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トラブル発生!

「……うわ」

 草場が出てきたことで厄介事に巻き込まれたという認識はすでにあったのだが、その厄介事がかなりの大当たりだったというのは恵にとってなかなか複雑な心境だった。

 賞金の分配をしようとして、ついでに温泉にも入ろうとして火錬たちのマンションへと向かった恵達だが、そこで確認したアタッシュケースの中身は……

「……どう思うよ、これ」

 賞金一億円。

 これはいい。

 四人で分配して二千五百万円。

 これで火錬も経済的にかなり潤うだろう。満月も高校卒業するまでくらいなら朔ともどもそれなりの生活を送れるはずだ。

 ただし、入っていたのはそれだけではなかった。

「一見、ただのブルーレイディスクだな……」

 桐継がディスクを裏返しながら言う。

 以前はワインが入っていたこともあったが、こんなものを紛れ込ませて一体何に使えというのだろう。

「中身の確認は……やめておくか。どうにもきな臭い。塔宮さんにでも渡しておこう」

 何か異常があればすぐにでも報告するようにと言われている。

 これは明らかに異常だろう。

「そうだな。どんなデータが入っているにせよ、多分俺達には関係ない」

「案外映画のディスクだったりして?」

 火錬が茶化すように言うと、

「はは。そうかもしれないな。塔宮さんのところで確認して面白そうだったらまた持って帰るさ」

 ここで確認してもいいのだが、火錬と満月がいるところでそれは気が進まない。知らなくてもいいことならば、知らないままの方が巻き込まれなくて済むかもしれないからだ。

 恵は手早く分配を済ませてから、ディスクを回収した。

「温泉はまた今度にする」

 恵が立ち上がる。

「え? 入っていかないの?」

「なんだ火錬ちゃん。一緒に入りたかったのか?」

「水着着用ならそれもアリかなって思ったけど」

「……火錬ちゃん。それはあまりにも残酷な提案だ」

「普通だよ!」

 温泉を楽しみにしていたはずなのに、今回は遠慮すると言った恵に対して少し不思議がった火錬だが、急ぎの用事があるのなら仕方がない。

「じゃあオレはもう行くよ」

「俺も帰る」

「うん。じゃあね師匠、キリ先輩」

「またね~」

 火錬と満月に見送られながら、二人はマンションを後にした。


 マンションを出てすぐに恵は悊人へと連絡を取った。

 ディスクのことを話すと、悊人はすぐに届けて欲しいと言ってきたのでそのまま塔宮グループ本社へと向かう。


「………………」

 社長室に入ってディスクを引き渡した恵たちは、そのまま美人秘書が出してくれたお茶をのんびりと飲んでいる。

 その際、美人秘書が獲物を狙うような目で恵を見ていたのが少し気になった。

 ……年下趣味なのかもしれないと思いながら、あの美人秘書なら悪くないかもと恵はこっそり考える。

 ちなみにネームプレートには『村雨』と書いてあり、悊人には『恭子くん』と呼ばれていたので彼女の名前は『村雨恭子』というのだろう。

「……これは、不味いかもしれない」

 ディスクをパソコンに挿入して中身を開いた悊人は難しい表情でそう言った。

「不味いって? 何かヤバいデータでも入ってたんですか?」

 恵が問いかける。

「詳しいことは私にも分からないが、これは恐らく『抗体医薬品』のデータだ」

「抗体医薬品……?」

 首を傾げる恵と桐継に悊人が簡単に説明してくれた。


 人間は常に細菌やウイルスといった外敵やがん細胞の脅威にさらされている。抗体は、これらの脅威に立ち向かうキープレイヤーとして重要な役割を担っている。抗体はB細胞(リンパ球の一)が分化したプラズマ細胞から産生され、作り出された抗体は外敵やがん細胞に存在する特定の抗原に結合する。抗体がその抗原と結合すると、様々な働きで外敵やがん細胞を排除する。

 抗体医薬品とは、生体がもつ免疫システムの主役である抗体を主成分とした医薬品だ。

 一つの抗体が一つの標的(抗原)だけを認識する特異性を利用する。

 抗体医薬品は、副作用の少ない効果的な治療薬として注目されており、ゲノム解析により創薬のターゲット となる抗原分子が特定されていくことで、抗体医薬の可能性が拡大していくことが期待されているという。

