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坑道でドヴェルグ討伐と交渉



 後半何か酷く偏った話題になってしまったが、ルーエが帰る頃には昼になっていた。

 なのでギルドの近くで昼食を取ってから、何か依頼はないかと掲示板を確認する。



「んー、イーシャも加わった事だしイーシャも一緒の方が良い依頼とかが良いかなー……」


「ご主人様がオッケーなら別行動も出来るよ? 俺みたいに図体デカイと手伝い系依頼じゃ邪魔になるだけだし、俺の事は別行動で討伐依頼に回した方が効率良いかも。その間に主様は休むなり別の依頼こなすなり出来るし」


「……いや、流石にイーシャ一人に全部任せて甘い蜜吸うのはちょっと……」


「奴隷使いならそういうものだけど、主様はそういうタイプだよねー」



 くふくふとクダが笑う。



「でも実際体格や人数の問題が出て来るのは事実だから、今の内から別行動に慣れておいた方が良いかも。単独って言っても主様には七十五分の一クダが同行するから安心だよ」


「んんん……」



 実際配達依頼で三人一緒に運んでいく理由は無いし、同じ配達依頼でもそれぞれ別のところへ配達した方が効率は良いだろう。

 言いたい事はわかる。

 わかる、のだが、



「イーシャが仲間になった直後だし、もうちょい一緒に居てどういう依頼が良いかとか、どういうスタイルなのかとかを確認しておきたいんだよね」



 そんなものは八十年以上生きているらしいイーシャからすればとっくに自分で把握している部分だろうが、これからは己も背負うのだ。

 ならばイーシャに任せっきりというわけにもいくまい。


 ……ペット飼う時だって、ペットに何かあったら飼い主の責任だもん。


 主であるなら、その覚悟は大事だ。



「って考えると、討伐メインでついでに採取とかかなあ」


「…………ご主人様、抱き上げても良い?」


「え、うん、別に良いけど上の方に良い依頼あった?」


「や、俺の事をしっかり考えてくれたのが嬉しくて俺がご主人様抱き上げたくなっただけ」


「さようで……」



 特に問題は無いので大人しく抱き上げられる。

 行きの時とは違って人形を片腕で抱きかかえるような感じなので助かった。

 そう思いつつ、近付いたイーシャの頭に手を伸ばして頬の辺りを撫でる。


 ……確か馬は頬や首を撫でられるくらいが良いんだっけ?


 一般的なペットじゃないのであんまり詳しくないが、イーシャの耳がリラックスしたように横向きで伏せたので多分合ってる。

 そう思いつつ掲示板に視線を向ければ、



「あ、これ近いね」


「んぇ? あ、と、どれ?」



 仮面で見えなかったが思ったよりもリラックスしてくれていたらしく、イーシャは寝起きのような声を零したがすぐに取り繕っていた。

 こっちもそういう時に取り繕った部分をつつかれたくはないので、指摘はせずに依頼書を指差す。



「これ、坑道周辺に居るドヴェルグ討伐ってヤツ」



 自分は現在トルマリンランクになっているので、エメラルドランクまで受けられる。

 そしてこれはエメラルドランクであり、元はもう一つ上であるスピネルランクだったイーシャの戦い方などを見るには丁度良いのではないだろうか。



「……ドヴェルグかあ」


「あれ、あんまり得意じゃない相手? 大前提として私自身ドヴェルグについてサッパリだけど」


「不得意っていうか」


「坑道だからねー」



 口元を微妙に歪めたイーシャが口ごもれば、アハハ、とクダが笑ってそう言った。



「ドワーフは魔族で、ドヴェルグは魔物。で、ドヴェルグはトロルドみたいに日の光が天敵な魔物なんだ。日の光で石になっちゃうの」


「多いな日の光で石になる系」


「太陽はその通り陽の気が強いからね。陰の気が強いタイプだと……んー、保湿能力皆無の中で灼熱の中に放り込まれたみたいな?」


「成る程乾燥による石化」



 一瞬でミイラ化するようなもの、という事だろう。

 わかりやすい。


 ……水中適性が無い人間だと水中に居続けたら呼吸出来なくて死ぬ、みたいな事かな?


