幕間 魔法少女になった日 前編
アルカの過去編です
第二章とほぼ同時刻の出来事になります
エリアA。大通りから少し外れた通りの小さなビル。
その二階に探偵事務所があった。
アルカは窓の外から通りの様子を眺めていた。
街ゆく人はスーツ姿で電話を片手に移送がしそうだ。
いつもと何も変わらない風景。
「暇ですねぇ……」
「別にいいじゃねぇか、事件が少ないに越したことはない」
奥のデスクに座る40代半ばの男は煙草をくゆらしながら新聞を眺めていた。
男の名前はベンジャミン。エリアAでは有名な探偵で、数々の難事件を解決している。
アルカはその探偵の助手をしていた。
アルカはふと何かを思いついたかのように窓から離れ、ベンジャミンのデスクへ近寄った。
新聞の上からひょこっと顔を出し、とある見出しを見つけて言った。
「あ、そうだ。昨日裏路地で死体が発見されたそうじゃないですか。その新聞にも載ってますよね?」
「そうだな。」
ベンジャミンは興味がなさそうに適当に返事をした。
「先生の腕にかかれば一発で解決するのに……」
アルカはデスクから離れ、部屋の中央にある応接用のソファに退屈そうに寝ころんだ。
「別に俺は100パーセント事件を解決できるわけじゃない。どんな事件も解決できるってんなら、それはもはや魔法だな」
「あはは、先生も意外とファンシーなこと言うんですね」
「黙って自分の仕事をしろ」
ベンジャミンに叱責されたアルカは仕方なく机に置いてあった書類を整理し始めた。
その時、事務所の扉を叩く音が鳴った。
「はーい!」
アルカは早歩きで玄関まで行き、扉をあけた。
「あれ?」
しかし、扉の前に人は居なかった。
事務所の前の階段は静寂しており、人の気配はなかった。
「いたずらかな……」
ふと、アルカが下に目を向けると、一通の封筒が落ちてあった。
どこにでもある真っ白な封筒で宛先や切符などはついていなかった。
代わりに封筒の表には不思議な絵が描いてあった。
アルファベットの「A」を横に二つ重ねたようなマークだ。
「先生宛てでしょうか?」
アルカはその封筒を拾い、ベンジャミンに渡した。
ベンジャミンは封筒を開け、中身を確認した。
中に入っていた手紙を読み終えると、封筒に戻し、デスクの引き出しに封筒をしまった。
「なんの手紙だったんですか?」
アルカはベンジャミンに聞いた。
「……」
ベンジャミンは何も答えなかった。
逆に興味をそそられたアルカはベンジャミンに詮索をした。
「もしかして、怪盗からの予告状だったり?」
「んなわけあるか」
ベンジャミンは笑いながらそう言い、新たな煙草を取り出した。
そして、新聞の日付を確認して言った。
「そういえば、アルカ、そろそろ誕生日だったな?」
「あ、そうですね。あの日からもう一年か~」
アルカは再び窓から街の様子を眺めた。
あの日というのはアルカの誕生日であり、アルカの運命を変えた事件が起きた日でもある。
とある施設で発生した火災。
アルカは部屋に閉じ込められていた。
このまま死ぬ。諦めかけていたその時。
ベンジャミンが助けに来たのだ。
アルカは事件のショックで当時の記憶が曖昧だが、その瞬間だけは鮮明に覚えている。
帰る場所を失ったアルカは命の恩人であるベンジャミンと共に行動することにした。
そしてだんだんと探偵であるベンジャミンに憧れるようになったのだ。
「何か欲しいものでもあるか?」
ベンジャミンはアルカに聞いた。
アルカはふらふらと部屋を歩き、ポールハンガーに掛かっていた探偵帽をかぶり言った。
「私もそろそろ探偵がしたいです!!」
「無理だよ」
ベンジャミンは即答した。
アルカは顔を膨らませながら帽子を脱ぎもとに戻した。
「そもそも、探偵って何か知ってるか?アルカ」
「殺人事件の真犯人を見つける!」
ベンジャミンはため息をついた。
「根本から間違ってるよ。殺人事件の捜査は警察の仕事だ。勝手に調査をしたら怒られる。今まで解決してきた殺人事件は、たまたま警察の呼べない状況で、たまたま友人の刑事と居合わせた状況で、たまたま殺人が起きただけなんだ」
「すごい偶然じゃないですか」
「そうだ、実際の仕事は浮気調査とかくだらないものばかりだ」
「それでも、私はあなたに憧れてますから」
アルカはデスクに乗り出しベンジャミンの顔を見つめた。
「ふん……勝手にしな」
ベンジャミンは新聞で自分の顔を隠した。
「アルカの誕生日は帰りにケーキでも買ってくるよ」
アルカはベンジャミンの言葉に反応して聞いた。
気になったのは誕生日ケーキのことではない。
「事務所空けるの?」
「ああ、仕事だ」
「どこ?」
「言ったらついてくるだろ」
アルカはベンジャミンにつきっきりだ。
仕事でもプライベートでも構わずついてくる。
そうでなければ殺人事件を解決する探偵に憧れるはずもない。
今回もベンジャミンが折れる形でアルカは同行することになった。
「事件の匂いがしますね!」
「不吉なことを言うな」