 従来の医薬品との大きな違いは、まず特異性がある。

 従来の医薬品はある標的を狙って作ったつもりが、標的以外にも作用することがしばしばあり、時として思わぬ副作用が出ることが問題になっている。

 一方、抗体医薬品は標的を狙って作ると標的以外に作用することがほとんどないため、想定外の副作用が出ることがあまりない。

 副作用が全くないわけではないが、それでも高い効果と少ない副作用が期待でき、効果の有無を判断しやすいという利点がある。

 更に身体の中で効果を発揮する時間が比較的長いため、服用回数を減らすことも出来る。


「という訳なんだが、どこまで分かった?」

 悊人が意地の悪い表情で問いかけてくる。

「……半分、くらい? 副作用が少ないのと治療効率が上がるってことくらいですかね」

「俺もそのくらいです」

 知恵熱が出そうな表情で二人がギブアップするように両手を上げる。

「いや。概要としてはそれで十分だ。問題は、このデータが今まで発表されているどの抗体医薬品にも一致しないということだろうね」

「つまり……」

 その意味を理解した恵がじっと悊人を見る。

「そう。未発表の新型だ。そしてこいつを開発した企業にも心当たりがある。その企業が抱えている問題にも」

「………………」

「………………」

「その企業は医療事業に力を入れていてね。そこまではいいんだが、そこに目を付けた多国籍マフィアにちょっとした脅迫を受けていたんだ」

 悊人が淡々と語る情報に、恵と桐継は嫌そうな表情になる。

「この抗体医薬品のデータは、間違いなくその多国籍マフィアが欲しがっている情報だろうね。ちなみにその企業はこのSGの主催者の一人だ」

「……つまり、餌としてばらまかれたと?」

 あんたらの欲しがっているデータは既に盗まれた後だ。

 利益を確保したければ公開される前に取り戻せ、と。

「賞金に紛れ込ませることで奴らの目をこのゲームへと移行させたんだろうね。まったく、舐めた真似をしてくれる」

 悊人は怒り混じりに机を叩く。

 ダンッと机の上全ての物が一瞬浮き上がるほどの衝撃だった。

「じゃあ草場達はそのマフィアに雇われたってことですか?」

「恐らくは。所属しているわけではないと思う。簡単に足が付くような真似はしないだろうからね。今回勝ち抜いたもう一チーム『緋色の爪』にも警戒を呼びかけた方がいいかもしれないな」

「でしょうね。あちらにも餌が撒かれている危険がある」

 多国籍マフィア。

 彼らがどれだけの規模を誇るかは分からないが、そんなものにまで介入された以上、ゲームの継続は難しいかもしれない。

 いや、中止するべきだろう。

 悊人がそんな事を考えていると、

「………………」

 パソコンを眺めていた悊人の表情が険しくなる。

「どうしたんですか……?」

 それに気付いた桐継が問いかける。

「今、メールが届いた。『緋色の爪』が全滅したそうだ」

「……言った傍からですか」

 桐継が眉根を寄せて溜め息をつく。

「ああ。しかもゲームで勝利した後に帰り道で襲われたらしい。全員が全治一か月以上の重傷を負わされて、アタッシュケースは奪われている。これで否応なしにSGは中止せざるを得なくなったな」

「……でしょうね。対戦相手がいなくなった以上、継続は不可能ですし」

 恵が続ける。

「とにかく事態は最悪だ。君達はあのマンションにしばらく留まって二人の護衛をして貰いたい。ディスクがこちらの手にある以上、何らかの接触をしてくるはずだ。こちらからも何人か護衛を送ろう」

「朔さんのところにもお願いします。関係者が狙われる可能性も否定できません」

 桐継が付け加えた。

 火錬は天涯孤独であり、恵の方も家族は強者揃いだから心配はない。

 桐継の家族は運よく北海道の方に転勤してみんなそちらの方へ生活の拠点を移している。事態が解決するまでの時間は稼げるだろう。

 だが無防備に晒されている夜乃朔だけは危ない。

 桐継は真っ先にそれを心配した。

「分かっている。朔さんのところへも護衛を送る。病院内だからあからさまな警護は出来ないが、それでも腕利きを送っておこう」

「お願いします」

「分かっていると思うが、火錬ちゃん達にしばらく外出は控えるように言っておいてくれ。事態が解決したらこちらから連絡する。それまでは買い物等は桜井の方に頼んでおいてくれ。彼にも連絡しておく」

「分かりました」

 事態の重大さを即座に理解した恵と桐継は、先ほど後にしたばかりのマンションへと戻ることになる。

「……しばらく大学には通えないかな」

 桐継がそんな風にぼやくと、

「なるべく早く解決することを祈りたいものだな」

 恵がそう返した。


意外なところでもう一人ゲスト登場。

いやあ、知らないって怖いな~。

知らないままでいられたらいいねぇ恵たん!

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