12 完璧な計画
「……せ、せんぱい……。……シズクせんぱい……っ……えへっ…………つ、つぎは……シズクお姉ちゃん、とか……」
「…………」
「ところで、一つ聞きたいことがある」
一人でぶつぶつと呟き続けるシズクを見ていたら、前を歩いているミリシアが急に立ち止まった。
「え……な、なんでしょうか」
少しうるさくしすぎたかもしれない。さっき怪しまれたばかりなので、あまりミリシアの気を引きたくはなかったのだが。
ミリシアは顔だけでこちらに振り返りつつ、何かを考えるように視線を少し上に向ける。
「……」
「……」
なんとも言えない沈黙が過ぎて、やっとミリシアが口を開く。その唇の動きは心なしかゆっくりに見えた。
「猫の獣人で——メイドの服を着ている騎士を見なかったか?」
「…………」
…………。
猫の獣人……。メイド。
獣人とは、人族と獣の特徴を併せ持つ種族の総称である。ここで言う獣とは、猫であったり犬であったり、熊であったりする。獣人よりも大きな括りとして亜人という枠組みもあり、そちらは蜥蜴や鳥の特徴を持つ者達、いわゆる非獣人も含む。
いやまあ細かいことはどうでもいい。猫の獣人は、どこまで人に寄っているのか猫に寄っているのかに個人差はあれど、共通する特徴として頭部に猫耳が生えている。
「……猫…………メイド?」
ミラと顔を見合わせる。
丸い瞳が猫みたいで可愛い。
——じっと見ると、うっすら猫耳とヘアバンドが——
————————!!
「……猫耳メイド!?!?」
猫の獣人でメイドなら、それすなわち猫耳メイドということだ。……猫耳メイドは実在する!
ミラを見ながら、脳内で猫耳を生やしてメイド服を着せる。その幻視は未来への希望であった。
「うへ……うへへ……」
『……アヤ?』
これは……絶対に実現しなければならない。その猫耳メイドの騎士とやらに会って写真を撮り、その写真をもとにアメリアさんに衣装を作ってもらい、そしてミラに着てもらうのだ!
……完璧だ。突如として舞い降りた幸運——そこから導かれる完璧な計画。任務に来て良かった。この国にあまり良い印象はなかったが、猫耳メイドに会えるなら何でもいい。いや、もう、このまま帰って、イメージだけでアメリアさんに作ってもらおうかな。
「うーん……そんな人は見てない……し、あんまり想像もできない。騎士なの? それ」
「……確かに」
シズクが口に出した疑問で我に返る。
そうだ……私だって、イメージを明確に持てていない。ただの猫耳メイドではなく、騎士でもあるという。なんで騎士が猫耳メイドなんだよ。……ビジョンが揺らいできた。このままの状態でアメリアさんに頼むのは、何というか……そう、妥協だ。何となく猫耳メイドってこんな感じだろうなというのはあるが、そういう抽象化は、どうしても結果を平凡に寄せてしまう。毎回「大体こんな感じでお願いします」と注文していると、すぐに私の想像力の限界を迎えて、似たような服ばかりになってしまうのだ。アメリアさんの腕を疑うわけではないが、やはり具体的な資料を手に入れ、それを直接見せるのに越したことはないだろう。
つまるところ、私はその猫耳メイドに会わなければならない。今回の任務の目標が決まった。
決意を新たにする私の前で、ミリシアが視線を戻しながら言う。
「そうか……分かった。では、私は職務に戻る。この先は大通りに出る、迷うこともあるまい」
堂々と歩き始めたミリシアの背を見て、ミラがぽつりと呟く。
『……優しい騎士サマって素敵よね』
!?
「!!! あの! 待ってください。最後に一つ…………騎士って、どんな人ですか?」
思わず呼び止めてしまった。若干後悔する私に、ミリシアはこともなげに言う。
「生涯をかけて、誓いを守ることだ」
……何でもないことのように言われたそれは、しかし、重く響いた。
私はミラを喜ばせたい。ミラの理想を全て実現したい。
ミラが素敵と言うのなら、私は、騎士にだってなろう。
パシャリ。
ミリシアの写真も撮っておく。
するとミリシアが完全にこちらに向き直って口を開く。
「あぁ、最後にもう一つだけ」
騎士になるコツとか教えてくれないかな。少しだけ期待して待つと。
「君たちは姉妹と言ったか。最近この街に引っ越してきたと」
「はい」
忍び装束に身を包んだ先輩、あるいは私の姉(仮)、シズクが誇らしげに返事をする。
「現在この街は外部の人間の立ち入りを禁止している。故に、引っ越しなど最近は一件も無い。次は別の言い訳を使うといい。あとニンジャは怪しい」
「……」
「……」
『……』
ミリシアはそれだけ言い切ると、固まる私たちを置いて、堂々たる振る舞いのまま去って行くのだった。




