第14話
「今日は来てくれて、ありがとうー!」
リンダくんのその一言で、リンダくんのライブ会場は閉じた。
私は拍手をしていた。
「…すごい」
こんな高揚感久しぶりだった。
やっぱりリンダくんの歌が大好き。
「ねえ、ツムギって本名?」
「今さら?本名ですよ」
“リンダくんは?”
って、どうしても聞けなかった。
聞いちゃダメだと思ったから。
活動開始から10年、一度も本名がリークされていない。
リークされていないということは、本人と周りがしっかりしている証拠。
私なんかが聞いちゃいけないと思った。
「よかった。俺ずっとツムギちゃんって呼んでたけど本名じゃなかったらどうしようって思ってたから」
ひとしきり歌い終わった後、コップに入ったお茶をグイグイ飲んだ。
マイクを置いて、リンダくんも椅子に座った。
「俺さ、なんでグループでの活動を辞めたと思う?」
公式の発表では、アイドルと俳優業の両立が厳しくなったため。
だからリンダくんはLU℃ENTを捨てた、と猛バッシングを受けていた。
そんなわけないのに。
あの時のリンダくんは、グループを抜けて正解だった。
あまりにも忙しすぎたから。
私が何も言えないでいると、
「実はあまり仲良くなかったんだよね。ハルトと」
「ハルトくんと?…え?」
ハルトくんは、メンバーカラーが白。
“顔面国宝”と呼ばれるくらい端正な顔立ちをしている。
おまけに歌も上手い。
リンダくんと1.2を争うくらいの人気メンバー。
それでもリンダくんの人気は圧倒的だった。
会場のサイリウムはほとんどが緑。
次に白。
他の3色はほぼ同じくらい。
「方向性が合わなくなって辞めたから、俺がグループを捨てたって言われてもおかしくなかったんだよ」
そんなことない。
リンダくんは自分を過小評価しすぎている。
あなたは自分がどれだけ魅力的な人間なのか分かっていない。
「そんなことない!あの頃のリンダくんは忙しかったから…」
私が仲が良くてよく一緒にライブに行っていた友達はハルトくん推しだったから、よく話は聞いていた。
でも、不仲だったなんて気が付かなかった。
ファンに勘付かれないようにするくらい意識の高い2人だから、誰も気が付かなかったんだ。
「紬さんは、優しいよね」
寂しそうに笑う。
「俺、もうLU℃ENTの歌、歌えないんだよ」
グループを卒業してから一度もLU℃ENTの話題を口にしていなかったから、真相を聞いてひどく驚いた。
リンダくんはグループを維持していたかった。
みんなを連れてドームに立ちたかった。
だけど他の人たちにそこまでの熱量はなかった。
リンダくんよりハルトくんの意見の方が通りやすかった。
表向きはキラキラとしているように見えた。
裏ではみんなの歩幅が合わず、グループはほぼ壊滅状態。
「そんな時にありがたく俳優の仕事がたくさん舞い込んできたんだ」
憂さを晴らすように俳優業に勤しんでいるところで、他のメンバーからの嫉妬。
“お前はいいよな”
“もう辞めれば?”
“もう1人でアイドルしろよ”
毎日のように言われ続け、我慢の限界が来て卒業。
その後しばらくはリンダくんに仕事はパタリと回ってこなくなった。
そこが芸能界を引退しようと思っていた時期らしい。
「俺、本当にLU℃ENTが好きだったんだよ。本当は“リンダ”っていう名前も使えなくなるはずだったんだけど、そこはさすがに気を利かせてくれたんだ」
リンダくんは諦めなかった。
たくさん頑張ってくれて、まだこの業界にいてくれる。
自分で作詞作曲、編曲をして仕事を続けてくれている。
それも全部、自分のファンのためだった。
自分を犠牲にしてまでファンを想って行動をしてくれている人を推せて、私は本当に幸せだ。
リンダくんがただ明るい太陽のような存在だけではないと知れたことも、私的にはよかった。
グループを辞めた真相も知れてよかった。
今のLU℃ENTは再注目を集めている。
また波に乗ってきている。
それとは裏腹に自分だけの力で頑張っているリンダくん。
キラキラしているだけではない、努力の塊のような彼を見ていると胸を強く締め付けられた。
「話してくれてありがとう」
私も、そろそろ夫とのことを話さないといけない。
リンダくんがここまで色々話してくれたのも、彼が優しいから。
私が話しやすくなるよう環境を整えてくれたのかもしれない。
急に夫からのDVの話なんて聞き出せるわけもない。
だからまずは自分から辛い話をしてくれた。
ありがとう、ありがとう。




