第041話 キース、キース
「シェパード伯爵……」
どうやらあれがここの領主らしい。
「セシリア嬢……いい加減、諦めてください」
シェパード伯爵が勧告してくる。
「私は平民よ。それに父の言いなりになって、貴族に嫁いでも破滅しかない」
「くだらない知恵を付けましたな。そやつですか?」
シェパード伯爵が俺を見てくる。
「関係ないわ。私は私の意思で動くし、自分の人生は自分で決める」
「貴族にそれは許されません」
「何度も言うわ。私は貴族じゃない。平民の冒険者よ」
「ハァ……では、平民よ。貴族に逆らうな。お前達は私達の言うことを聞いておけばいい」
うん、小物の小悪党だ。
「父にいくらもらったか知らないけど、私は父のもとに戻らないわ」
イレーネが剣を抜いた。
「チッ!」
兵士達も構える。
「下がりなさい。私はBランク冒険者よ? それだけの兵では相手にならないわ」
「愚かなじゃじゃ馬が……」
シェパード伯爵が苦々しい顔になった。
ん? このまま逃げられるか?
そう思ったのだが、シェパード伯爵がにやりと笑い、懐から黒い物体を取り出した。
「魔道具? そんなものを持ち出しても――」
直後、バーンッという破裂音がした。
そして、俺とイレーネの間に火花が散る。
「たかが冒険者が貴族を相手にできると思うな」
シェパード伯爵が黒い物体を俺達に向けていた。
「え?」
「今のは……?」
イレーネとリーエが驚いている。
俺も驚いているが、2人とは意味合いが違った。
この世界、銃まであるのかよ……
これはちょっとマズい。
「イレーネ、リーエ、下がれ!」
2人の腕を掴み、俺の後ろに下がらせる。
「イレーネ? ハァ……バカな男が騙されたか。おい、そいつはオクレール公爵のご令嬢であるセシリア嬢だ。こちらに渡せ」
シェパード伯爵は何か勘違いしているようだ。
「渡すことはできないな」
「バカが……今ならお前とそのガキは見逃してやる。すべてを忘れてさっさとこの町を去れ」
まったく信用できない言葉だ。
この小悪党が屋敷に侵入した俺達を見逃すはずがない。
「ヴェ、ヴェルナー……」
イレーネが不安そうな顔で見てくる。
いい加減、わかってきたが、イレーネはちょっと抜けているところがある。
名前を呼ぶな、バカ。
「ヴェルナー君、逃げ場はないし、さっさとその娘をこちらに渡せ」
シェパード伯爵がそう言ってくるのは俺の後ろにイレーネがいるからだ。
本来ならその銃で俺を撃ちたいのだろうが、ミスったらイレーネに当たる。
イレーネを父親に渡されたらどうせ殺されるのだろうが、シェパード伯爵が殺すわけにはいかないのだ。
「伯爵、セシリア嬢はどこぞの貴族に嫁ぐのか?」
「そうだ。それがセシリア嬢の幸せだし、皆が望むことだ」
バカが乗ってきたぞ。
「伯爵、セシリア嬢の父であるオクレール公爵に謝罪をしておいてくれ」
「は? 何を言ってるんだ?」
シェパード伯爵が怪訝な顔になる。
「俺はセシリア嬢を愛してしまった。もう誰にも渡したくない」
「え? そうなの? そりゃ好きになっても良いって言ったけどさ……」
お前は黙ってろ。
「バカが。叶わぬ夢など見るな。身の程を知れ」
お前が知れ。
誰に物を言っているんだ?
目の前にいるのは叡智の魔勲章を持つ世界最高の魔法使いだぞ。
「セシリアを他人に渡すのは許容できない。それほどまでに愛しているんだ」
「そうか……ならば死ね」
シェパード伯爵は話にならないといった感じで銃を向けてきた。
「ああ。そうさせてもらう」
そう言うと、後ろを振り向き、イレーネをお姫様抱っこで抱える。
「え? え?」
イレーネは無視しよう。
「……貴様、何をしている?」
シェパード伯爵がますます怪訝な顔になった。
「この世で一緒になれないなら来世で一緒になる」
「バ、バカ! やめろ!」
シェパード伯爵はわかったようだ。
俺が今から何をするかを。
「ヴェルナー様、私もご一緒しましょう」
リーエもわかったようだ。
「え? 何?」
1人だけわかっていない。
「セシリア、すまない……」
「バ、バカか! やめろ! おい! あいつを捕えろ!」
シェパード伯爵が命じると、兵士達がこちらに駆けてくる。
「セシリア、あの世で一緒になろう」
「や、やめろー!!」
シェパード伯爵が叫んだが、踵を返すと、柵を飛び越える。
そして、セシリアを抱えたまま、真っ暗な闇にダイブした。
「あっ!」
「な、なんということを!」
兵士達の声が聞こえたが、それらもすぐに聞こえなくなる。
「ちょ、ちょ、ちょ! 飛ぶなら先に言ってよー!」
代わりに耳元で叫び声が聞こえる。
「いや、言ってただろ」
「そうですよ。どう見ても無理心中を図るイカれた男を演じていたじゃないですか」
リーエがすぐ隣に来る。
「え? そうだった?」
ダメだ、こいつ……
「まあいい。それよりも鳥になったぞ」
「おっ? おー……おー!」
俺達はゆっくり降下しているが、上から見るぼんやりとした灯りがちらつく町並みが綺麗だった。
「怖いか?」
「全然。すごいわね……あ、そういえば、今回は荷物扱いじゃないのね」
「捕らわれのお姫様を救うんだからそうなる」
あんなことを言っておいて、肩に担ぐのは絵にならないだろ。
「ふーん……捕まって良かったって思えそうだわ」
「思うな。大変だったんだぞ」
「うん……ありがと」
いいえ。
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