第040話 下から見るのと上から見るのは大違いじゃないですか……
「そう……私、こんなに弱いんだ……」
イレーネが自分の手を見る。
「そんなものですよ。ムキムキマッチョにはなりたくないでしょ?」
「まあね。それでどうしよう? 私、今の状態で逃げられると思えないんだけど。私が捕まった時、いきなりこれで拘束され、なすすべもなかったのよ。急に力が抜けた感覚がしたし、兵士の拘束をまったく振りほどけなかった。初めて男性に恐怖を感じたわね」
イレーネほどの実力者があっさり捕まったなと思ったが、そういうことか。
「貸してみろ」
イレーネの腕を取り、手錠をじーっと見る。
「壊すの? 穏便なのにしてね。力も落ちているし、簡単に柔肌に傷が付きそ、う……え?」
手錠がポロリと取れ、床に落ちた。
ジャラッという音だけが部屋に響く。
「もう大丈夫だ」
「え? どうやったの? 魔法?」
イレーネが驚いた顔で聞いてくる。
「魔法。妨害なんか俺の前に何の意味もない。ましてや、この程度なら赤子の手をひねるようなものだ」
いくら優れた魔道具だろうが、俺はそのレベルの領域にいないのだ。
「さすご主ー」
「さすヴェルー……いや、あなたって本当にすごいわね。できないことなんてないんじゃない?」
今はまだあるな。
「そこに到達するのが目標と言っただろ」
「神域に行くんだったわね……いや、ありがとう。これで動けそうよ」
イレーネが立ち上がる。
「体調はどうだ?」
「あー、ちょっと気分が悪い。多分、例の魔力障害」
魔力を動かせなかったわけだしな。
「イレーネさん、どうぞ」
リーエがイレーネに剣と弓を渡す。
「あ、回収してくれたんだ。ありがとう」
イレーネが剣を腰につけ、弓を背負う。
「これもだ」
イレーネにカバンをかけてやる。
「おー、大事なもの! えーっと……よし、40万ミルドはある!」
イレーナがカバンの中身を確認する。
「それは良かった。イレーネ、逃げる前に確認だが、ここの領主はどんな奴だ?」
「シェパード伯爵ね。ここに放り込まれた時に会ったけど、小悪党な小物貴族だったわ」
小さいわけね。
「兵に強そうなのはいたか?」
「いや、特にそういうのはいなかったわね」
問題なさそうだな。
「ヴェルナー様、そろそろ行きましょう。いつ寝ている兵が見つかるかわかりません」
それもそうだな。
「あ、そういえばさ、ここからどうやって逃げるの? あの坂を降りるわけ?」
「そんなことはせん。俺達は飛べるんだぞ」
「あ、そっか……え? あの高さを?」
イレーネの目が点になる。
「大丈夫だよ」
「そ、そっかー……鳥になって逃げたいと思ったことはあるけど、本当に飛ぶんだ……」
貴重な経験だな。
実は俺もこの高さから飛んだことはない。
さっき上がってきたけど。
「よし、行くぞ」
「よ、よーし。女は度胸」
「では、予定通り、屋上へ」
俺達は部屋を出る。
俺、リーエが出て、最後にイレーネが部屋を出た。
直後、暗かった廊下に灯りがつく。
ビーッ! ビーッ!
「何だ!?」
かなりの音量の音が廊下に響いている。
「警告音でしょうか?」
「え? 私?」
警告音が鳴り続けていると、向こう側の廊下の奥にある扉が開き、兵士が出てきた。
「――何だ!? ッ!? 侵入者だ! セシリア嬢が脱走したぞっ!!」
俺達に気付いた兵士が叫び出した。
「チッ!」
「眠らせますか!?」
「いや、もう遅い」
魔力が近づいてくるのだ。
それもかなりの数だ。
「どうした!?」
「何があった!?」
階段の方からどこにいたのか知らないが、大勢の兵士達が上がってきた。
「あっちだ!」
廊下の奥を指差すと、イレーネとリーエが走っていく。
「逃がすな!」
「捕らえろ!」
チッ! 仕方がない!
「ファイア!」
火魔法を使い、廊下を燃やす。
「な、何だ!?」
「火だ!」
「火事だ! 水を持ってこい!」
兵士達が怯んだのでリーエとイレーネのあとを追う。
そして、廊下を右に曲がり、階段を上がっていったのだが、2人が扉の前にいた。
「どうした?」
「開かないの!」
イレーネが振り向いて教えてくれる。
「リーエ、鍵を開けろ」
「鍵じゃないです。扉が錆びてます」
普段、使ってないのか……
海が近いし、飛来した塩分で錆びたんだ。
「破壊しろ!」
そう言うと、リーエが扉から数メートルほど距離を取る。
そして、扉に向かって勢い良く駆け出し、ジャンプした。
「ホムンクルスドロップキーック!」
リーエがドロップキックをすると、鋼鉄の扉がくの字に曲がり、リーエもろとも吹き飛んでいった。
「すんごい子供ね。さすがは戦闘用ホムンクルス」
お手伝いさんだよ。
「行くぞ」
「ええ」
俺達は飛んでいったリーエのあとを追い、外に出た。
すると、ひゅーっという強い風が顔に当たる。
「おー、外だ。やっぱり外は良いわね」
引きこもり気味の俺でも今はそう思う。
「こっちだ」
東の方に走っていく。
そして、転落防止用の柵に手を置き、下というか、海を見た。
「真っ暗で何も見えませんね」
「え? 本当にここから飛ぶの? 地獄の入口に見えるんだけど?」
正直、バンジージャンプもスカイダイビングも余裕でできる俺でもちょっと怖い。
真っ暗で本当に何も見えないのだ。
ここを飛ぶのはさすがにちょっと勇気がいる。
「町の方に飛びません?」
リーエは怖いようだ。
「魔法が使えることをバレたくない。今はまだ一令嬢の逃亡だが、下手をすると、世界中を敵に回すかもしれないんだぞ」
さっき火魔法を使っちゃったけどな。
でもまあ、あれくらいならどうとでも解釈してくれる。
だが、人間がここから飛び降り、町に降り立つのは絶対におかしい。
「それはそうですが……」
「怖いわよねー……」
女は度胸じゃないのか?
「――そこまでだ!」
男性の声が聞こえたので振り向くと、屋上に上がる階段のところに10人以上の兵士を連れた寝巻き姿の太ったおっさんが立っていた。
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