救出作戦
悊人のいる塔宮グループ本社へと戻った恵達は、その一時間後に誘拐犯からの連絡を受けた。
内容は、
『二人を帰して欲しくば今から二時間以内に指定の場所までディスクを持ってこい』
というものだ。もちろん届けるのは恵と桐継の二人のみという指定も含めている。
「………………」
二人の声も、無事なのかも、一切教えてもらえなかった。
現状を確認したければ現場までいくしかないということだろう。
「コピーは取ったからディスクを持っていくのは構わないが。それでも二人だけで行くのは危険すぎる。相手はマフィアだぞ」
悊人は恵にディスクを渡すことを若干渋っている様子だ。
「そんなのは十分承知していますよ。ですがオレ達が行かないと火錬ちゃん達が危ないんです。行くしかないでしょう」
「少し時間をもらえれば私だけで対応できる。時間稼ぎは何とかするから、思い留まってはもらえないか?」
「……対応とは? 具体的に聞かせてもらいたいですね」
桐継が質問する。
「……PMC(民間軍事会社)を動かす。組織には組織で対抗させてもらおう」
「PMCって、ちょっと待ってください。軍事勢力を介入させるつもりですか!?」
「その通りだ。塔宮グループが契約しているPMCを今回は動かせてもらう」
とんでもないことを言い始めた悊人に、恵と桐継が唖然となる。
「ただし二時間以内には間に合わない。最低でも四時間はかかる。その間、どうやって時間稼ぎをするか、そこが問題だが……」
「じゃあその時間稼ぎをオレ達が引き受けます」
恵が言う。
「だから待ってくれ。それをさせたくないからPMCを動かすんだぞ。君達をこれ以上巻き込むのは本意ではないんだ」
「そうは言いますが、相手は非合法組織ですよね。下手に引き延ばしで機嫌を損ねた場合、人質がどうなるか分からない。人質っていうのは命さえあればそれで十分なんです。違いますか?」
「それは……」
「不愉快な話ですが、今頃満月ちゃんも含めて変態共に嬲られていても、腕や足の一本潰されていても、命に関わらなければ何をされていてもおかしくないんです」
「………………」
「そういう連中でしょう? 火錬ちゃん達を攫ったのは」
恵が続ける。
「だからオレ達は助けに行きます。火錬ちゃんと満月ちゃんはオレ達の仲間です。オレ達がただ待っているだけなんて、出来るわけ無いじゃないですか」
「俺も恵と同意見です。少なくとも俺と恵には何とか出来るだけの力があると自負しています。真っ向から衝突することは出来なくとも、隙を見てあの二人だけでも助けだすことくらいなら出来ると思っています」
恵と桐継は悊人をじっと見ている。
了承して欲しいという期待を込めて。
「……分かった。確かに火錬ちゃん達の身の安全を考えると引き延ばしは有効な策ではない。君達にその覚悟があるというのなら、任せよう」
「ありがとうございます」
悊人からディスクを受け取った恵はそれを懐へと仕舞う。
「こちらもなるべく早く動かせるように働きかけてみる。だからくれぐれも無理はしないでくれ」
「分かっていますよ。大丈夫です」
「それと防護服はそのまま着ていくといい。拳銃の弾ならある程度防いでくれるはずだ」
「ついでにもう一つ。実弾を用意してもらえますか?」
桐継が二挺拳銃を取り出して言った。
ゲームではゴム弾を使用していたが、本物の拳銃なので実弾も撃てる。今回はそれを使用するつもりなのだろう。
「……分かった。十分な数を用意させよう。他に必要なものはあるか?」
「できれば制圧用の武器をいくつかお願いしたいですね。閃光弾はもちろん、手榴弾も今回は必要になるでしょう。多勢に無勢の状況なので出来るだけ威力の大きいものが望ましいですね」
「……お前、ここぞとばかりに物騒なものを所望してるな」
次々と物騒な装備を要求していく桐継に、恵が呆れ混じりの視線を送る。
「何事も準備が肝心だからな」
桐継は悪びれもせずに言う。
「じゃあオレは刃物をいくつか持っていく。大振りのナイフと、投擲用のナイフを数十本ってところかな。牽制に使えそうだし」
「今回ばかりは殺すつもりでかかった方がいいぞ。向こうは確実にそのつもりだ」
「……分かってるさ」
次々と殺傷用の武器を装備しながら、恵と桐継は準備を進めていく。
「すまないが、後は頼む。こちらもできるだけ早く戦力を整えて駆けつけよう」
「お願いします」
「精々獲物を減らしておきますよ」
不敵な台詞を残しつつ、恵と桐継は大切な仲間を救出するために塔宮グループ本社ビルを後にした。
次はアクションかな?
クライマックスへと突入しつつ、未だに展開に悩んでいる水月であります。
とりあえず格好良く書いてあげるべきか、変態モードで書いてあげるべきか悩み中……いえいえ何でもないです。げふんげふん




