第17話「美玲ちゃんの嘘つき」
「じゃあ、また来るね」
「美玲ちゃん、今度はもっといろんなピンク持ってきて!」
「うん。考えとく」
子どもたちに手を振り、美玲は母と一緒に養護施設を出た。
駐車場へ向かおうとしたところで、母が足を止める。
「あら?」
母の視線の先を見る。
「……海斗?」
少し離れたところに、カメラを持った海斗が立っていた。
美玲が声をかけると、海斗がこちらへ歩いてくる。
「まだいたの?」
「うん」
海斗は美玲の隣にいる母を見て、軽く頭を下げた。
「こんにちは。藤堂海斗です」
「こんにちは。美玲の母です。同じ大学の子?」
「そう。前に一緒に課題やってたの」
「今、写真のコンクールがあって。その題材を探してて」
海斗が持っていたカメラを少し持ち上げる。
「それでここに?」
「はい。歩いてたら、たまたま美玲さんを見つけて」
「そうなの」
母が美玲を見る。
「何よ」
「何も言ってないわよ」
母は楽しそうに笑った。
「その顔、絶対何か言いたそうじゃん」
海斗がそんな二人を見てから、美玲に視線を戻す。
「美玲」
「何?」
「ちょっと相談したいことがあったんだけど……」
海斗は一度、美玲の母を見る。
「明日にするわ」
「え?」
「またな」
「ちょっと、何よ。気になるじゃない」
海斗はそれだけ言うと、片手を上げて歩いていった。
美玲はその背中を見送る。
「……何なのよ」
隣で母が口を開いた。
「男前ねぇ、美玲のこと好きなのかしら」
「そういうんじゃないから」
美玲はもう一度、海斗が歩いていった方向を見る。
――相談って、何だろ。
「美玲?」
「ん?」
「帰るわよ」
美玲は母のあとを追って、車に乗り込んだ。
翌日。
講義が終わり、美玲が机の上の荷物をバッグにしまっていると、海斗がやってきた。
「美玲」
「あ、海斗」
美玲はバッグのファスナーを閉める。
「昨日の話って何?」
「ああ、それなんだけど――」
「あっ!」
突然、美玲が大きな声を上げた。
「何だよ」
「メイク道具!」
「は?」
「昨日、施設にブラシセット忘れてきた!」
「次も使うなら、置いとけばいいだろ?」
「ダメだよ。ブラシセットだもん」
「何がダメなんだよ」
「使ったらちゃんと洗って、消毒しなきゃいけないの。子どもの肌はデリケートなんだから」
「……へえ」
「何、その反応」
「いや。ちゃんとしてんだなと思って」
「当たり前でしょ」
美玲はバッグを肩にかける。
「可愛くしてあげるのに、肌荒れさせたら意味ないじゃん」
そう言って、美玲は教室を出ようとする。
「今から取りに行くの?」
「うん。まだあると思うから」
「じゃあ、俺も行く」
「え?」
「昨日の話もあるし」
「ああ、そうだった」
「忘れてただろ」
「忘れてないよ!」
美玲は先に教室を出る。
海斗は小さく笑って、そのあとを追った。
施設に着き、美玲は置き忘れていたブラシセットを見つける。
「あった! よかった」
「それ取りに来ただけだろ。帰るぞ」
「分かってるわよ」
美玲がブラシセットをバッグにしまい、帰ろうとしたときだった。
「……美玲ちゃん」
振り返る。
少し離れたところに、一人の女の子が立っていた。
目には涙が溜まっている。
「どうしたの?」
美玲が近づこうとすると、女の子の目からぽろっと涙が落ちた。
「美玲ちゃんの嘘つき」
「……え?」
「私、可愛くないんだもん」
女の子は、ぽろぽろと涙を流す。
美玲の足が止まった。