 そのドヴェルグからしたら、日の光の下が人間にとっての水中やマグマの中みたいなものなんだろう。



「だから普段は坑道に居る事が多くて、坑道の中だからイーシャが暴れると危ないんじゃないかなーって事。

 鍛冶関係には巨人系も多いから坑道も広めに確保されてるんだけど、だからって暴れて良い空間ってわけじゃないから」


「あー」



 洞窟内で暴れるイコール崩れて生き埋めフラグなアレだ。

 ボスキャラ倒した途端に崩れ始めて主人公達は逃げてボスキャラは崩壊に呑まれ、ボスキャラが最後に言い残した意味深セリフを問いただせなかったな……となって次回へ続く定番のアレ。

 少年漫画とかでよくありそうなイメージがある。



「でも一応、依頼書からするとドヴェルグは四体らしいから多分…………魔法で戦うよりは物理で仕留めた方が良いだろうねえ」


「そうなのイーシャ?」


「坑道内で水や火の魔法使えば途端にサウナだよ」


「おっとそれは物理大事」



 確かに出入り口以外が密室状態な中で魔法なんて放つもんじゃねえ。

 自分の場合は着替えくらいにしか魔法を使えてないけど。



「ま、物理的には重種のケンタウロスがドヴェルグに負ける理由は無いんだけど……ご主人様次第かな。クダはどう思う?」


「うーん、クダとしてもそこは心配かなー。主様見てると欲には全然惑わされないって感じだから大丈夫とは思うけど、一応外で待機の方が良いかも?」



 二人が何の話をしてるかわからん。



「何の話? 人間居ると良くない?」


「んー、良くないっちゃ良くないかな」


「クダに同意」


「理由は?」


「ドヴェルグもドワーフと同じで鍛冶が得意なんだけど、ちょっとヤバい」



 どういう事かと首を傾げれば、んー、とクダは腕を組んで難しい顔で首を傾げる。



「才能ある旅人を材料に酒を造って、それを飲むとその人が持ってた才能が得られる……みたいな代物を作るんだよね」


「コッワ」


「犯罪者狙いじゃなく才能狙いだし、同意無しだから本当に怖いよー。ただマジで凄い酒でもあるから、材料が人間ってわかってても飲みたがっちゃうの居るし」


「コッワ」



 全力で恐怖過ぎる。

 思わずイーシャに抱き着いたら抱いてる腕の力を強めてくれたのでちょっと安心。


 ……体温高くてガッシリしてて体格デカイからより安堵強めで助かる……。


 原材料人間な酒を造るとかマジ恐怖でしかない。

 ヤバいタイプの妖怪伝承であるヤツじゃないか。



「あとめちゃくちゃ心惹かれる装飾品を作るんだけど、それに心惹かれたら欲しくて欲しくて堪らないって感じに魅入られて、相手が望む物を差し出しちゃうとか。貞操なり命なり」


「貞操はままありそうだけど命捧げたら装飾品ゲット以前に終わらない!?」


「それだけ魅了の力が強いから問題なの。命なり、って言ったけど基本はドヴェルグが望む物を対価にポンと渡しちゃう感じであって、それ、つまり装飾品を無理矢理強奪すると途端に祝福が呪いに変じて破滅がやってくるってだけなんだけどね」


「だけ、で終わらせちゃ駄目じゃないかなー……」



 めっちゃ怖い。



「まあ真っ当な方のドワーフなら交渉出来るから大丈夫。問題は人を仕留めるかもしれないドヴェルグが人里近くに居るって事と、坑道を占拠してるって事と、万が一原材料人間な酒が造られたらその才能を得られる酒を奪いに行こうとする人間が居るって事」


「最後ある意味一番問題では?」


「飲みたがる人間と、飲みたがる人間に吹っ掛けようとする人間が居るからなあ……」



 クダの言葉に思わず真顔で零したら、イーシャがこちらの頭に顎を乗せて苦笑したような声色でそう言った。

 否定出来ん。


 ……でも、つまりは飲みたい人間や売りたい人間が坑道へ行こうとする可能性が高くて、他にも色々問題が起きかねないっていうのが問題なんだよね……。



「あと装飾品に関しては人外すらも魅了しがちだから、ドヴェルグは存在自体がわりと危ない」



 ふぅ、とイーシャは溜め息を零す。



「強さはそうでもないからレベル低めに設定されてるけどね」


「え、クダとイーシャも危険?」


「俺達は多分大丈夫」


「クダ達みたいに動物要素強い系は装飾品にはあんまりかなー。鳥系だと光り物に魅了されたり、宝石とか集める系の魔族だと心奪われたりしちゃうけど」


「オウ……」



 一部人外すら抗えんとか超怖い。



「え、イーシャの戦いっぷりの確認の為にって思ってたけど、私は距離取っといた方が良いヤツ? 主の私が誘惑されたらマジでシャレになんないよねコレ」


「装飾品が手持ちに無ければ髭もじゃのチビオッサンだから大丈夫。坑道に居るなら既に何かを作ってそうだけどエルフのエルジュがくれた腕輪には誘惑弾きの魔法もあるし、主様に抵抗の意思があったり装飾品に対して強い魅力を感じなかったりすれば全然オッケー」


