまうだろう。

 時間の問題ならここで教えてしまう方が無駄がなくていいのかもしれない。

「多国籍マフィアの頭はすでに警察の手に引き渡している。悪いが諦めて貰うしかないな」

「……そうですか」

 やや残念そうに目を伏せる恵。

「ではディスクを紛れ込ませたヤツは? 主催者の一人なんでしょう? どこの企業のお偉いさんなんですか?」

「……止めても無駄か。身体は回復しているんだろうね?」

 盛大な溜め息と共に問いかける悊人。

「戦闘に支障がない程度には。少なくとも一般人を半殺しにするくらいは問題なく」

「……くれぐれも殺さないようにな。殺人となるとさすがに庇いきれない」

「分かっています」

 仕方なく悊人は犯人とその居場所を教えた。

 それを聞いた恵はぞっとするほど冷たい笑みを見せてから悊人に礼を言うのだった。

「……やれやれ。これは血の雨が降るかもしれないな」

 病室に戻っていく恵を見送りながら、悊人が呟いた。


物騒極まりないね恵たん!

きっと本気で怒ってるね!

こういうヤツは怒らせるとかなりタチが悪いぞ!

というわけで犯人さんご愁傷様(T_T)

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