(3)on_orz_OVL
成長しても四つ足……?
まだまだ序章です。
なので、さらりと流してますがね!
あと二話程で序章も終わるので、そうなったら序章ってタグを入れる予定。
それから幾度、押し寄せる死を乗り越えてきただろうか。
目覚めるのは、決まって死んだ場所だ。
目覚めるまでの時間は……恐らく一年は過ぎていない筈だ。
見覚えのある切り株や木々の小枝が、そうと伝えてくる。
巨大な頭の牙持つ鳥に、群れを成して追い掛けられては囓られた。
嗚呼、とても普通だ。普通の死に方だと後に思うこととなった。
唐突に足下に開いた、自然の落とし穴に落ちて死んだ。
墜落しての死は、高さが足りない程悲惨だ。一思いに死ねることは幸せだと思った。
巨大な四つ目の狼の様な生き物に、股座をがぶりと食い千切られた。
……その後再び目覚めた後は、我は巨大な葉っぱで褌を作って、常に身に付ける様になった。
小さな蟲達に生きたまま喰われていくのは酷く恐ろしかった。
死にきるまでの時間は永遠に続く拷問にも思えた。
しかしそれでも、恐らくは皆生きるために殺し殺されているのだ。
理不尽な成り行きで殺された訳では無い。
そう思えることを慰めにしながら、次第に心が虚ろになっていくことは、止めようがなかった。
森の覇者は遙かに遠い。
死を重ねながら随分と森の中を彷徨う内に、弛んだ腹は引き締まり、生前は全然筋肉が付かないと思っていた肩の回りも硬く肉で覆われるようになっていたが、この森で生き抜くにはまだまだ足りない。
漫画の中の超人的な格闘家でやっとなのではと思う環境の中では、只の人間はどこまで行っても弱者なのだろう。
ならば虚ろになるのも仕方がない。
生きることのみを考えて、全ての感覚を危険の回避に費やしていく。
それは野生への回帰と言えないだろうか。
我は今、遙かなる世界の密林の中で、只一匹の獣として再誕するのだ。
未だ一匹の獲物も得ず、喰らうのは森の木々の恵みだけ。
それすら満足に得ることは叶わず、毒を持っていたらしい草花を吐き出しつつも何度か餓死して闇に落ちること屡。
思えば生前は飢えた末の死を思うことなどはなかった。
そういう意味では守られていたのかも知れないが、檻を蹴られながら餌を与えられる身分は、育てられているというより飼われているが近いのではないだろうか。
否、我は自由を望む。
轟く野生を望む。
緩慢な死よりも鮮烈な生を!
檻の中の家畜では無く地を掛ける獣の魂を!!
ならばこの手は何の為に?
大地を掴み、突き放す為に!
我は両の手足で大地を駆って、四つ足の儘に駆け抜けた。
目の前を逃げゆくのは、兎に良く似た茶色い獣。
珍しく眼も二つで、実に(地球人として)まともな見た目の生き物だ。
即ち――とても美味そうだ!
駆ける、駆ける、木々の間を追い掛ける!
逃げる、逃げる、草葉の陰を脱兎の如く!
そして、今日も勝負の行方は、またもや我の負けとなった。
あの木を右に回り込んでいたならば!
あそこで木の根に躓かなければ!
思うことは多々あるが、しかし空しくは無い。
今日も届かなかった。
しかし、あと少しだ。
あと少しで、あの肉は我の物だ!
だが、今日のところは見逃してやろうと、我は傍らの木から、今日の夕食に、赤く瑞々しい桃にも似た果実を捥いだ。
肉は取り逃がしてしまったが、これだけ食べ頃な果物を手に入れられることはそうは無い。
まだ青い果実が手に入れば儲け物。大抵は草葉や木の皮だ。
甘い匂いのするその果物に期待を大きくしながら、齧り付こうとしたその歯が空を切った。
噛み合わされた上下の歯がガチンと音を立てる。
美味そうな果実は、囓るまでも無く、自ら喉の奥に滑り込んだ。
嫌な予感に身を震わせると、案の定腹部から脳天まで貫く激痛が奔る。
堪らず倒れ込んだ目の前には、迫る一抱え程の大きさをしたスライム。
森の何処ででも見掛けた緑の臓器のスライムは、歩いてでも余裕で引き離せる鈍さだが、今は只々逃げることの叶わぬ掃除屋だ。
ぬめる粘体が足を飲み込む。
震えながら、腰を包み込む。
とぷりと顔を覆う頃には、腹の中を暴れる偽果実も激しく蠢き、森の掃除屋が救いの主にも思えるようになっていた。
おお……おお!
幸いなるかな。
見よ! 密林に死にゆく男の生き様を!
厳しくも凄惨なる森の営みを!
男はまたも森の糧となり、
そして我はまた、どれだけの時の向こうか、またこの森で目覚めるのだろう。
――そう思って、我は目を閉じようとした。
しかし、誰ぞそれを知ろうものか。
この時の出来事こそが、我に転機を齎したなどとは。
幸いなり! 世界を超えし男に祝福を!
死を超越せし聖者に、秘せし恵みを!!
今ここに大いなる扉は開かれ、目覚めし男は闇の中に真実を見る。
古めかしい語り口調難しい。
聖書はどこやったっけな?
古語辞典は~?
格好付けても四つ足ですけどね!