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魔女とヴァンパイア  作者: 眠木うに
1章 黄昏の国編
5/11

5 徒然

 あの日、家が燃えてから、色々なことがあった。

 


 外に出た私と母は武装した教会関係者たちに取り囲まれ、攻撃された。

 その数はおよそ20人。絶体絶命かと思われたが、意外にもその脅威はすぐに去った。


 私に離れていてと告げた母。自己犠牲かと思われたその言葉は、ただただ文字通りの意味だった。母は単純にものすごく強くて、その数の差を覆し、敵を次々に薙ぎ倒していったのである。

 魔術を組んで生成した巨大な光るハンマーを振り回し、振り下ろし、敵の悲鳴と断末魔だけが響く光景は、もはや爽快ですらあった。


 しかしそれで事件は収束しなかった。


 敵の中で1番偉いだろう、豪華な格好をした小太りの男が、にやりと笑って私に告げる。


「その女はお前の母親ではない。もちろんお前が父親だと思っている男もなぁ」

「……! そ、それ……は!」


 母が何か声を上げようとして、すぐに言葉を詰まらせる。

 告げられた意味を理解できず呆然とする私に、男は口角を上げながら続けた。


「むしろ、お前を育ててきた2人は、お前の真の両親の仇、なのだよ! ハハハハハッ!!」

「あ……ああ…………そ、それでも、それでも、私は、私たちは…………」


 ついには笑いを堪えきれず吹き出す男。泣き崩れる母。


 ………………私はその光景を見て、なんだか、もう、どうでもよくなってしまった。


「ミラ……武器をちょうだい」

『え……』

「お願い」

『わ、分かったわ』


 ミラから、夢の中で振っていた刀――リコリスラディアータを受け取る。ついでに指輪も受け取り、右手中指に嵌めておく。


「ハハハ……あ? なんだ、魔女。来るな……お前が殺すべきは、そこにいる女だ。断罪の刻は゛ァッ」


 リコリスラディアータを男の喉笛めがけて振り抜き、首を切断する。空中に飛んだ頭が落下してきたので、指輪の力で一瞬のバリアを張り、弾き飛ばす。


「ああ……アヤ、ちゃん……ごめ、ごめん、なさい……ごめんなさい……」


 母の方を見ると、泣き叫びながら土下座をしていた。

 その対象は多分私なのだが、別に、謝ってほしい感情はなかった。


 だから、ただ他人事のように、それを見ていた。


 それは何秒、何分、あるいは何十分、続いたのだろうか。


『アヤ……』


 ミラが気まずそうにオロオロしていた。申し訳ないと思いつつも、どうにも、何もする気になれなかった。

 


 そうしてできた最悪の時間は、1人の、空気の読めない乱入者によって終わりを告げた。


 突然地面に魔法陣が浮かび上がり、眩い光が収集され、人間の形を浮かび上がらせる。


 光が収まるとそこには、赤髪の、胡散臭い黒ローブをまとった女性が立っていた。ウェーブがかった長髪は腰あたりまで伸びていて、その上のいかにも魔法使いらしい濃紫のとんがり帽子が、胡散臭さを助長している。

 その人物は、見た目に違わない軽薄な口調で、場にそぐわない自己紹介を始めた。


「やあやあ! ボクの名前はリリア・シスタス! アインザーム魔法魔術研究所で1番賢くて、1番何でも知っていて、1番強いのがボクさ! だから安心するといい!」

「………………何が?」

「アヤちゃんの輝かしい未来をこのボクが約束しよう、ということだよ!」


 リリアと名乗る女性は高らかにそう言うと、私の左手を取る。

 足元にさっきと似た魔法陣が浮かび上がった。


転移(テレポーテーション)


 そのまま魔術が発動し、視界が真っ白に染まっていく。


「え……あ、ミラ……!」

『アヤ! ついていくわ!!』


 ミラの勇ましい声が聞こえて少し安心すると同時に、そういえば目の前が真っ白になって転移するの2度目だなとか、どうでもいいことを思いながら、その光に身を任せた。



 


