第043話 運が悪いのはやっぱり……
「ヴェルナー様、近づいてきます! もっとスピードを出してください!」
後ろを見ているリーエが叫ぶ。
「べた踏みだよ。これ以上は出ない」
「向こうの方が速いです!」
軍船だしなー……
「ヴェルナー、どうする?」
イレーネが聞いてくる。
「逃げる一択だ。見つかったら俺達が生きていることがバレるし、一世一代の俺の名演技が水の泡だろ」
それになんで生きているんだって話になってしまう。
『止まりなさい! ただちに止まりなさい!』
うるせー……
「ヴェルナー様! 敵船が横向きになりました! 囲むつもりかも……え?」
ドーンッという音が聞こえた。
「どうし――ッ!!」
リーエに確認しようとしたらものすごい音と共に船が激しく揺れる。
「きゃっ! な、何!?」
俺もイレーネも体勢が崩れたが、舵や柱で支え、なんとか倒れずに済んだ。
「リーエ!」
「撃ってきましたー! 大砲です!」
横向きになったのは囲むんじゃなくて、大砲を撃つためか!
「イレーネ、操縦を代わってくれ!」
「わ、わかった!」
イレーネと代わると、リーエのもとに行く。
すると、後方に明かりが灯った複数の船が見えた。
「あれか」
「はい。巡視船と思われます。来ます!」
ドーンという音と共に船が光った。
「サイクロン!」
風魔法を使い、後方に竜巻を起こす。
すると、竜巻の手前で水飛沫が上がった。
砲弾が竜巻に阻まれ、船に当たる前に着水したのだ。
「お見事です」
「よし。大砲はこれで何とかなる。イレーネ、もっとスピードを出せ!」
「これが限界ー! というか、自分も操縦していたんだからわかるでしょ!」
わかる。
本当に遅い船だわ。
「ヴェルナー様、大砲の方をお願いします。私が風を起こし、スピードを速めます」
「よし、任せた……って来たか!」
またもや大砲が放たれたので風魔法で防ぐ。
その間にリーエが別の魔法で風を起こした。
「おー! なんか速くなった!」
「私がやりました!」
功績をアピールするホムンクルス。
「さすホム! よーし、逃げるわよ!」
俺達は役割分担で対処していく。
しかし、スピードが上がったのだが、これでようやく向こうと同じスピードってところだ。
つまり差が開いていない。
「どうしましょう?」
「向こうが諦めるとは思えんしな……」
「ヴェルナー! なんか舵が動かなくなってきたけどー!?」
はい?
「何があった!?」
「わかんない! 固くてっ! うーん!」
おいおい……
「あんまり力を入れるな! 折れるだろ!」
「そう言われてもー!」
一体何が……あれ?
「おい、なんか低くなってないか?」
「そういえば……確認してきます!」
リーエが走って、下の方に向かった。
もう大砲が飛んできてないので代わりに風魔法を使う。
「何、何ー?」
「沈んでないかー?」
「そういえば……」
嫌な予感がするなって思っていると、焦った顔のリーエが戻ってきた。
「ヴェルナー様! 下の倉庫が水浸しです! おそらく、最初の大砲が当たっていたようです!」
えー……
「つまり?」
「沈みます」
マジかよ……
「え? 沈む? 海の藻屑で本当に来世で一緒になる感じ?」
アホ。
「その前に追いつかれるわ!」
明らかに船のスピードが落ちており、どんどんと敵船が近づいてきていた。
「それも嫌よ!」
当たり前だ。
「仕方がない……やるか」
「ええ。こうなった以上はまずは自分達が優先です」
何の罪もない職務に忠実な兵士達には悪いが……
「すまない。そんなに岸から離れていないし、泳いでどうにかしてくれ。ウィンドバレット!」
接近してくる船達に狙いを定め、魔法を使っていく。
すると、追ってくる船が衝撃で揺れた。
そして、動かなくなると、徐々に沈みだす。
「お見事です!」
「何したのー?」
操縦していて見えていないイレーネが聞いてくる。
「船の下部に大穴を空けてやった。向こうの方が先に沈む」
「最初からやってよー」
そうは言うが、物事は穏便が一番だ。
何よりも魔法がバレたくないので攻撃魔法を控えたいのだ。
「何にせよ、向こうはもう動けない。行けるだけ行ってくれ」
「あいあいさー!」
「リーエ、倉庫の水をどうにかしてくれ。沈むまでの時間を稼ぐだけでいい」
「イエス、キャプテン!」
リーエが下の方に走っていった。
「イレーネ、ここはどの辺だ?」
「全然、わかんない。それどころじゃなかったし」
まあ、そうか……
俺も風魔法を使い、船の速度を上げていく。
すると、どんどんと軍船から遠ざかっていき、ついには見えなくなった。
「よし、逃げられたぞ」
「さすヴェルー。でも、こっちもそろそろ限界じゃない?」
船がかなり沈んでいるような気がするし、スピードもかなり落ちている。
「リーエ!」
名前を呼ぶと、リーエが上がってきた。
「はいはーい。もう無理です。沈みます」
「イレーネ、岸に近づいてくれ」
「舵が動かないってば」
そういやそうだったな。
仕方がない。
「飛んで岸まで行くぞ」
「まあ、今度は高くないか」
「行きましょう」
操舵室を出ると、イレーネを抱えた。
「こう?」
腕を首に回したイレーネがリーエに聞く。
「良い感じです。沈みゆく船と悲恋のカップルって感じです」
昔、映画で見たな……
「死なんわ。岸はすぐそこだ。行くぞ」
「はい」
俺達はフライを使い、船から離れる。
そして、岸に向かって100メートルくらい飛んでいくと、陸地に降り立った。
「船が……」
振り向いて、海の方を見ると、もう船の姿が見えなかった。
「どこぞの商人、すまん」
「許してください」
「あなたは英雄よ」
商人が聞いたら怒りそうなことを言うと、イレーネを降ろした。
「で? ここはどこだ?」
「どこですか?」
俺とリーエがイレーネを見る。
「知らない」
イレーネは当然、首を横に振った。
「南に来ていることは確かだ。町か村を探そう」
どこかに行けば場所がわかる。
「そうね。とりあえずは街道まで行きましょう。そこから南に行けばどっかの町に着くと思うわ」
「歩きますか……」
「ああ」
俺達は岸を離れると、平地を歩きだした。
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