第14話「会う理由」
課題の提出を終えた翌日。
美玲は講義室の椅子に座りながら、スマホを眺めていた。
四人のグループチャット。
昨日までは、そこに何度も通知が来ていた。
『何時に集まる?』
『莉央、ワンピース持ってきて』
『朔、絵の具忘れないでね』
『海斗、写真送って』
ほとんど課題の話ばかり。
それでも毎日のように四人で集まって、ああでもない、こうでもないと言いながら一緒にいた。
美玲は画面を指で上へ滑らせる。
海斗の名前が何度も出てくる。
昨日までは、なんとも思わなかったのに。
いや。
なんとも思っていないつもりだった。
美玲はスマホを伏せた。
昨日、莉央に言われたことを思い出す。
海斗の名前を見ただけで笑った。
それを指摘されて、否定した。
たまたまだと言った。
でも。
たぶん、たまたまじゃない。
「……好きなんだ」
小さく呟いて、美玲は机に突っ伏した。
気づきたくなかった。
よりによって、あの男。
初対面で自分を撮らないと言った男。
「最悪」とまで思っていた男。
絶対に私を撮りたいって言わせる。
そう思っていただけだったはずなのに。
いつから変わったんだろう。
「……なんでこうなっちゃったんだろ」
呟いてから、美玲は顔を上げた。
違う。
今はそんなことより、もっと大きな問題がある。
課題が終わった。
「……あ」
美玲はもう一度スマホを見る。
四人で集まる必要がない。
莉央とは普通に会う。
同じ大学なのだから、朔とだって顔を合わせることはある。
海斗だって大学にいる。
でも。
四人で放課後に集まったり。
机を囲んで雑誌を見たり。
撮影場所を探しに行ったり。
そんな理由は、もうない。
「……会う理由、なくなったじゃん」
口にした途端、思っていた以上に寂しくなった。
美玲は頬杖をつく。
別に、会おうと思えば会える。
連絡先だって知っている。
だからといって、
『今日、暇?』
なんて送れるわけがない。
何の用もないのに。
しかも昨日、自分の気持ちに気づいたばかりなのに。
「……無理」
美玲はスマホを鞄に放り込んだ。
知らなければよかった。
好きだと気づかなければ、今まで通りだったのに。
◇
海斗はカメラの画面を見ながら、何枚かの写真を送っていった。
課題で撮った莉央の写真。
自然の中で、完成したワンピースを着ている。
美玲が仕上げたメイク。
朔が描いた花や光。
それぞれがちゃんと一枚の写真の中に収まっていた。
悪くない。
海斗はそのまま、少し前に撮った写真まで遡っていく。
中庭で撮った莉央の写真。
風に髪が揺れ、耳にかけようとした瞬間。
あの時は、コンクールに出すなら莉央でいいと思っていた。
撮影の合間に撮った写真。
笑っている莉央。
朔と話している莉央。
そして――
指が止まった。
端のほうに、美玲が写り込んでいる。
莉央の髪を直しているところだった。
撮られていることに気づいていない。
海斗はしばらくその写真を見てから、画面を閉じた。
「藤堂」
声をかけられ、顔を上げる。
同じ写真専攻の学生が、カメラを肩にかけて立っていた。
「コンクール、もう出す写真決めた?」
「いや、まだ」
「まだ? 締め切り年内だぞ」
「分かってる」
同じ学科の友人は、
「まあ、まだ時間あるか。でも年内って言っても、あっという間だからな。テストもレポートもあるし」
と笑いながら去っていく。
海斗は椅子の背にもたれた。
余裕なんてない。
テーマは『美しい』。
最初は莉央でいいと思っていた。
華やかで、カメラ映えする。
実際、いい写真も撮れた。
なのに。
何かが違う。
海斗はもう一度カメラを開いた。
莉央の写真を何枚か見る。
綺麗だと思う。
ちゃんと撮れている。
それでも、これを出したいと思えない。
「……何撮りゃいいんだよ」
海斗はカメラを鞄にしまった。
課題は終わった。
でも。
「……俺のコンクール、終わってねぇ」
締め切りは年内。
まだ時間はある。
出すからには、絶対に優勝したい。
とりあえず、何か探すしかない。
海斗はカメラを持って、教室を出た。




