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【本編20】アンナマリアの戴冠式

***



 あれからニヶ月後──。


 リリアーナは王都の大聖堂にいる。


 リリアーナは、国中から集まった貴族達と共に、祭壇の玉座に座るアンナマリアを見守っている。


 そう、今日はアンナマリアの戴冠式だ。


 先代のジオーヴェと三王子を打倒した今、ついにアンナマリアが王に即位する。


「──では、アンナマリア殿下、宣誓を」


 祭壇に立つペドロッロ大司教がアンナマリアに言うと、アンナマリアが口を開いた。


「神よ、私はあなたに信念と真心を捧げます。私はあなたの臣下としてこの国を統治し、あなたに忠誠を誓います」


 アンナマリアが宣誓すると、ペドロッロ大司教は王冠をアンナマリアの頭にかぶせ、王笏をアンナマリアに渡した。


 これで、アンナマリアはこの国の王となったのだ。


 そこで、アンナマリアは立ち上がる。王冠、王笏、マントを身につけたその姿は神々しくさえある。


 そして、来賓に向かって表明する。


「皆、聞いて下さい。余、アンナマリア・ディ・インフェルノはここに宣言します。

 余はこの国に繁栄と平和をもたらし、秩序を守ることに努めます」


 来賓の中に混じるリリアーナは品格のあるアンナマリアの姿に見惚れる。


「この国はいつの頃からか、不正が横行するようになりました。

 富める者が利益を独占し、貧しい者は虐げられる。そんな社会です。

 しかし、余はそんな社会を許しません」


 耳を傾けるリリアーナが微笑む。


 ──アンナマリア様。素敵ですよ。


「余は、この国を変えます。

 強き者は弱き者を助け、どんな人でも幸せを掴むチャンスが訪れるように、公平な社会に作り変えます」


 そこで、アンナマリアは来賓の中に立つリリアーナに顔を向けた。二人は目が合ってお互いを見つめる。


 そしてアンナマリアは高らかに言う。


「余は、"正義"と"誠実"を胸に、野に咲く竜胆りんどうのように地味ではあるが強き心をもって、国民に奉仕すると約束します!」


 それを聞いた来場者は皆、こうべを垂れた。


 ──ああ、アンナマリア様。あなたこそ王に相応しい。


 リリアーナはこれまでの苦労を思うと涙腺が緩んだ。


 ──でもこれはまだ新たな章の始まりに過ぎない。この国が変わるには時間がかかる。

 私はアンナマリア様の政治が軌道に乗るまで、あなたの手助けを致します。


 リリアーナは心の中でそう呟いた。





 アンナマリアの即位後。次々に改革は実行に移された。


 ジオーヴェの治世で甘い汁を吸っていた佞臣ねいしん達は皆、任を解かれ、断罪された。


 勿論、モスキーノも投獄された。


 アンナマリアは、身分に関わらず有能な人材を閣僚に据えようと画策した。


 そして──。


「──リリアーナお姉様、お姉様も閣僚に加わって欲しいの」


 王の執務室にて、アンナマリアはリリアーナに言った。


 リリアーナは礼儀正しく返す。


「陛下、とても光栄なお話、恐悦至極に存じます」


「もう! 私が国王になったとたん、リリアーナお姉様もよそよそしくなるんだから。嫌になっちゃうわ!」


「ふふ。申し訳ありません。でもわたくしのアンナマリア様に対する気持ちは変わっていませんから。

 わたくしは陛下を妹のように想っていますわ」


「ありがとう! 正直、自分のことを"余"って言うのも苦手なのよね」


「ふふ。いずれ慣れますよ。で、先程の閣僚のお話なのですが──」


「ポストはどこがいいかしら? 内務省? 財政相? 出来れば私の近くにいて欲しいの」


「申し訳ありません、アンナマリア様。

 わたくしは政府に参加するには相応しくありません。

 謹んで辞退させていただきますわ」


「え!? そんなー。私を支えてくれるって言ったじゃない。リリアーナお姉様ー」


「ふふ。勿論、あなたを支えます。けれど、政治家ではない立場として。

 わたくしは国民目線であなたに世論を伝えましょう。

 いつでも相談に乗りますよ」


「むー。まあ、お姉様のことだから色々と考えはあるのだろうけど。

 でも、今はダメでもいつかは私の政府に入ってよね!」


「ふふ。わかりました。その時が来ればきっとお手伝いします。それまでは父を頼り下さい」


「そうね。勿論グランデストラーダ卿には閣僚になってもらうわ。

 あー、残念。でもよく考えたら、リリアーナお姉様とは友達としての立場の方が話しやすくていいかも。

 うん、きっとそうね!」


「ふふ。さすがアンナマリア様。ポジティブなところはあなたの最大の長所です」


「ふふ。ありがとう!」


 そうして、リリアーナは政府の要職を蹴ったのだ。





 宮殿からの帰り。


 馬車の中でオルカはリリアーナに話しかけた。


「良かったのですか? 閣僚の話を断って」


「ええ。まだマフィアを辞めるわけにいかないから」


「リリアーナお嬢様ならきっとボスと兼任出来ますよ」


「ええ。でもそれは危険だわ」


「と言うと?」


「マフィアのわたくしが陛下の側近になってしまうと、ジオーヴェとモスキーノのような関係に成りかねない」


「アンナマリア様が恐怖政治を行うと?」


「今はまだ上手く行っているけれど、治世が長く続けば気持ちも変わるかもしれない。

 権力を持ってしまうと人は変わるから。

 だからわたくも、モスキーノのようにならないために一線を画す必要があるの」


「さすがはリリアーナお嬢様。聡明で凛々しくて素敵です」


「ふふ。ありがとう。で、話は変わるのだけれど」


「何でしょう?」


「屋敷に帰ったらあなたに大事な話があるの」


「え! どんな内容でしょうか?」


「とても大事な話。ずっと考えていたことなの」


 リリアーナの真摯な眼差しにオルカはたじろいだ。


「……わかりました。心して伺うようにします」


 馬車は一路、グランデストラーダ邸に向かった。

【一口メモ】

 とても堅い回でした。あと一話なので最後まで読んでいただけると嬉しいです。


【後書き】

 読んでいただきありがとうございます!

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