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【本編最終話】 オルカはリリアーナを一生愛す



 屋敷に着くと、リリアーナとオルカは庭に出た。


 庭には二人きりで誰にも聞かれることはない。


「まあ、ミモザが綺麗に咲いているわね」


 リリアーナが、黄色く咲き乱れるミモザを見て言うとオルカが応える。


「ええ本当に」


「まるで、昼間に降る星のようだわ。とても綺麗」


「ええ。美しいミモザと美しいお嬢様。とても絵になります」


「うーん。そういうセリフはちょっと気持ち悪いわ」


「はぁ、すいません」


「まあいいけど。で、大事な話なのだけれど」


「はい」


 リリアーナは一呼吸置いて切り出す。


「──オルカ。あなたにわたくしの元を離れて欲しいの」


 オルカは驚愕する。


「な!? お、お嬢様。私のことが、き、嫌いになったのですか!?」


 あまりのことにオルカは戸惑った。


「ううん。そうじゃない。決してそうじゃないの」


「では、理由を教えていただけませんか?」


 オルカは優しく尋ねた。


「ええ。あなたも知っての通り、わたくしの行動理念は正義のための悪」


「存じております」


「でも、わたくしが正義と称していても法を破っていることには違いないし、いずれ裁きを受けるべきだと思っているの」


「お嬢様……」


「裁判になればわたくしはきっと極刑だわ。

 そしてわたくしに仕えてくれたオルカ、あなたもそうなる」


「私は別に──」


「わたくしはオルカを巻き込みたくないの。

 自分勝手だとは承知している。

 けれど、わたくしにとってあなたは一番大切な人なの。

 だからあなただけは守りたいの!」


 リリアーナは感情が抑えられず、目に涙が浮かぶ。


「これからは、わたくしはもっと強くなるよう努力する……。

 だから、わたくしは……きっと……オルカなしでも……やって行けるわ……」


 リリアーナは声が震えて、涙を止めることが出来ない。


 オルカにはリリアーナの気持ちが痛いほど伝わって来る。


「わかりました。お嬢様」


 それを聞いたリリアーナは自分の気持ちに区切りをつけようと気丈に振る舞う。


「ええ。オルカ、今まで支えてくれてありが──」


 が──。


「なんて、言うはずないでしょう!」


「え?」


「お嬢様。私なしでもやって行けるなんて言っておきながら、なぜそんなにつらそうなんです? なぜ涙を流されるんです?」


「それは……」


「私にお嬢様の気持ちがわからないとでも?

 私はずっとあなたを見てきたんですよ?

 つらいときも、敵に負けそうな時も一緒に乗り越えて来たじゃないですか。

 私には、無理してあなたが強がりを言っているようにしか思えません」


「わ、わたくしはオルカが大事だから──」


「お嬢様。いや、お嬢! あなたがオレにそう言ってくれるのなら、オレは死ぬまであなたのそばにいる!」


「ちょ、ちょ、オルカ、素になってるわよ」


「構わない。オレの気持ちをあなたに伝えるためには、偽った自分ではいられない。

 お嬢、オレはあなたと共に歩みたい。

 たとえそれが、地獄に向かう道だとしても、あなたと一緒ならどんな苦しみにだって耐えてみせる!」


 その言葉はリリアーナに深く刺さった。


「オ、オルカ……」


「オレにとっては、あなたと別れることの方が耐えられない。

 あなたはオレの女神だ。何者にも変えがたい存在だ。

 どうかオレにあなたを守らせて欲しい」


「ぐすっ……。でも……」


「あなたがオレを拒絶するのならオレはいつでも去りましょう。

 けれど、あなたはきっとオレにそばにいて欲しいはずだ。違いますか?」


「ぐすっ……。そうだけど、でも……」


「どうか、その気持ちに素直になって下さい。

 どうか、オレにそばにいて欲しいとわがままを言って下さい。

 それこそがオレの生きる理由になるんだ!」


「ぐすっ……。オルカぁ……。いいの……?」


「いいに決まっている!

