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46 救世主

 無意識のうちに全員にことを煽り倒したマリンソフィアは、自分に向けてそれぞれの持っていた護身用の磨き抜かれた武器を眺めながら、他人事のように呟き、そしてぼーっと突っ立った。マリンソフィアは、護身術の訓練だけは受けたことがなかった。何故なら、マリンソフィアの運動神経が壊滅的だからだ。

 走れば変な走り方になり、物をまっすぐ遠くに投げようとすれば、何がどうしたのか、自分の真後ろに刺さってしまう。そして、ジャンプをすれば、何故か靴が脱げてすっ転ぶのだ。

 よってマリンソフィアは、ダンスやウォーキング以外の身体を使う教育は受けていない。受けさせてもらえていない。何故なら、教える側が身に危険を覚えるからだ。

 運動神経が1番いい王太子が、クラウスの制止の声も聞かずに、マリンソフィアの方へと走ってくる。

 マリンソフィアはもうすぐ来るであろう痛みに備えるために、ぎゅっと瞳をとじた。


 ーーードンッ!!


 だが、痛みは来ることなく、後ろから大きな音が聞こえた。扉が開く音なような気がしたが、どちらかと言うと破壊と表現した方が正しそうな音だった。


 ーーーカツカツカツカツ、


 軍靴特有の音がして、音を鳴らしてやってきた人がマリンソフィアの前に立つ。


「なっ、ーーーお前たち!何をしている!!この部屋には許可あるまで誰も入れるなと、」

「これはこれは、………小国の国王如きがこの私に指図するのですか?」


 濃密な死の気配を感じさせる殺気が、謁見の間内に流れ込んだ。聞き慣れたはずの声が、何故か遠い世界のように感じ、けれど何故かその声に安心感を覚えたマリンソフィアは、ぎゅっと目の前の彼の服を握り込んだ。


「………あ、る………………?」


 呆然としていて、それでいて泣きそうな声だ。掠れ切っていて、マリンソフィアが本当は馬鹿王太子が自分に向かって刃を向けることを怖がっていたということを、嫌でもありありと語ってくる。


「そうだよ、ソフィー。遅くなってごめんね。今、助けるから」


 彼はそうマリンソフィアに囁くと、ふわふわとマリンソフィアの頭を撫でてから、マリンソフィアの掴んでいた軍服のマントから手をはなさせ、1歩前に出た。彼の腰には、漆黒の剣を帯びている。

 彼は漆黒の剣をすっと前に出し、正気を失ってイライラとしている国王へと突き出す。


「ローレンツ皇国、王太子アルフレッド・ローレンツだ。少しお話をさせてもらおうか、ハッフルヘン王国の国王殿」


 マリンソフィアは目を見開いた。


「ローレンツ皇国、皇、太子」


 幼馴染が特別なのは重々分かっていた。ローレンツ皇国の皇家に伝手がある時点で、ものすごく重要人物であることはなんとなく予測がついていた。けれど、彼が皇太子であることは、流石にマリンソフィアでも予測ができなかった。


「私の婚約者に対して刃を向けるとは、この国の王太子殿は裸でパレードに出るだけでは済まないくらいに愚か者らしい」

「こ、婚約者!?」


 アルフレッドの嘲笑混じりの声に、王太子が素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 そして、マリンソフィアは仔犬のようにシュンとしたのが可哀想だからという理由で婚約を受けた自分を、睨みつけるように呪った。

 まさか求婚を受けた相手たる幼馴染が、大国の皇太子だとは誰も思うまい。

 マリンソフィアは狼狽えそうになるのを必死に耐えて、アルフレッドの演技に合わせることにした。それが、最適解である気がするからだ。


「………はあー、そんなことも分からずにわたくしに対して文句を言っていましたの?わたくし、婚約者ができたからあなたの求婚は受けられませんと断ったはずですわよ」

「は!?そんなの言ってないぞ!!」

「言われなくても察するというのが、王太子という職業に必要なことかと存じますが」

(………………ま、まあ、わたくしにも気がつけなかったけれど………)


 マリンソフィアは自分の事を棚に上げて、アルフレッドに枝垂れかかる。ふわりと優雅に笑って、マリンソフィアはアルフレッドに相応しく見えるように振る舞う。


「はあー、この国の王太子はどうやらまともな思考すらしていないらしい」


 ーーーシャンっ、


 アルフレッドが漆黒の剣を抜き、獰猛な笑みを浮かべる。


「国王殿、我が国は場合によっては貴国との交流方法を変えなければならないらしい」

「ひぃっ!!」

「………我が国は、国王の隠居、並びに第1王子と第2王子、そして王妃の処罰を望む。国王には是非ともそこにいる庶子に継いでもらいたく思っている」


 マリンソフィアは自分のやりたかったことを全部アルフレッドに取られて不服に思いながらも、自分ではできなかったことを成し遂げてくれたアルフレッドに尊敬の念を抱くのだった。


「わ、分かった!!分かったから、剣を下ろしてくれっ!!」


 そして、自分の命を何よりも大事にする国王へは、呆れを通り越して侮蔑の視線を向けてしまった。

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