 

 ……そして私は今、アインザーム魔法魔術研究所の食堂で、期間限定のココアショコラチョコレートケーキを食べていた。


「もぐもぐ…………おいしい。はい、あーん」

『んぐ……もぐもぐ……わたしもこの味好きよ。チョコレートが好きなの。……はい、あーん』

「んぐぐ……もぐもぐ……。…………んへへ……」


 ミラと一緒にケーキを食べさせ合っている。至福の時間だ。


 偉そうな男の衝撃的な説明を聞いた後、私は思った。そう、私にはミラだけがいればいいのである。他の細かいことは……色々と面倒だ。何が正しいとか、何を信じるとか、そういう難しい話が、きっと入り組んでいる。だから、私はミラだけが正しいと信じる。シンプルで明快で、疑いの余地もない。これが絶対に唯一、正解の道だ。だって……ミラは可愛いのだから。


「…………えっと……その…………あ、アヤッ」

「えへへへ…………はい、あーん」

『ちょ、ちょっと。呼ばれてるわよ』

「え?」


 ミラが視線を動かした方向を見ると、そこには見知らぬ少女が座っていた。さらりとした白いショートヘアの中から、くりくりとした大きい青い瞳がこちらを遠慮がちに見上げている。

 その少女は、東洋の島国に潜むと言われる伝説の職業の格好をしていた。それは――

 

「に……ニンジャ?」

「私はシノビ……そんなことより、その……アヤの前に、誰かいる……の?」

「え、あ、はい……います……えっと、あなたは……初めまして?」

「初めっ……!?」


 よく分からないがとりあえず初対面なので挨拶をしたら、急に目を見開いて驚かれてしまった。というか、少女の前のチョコレートケーキは全く手付かずのまま、若干溶けかかっている。少女の顔半分は黒いマスクで覆われていて、食べるそぶりが全くない。


「私……アヤが来てから毎日……ここで隣に座ってた……」

『た、確かに……いつも隣に座っているとは、思っていたけれど』


 え……いや、知らなかった。怖。


「まあ、私、影が薄いから……シノビだし」


 俯いてぼそぼそと話す少女。そもそも話しかけられたのは今が初めてであり、挨拶も、もちろん自己紹介もしたことがない。半分ストーカーである。


「……」

「……」

『……えっと、向こうはアヤの名前を知ってるみたいだし……まずは名前を聞いてみるのはどうかしら』

「! 流石ミラ」


 ストーカー相手には、下手に刺激しない会話選びが重要だ。無難な話題から攻めるのがいいのだろう。


「……えっと……名前、聞いてもいいですか」

「!!!」

「!?」


 私が話しかけた瞬間、隣に座っていた少女がガタンと立ち上がり、両手に武器――クナイと短刀を構え、器用にくるくると回し始める。


 ……なんで急に武器を持ったのだろう。一応右手の指輪を確認し、いつでも防御できる準備をする。


「私はシズク。アルプトラウム第10席。極東の国ヤマト――いわゆる土の国が出身。アヤは師匠と同じ黒髪、目の色も同じ。だから、仲良くなれる。任務は諜報が得意だけど、戦闘もできる。教えてほしいことがあったら何でも言って。喋るのは…………苦手」


 一息に言うと、急速に萎れていき、そのまま元の席に座る。そして縮こまり、動かなくなった。


「……」


 沈黙が続くのでもぐもぐとケーキを食べ進める。


『えっと……シズク、よろしくね……って、聞こえないわよね』


 ミラの姿と声は、私にしか見えないし聞こえない。

 私はミラが伝えたかったことをスピーカーのように繰り返す。


「シズク、よろしく」

「!! よろしく!」


 一瞬で武器を仕舞って握手を求めてきたのでシズクの手を握る。手のひらはすごく熱かった。

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