 オレにあなたを愛させて欲しい。

 リリアーナ。オレはあなたを世界一愛してる!」


 リリアーナはついに自分の気持ちに負けた。


「ぐすっ。うん。わかったよぉ、オルカぁ。どうか、どうか、私のそばにいて欲しいよぉぉ……」


 それを聞いたオルカはガバッとリリアーナを抱き寄せた。


「ずっとあなたを愛します。世界の終わりまで。ずっと一緒にいて下さいリリアーナ」


 オルカは強く抱きしめる。リリアーナはオルカの胸に顔を埋めた。


「うん。ありがとう。オルカ」





 咲き誇るミモザが、抱き合う二人を優しく見守る中、オルカが言う。


「そう言えば、明日はお嬢の十八歳の誕生日ですね」


 リリアーナはちょっと冷静になった。


「あ、うん。そうね」


「お嬢、良ければオレとデートしないか?」


「え!」


「街で芝居を見るのもいいし、ショッピングをするのもいい。

 ロマンチックなデートにしよう」


 それを聞いたリリアーナは慌ててオルカを制した。


「ちょ、ちょっと待ってオルカ」


「はい?」


「あ、あの。ごめん。そう言うのはまだ、心の準備が出来てない」


「え?」


「わ、私もオルカのこと、す、す、好きよ。でも、まだ早いの」


 リリアーナの言葉にオルカもしどろもどろになる。


「あ、あの、さ、さっきの流れだと、オ、オレはプロポーズしたも同然なんですが……?」


 オルカは予想外の展開に、格好つけた自分が恥ずかしくなった。


「う、うん。ごめんね。でも、まだ私達にはマフィアとしてやるべきことがある。

 だから、もう少し待って欲しいの。

 ダメ、かな……?」


「え、ええ。も、勿論、いいですよ。あなたが嫌がることはオレはしません」


「い、嫌ってわけじゃないんだけどね。今は恋に溺れるわけにはいかないかな、と思って」


 そこでオルカは冷静さを取り戻す。


「ふ。わかりました。でもオレはあなたに好きだと言い続けますよ」


「う、うん。ありがとう。これからもよろしくね」


「わかりました。お嬢。いえ、お嬢様」


 庭には春を告げる微風そよかぜが吹いている。


 二人を見守るミモザが風に乗って揺れていた。まるで、二人のもどかしさを笑うように。



***


 

 そして──。




 王都のどこかにある新しいアジトの一室で──。


 リリアーナはいつものように黒いスーツを着て、目には仮面を着けている。


 リリアーナがデスクで次の計画を練っていると、コンコンとドアにノックがあった。


「どうぞ」


 リリアーナが応えるとオルカが部屋に入って来た。


「お嬢、例の事件の報告だ」


「うむ。聞こう」


「やはり教団が絡んでいた。黒幕は枢機卿か、もしくは教皇かもしれない」


 リリアーナは少し思案してから応える。


「……そうか。では次は教団に宣戦布告と行くか」


「いいのか? 敵は強大だぞ?」


「ああ。だが奴らは目を覆いたくなるような犯罪に加担している。

 組織が巨大過ぎて、陛下も警察も手が出せないだろう。ならば──」


 そう言うと、リリアーナは毅然と前を向いた。


「ならば、悪の力で正義を執行するしかない」


 そんなリリアーナをオルカは誇らしく見つめる。


 まだ少女のようなあどけなさもあるが、ひとたびリリアーナの心に火が点いたのなら、オルカが敵わないほどの強さと気高さを見せる。


 リリアーナが悪を討つと決めたならきっとやり遂げるだろう。


 オルカはリリアーナに言う。


「オレがあなたを支えます。お嬢」


 リリアーナはオルカを見る。


「ああ。共に行こう」


 そう言うとリリアーナは窓から外を見た。遠くには大聖堂が見える。


 リリアーナはそれを睨みつける。


 ──見ているがいい。聖職者の皮を被った悪ども。巨悪であろうが私がお前たちを倒す!


 そして発する。


「さあ、毒を以て毒を制しましょう」



本編 完

 私達のイチャイチャはこれからだ!

 ということで、これで本編は完結です。


 いや、結局オルカの過去は何やったん? てなると思うのですが、それはしばらくしてから【過去編】をこの続きに書こうと思います。


 ここまで読んで下さった方、ポイント下さった方、本当にありがとうございました。

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