「ひえ……」


「まあ、相手が魅了するより早くに俺がドヴェルグの頭蓋を踏み潰せば相手の要求飲む必要無いしだいじょーぶ」



 に、とイーシャの口角が持ち上げられた。



「任せときな」


「わあい……」



 喜んで良い発言なのかわからんが、頼る側としては頼もしい限りだ。





 ドヴェルグ退治ついでに商人ギルドかららしい依頼も受け、町を出て坑道へと向かう。

 歩幅や舗装されてない道というのもあってイーシャの背に横座りで乗せられているが、エルジュがくれた腕輪のお陰か前より不安定な体勢ながらも安心出来る安定感となっていた。

 毛並みが滑らかなイーシャの背に揺られつつ、二人に問いかける。



「そういえば同じ坑道だからって事でノッカーに金と錫を用意してもらえないかっていう依頼受けたけど、ノッカーって?」


「姿を隠してる妖精の事だね! 主に坑道に住んでて、ノッカーが居る坑道は素晴らしい鉱脈に恵まれるって言われてるよ。姿は無いのにノックするような音が聞こえるからノッカーって呼ばれてるの」


「その代わりノッカーは姿を見られる事を嫌うから、その姿を見ようとしたらその下手人の下半身を潰すくらいはするけどねえ」


「めっちゃハードでは……?」



 姿を見たらアウト判定とかハード過ぎる。

 俺の背後に立つな系ならまだしも姿見るだけでアウトとか理不尽極まってる日本のホラー映画の世界か何かか。



「あはは、一応姿隠してる事も多いよ。妖精系は変身や姿を消したりが得意だから」


「寧ろ俺達動物系は匂いや気配で察する事が多くて、あんまり注視しないようにするっていうのが大変かな」


「あー、人間の場合は鈍さが逆に良い結果になるヤツ……」


「でもノッカーについてを暴こうとした人間はノッカーの荷物を足に落とされて足が不自由な状態にされたから気を付けた方が良いとは思う」


「ねえクダそれさらっと言う事じゃないと思うんだけど!?」


「暴かれるのを嫌がるノッカーをストーカーした人間の場合だからだいじょぶだいじょぶ。ちゃんと真摯に交渉して相手の要求も呑むなら人間的にはかなり良い取り引きも出来るよ」


「俺達もわりとそうだけど、妖精はまた違うベクトルで価値観が違うからな。ただそれもあって依頼も代金は要相談扱いだったが、まあ妥当かなあ」



 ……確かに妖精系の逸話ってそういう感じだもんね……。


 イーシャの背に乗って揺られながら思い出すのは、小人の靴屋やブラウニーの逸話など。

 ああいう妖精はめっちゃ働いてくれるのにちょっとのミルクとパンで動いてくれたし、ブラウニーなどわかりやすくお礼を言うと逆にキレるらしいのだ。


 ……お金での取り引きが出来る相手かもわかんないっていう。


 話を一回持ち帰れるならそれが良いけれど、相手であるノッカーがそれを許してくれるかもわからないという事実。

 なにせカプゥと話した際、妖精はめちゃくちゃ気まぐれだと聞かされた。

 つまりその場で話を纏める必要がある可能性も高いという事。


 ……まあ駄目だったらその時で、優先すべきはドヴェルグの討伐かな。


 結局ルーエがお金を受け取ってくれなかったから有り余る大金が据え置きのままだし、交渉については失敗しても大丈夫くらいのテンションで良いよね。

 そう思っていれば、坑道が見えた。





 坑道に入る前にイーシャの背から降りて歩きで中へと入った。

 理由は戦闘をイーシャに任せるからだったのだが、坑道に入って間もなくして現れた四体のドヴェルグは数分足らずで瞬殺された。

 いやもう本当に瞬殺だった。



「俺がやるとうっかり原形無くなる時があるから、頑丈なドヴェルグで良かった良かった」



 返り血に塗れた棍棒を振って血を落とし、それを肩に担いだイーシャは安堵したような笑みを浮かべる。



「仕留めはしたけどちゃんと原形保ってるね」


「魔石も砕けてないから売れると思うよー」



 一体目がアイテム袋からすかさず取り出された棍棒で殴り飛ばされ、二体目はイーシャの背後から襲おうとして蹴りを食らい、三体目は棍棒で顎を吹っ飛ばされ、四体目は後頭部を踏みつけられて潰れている。

 これ衛生的に大丈夫なんだろうかと思ってしまう惨状を前に、クダは腹に蹴りを食らって血を吐きながら絶命したドヴェルグを覗き込んだ。



「ドヴェルグは人型だから人間的には食肉と見做しにくいみたいだけど、魔物の肉ではあるから普通に買い取ってもらえるし一応アイテム袋に入れた方が良いかも。ドヴェルグの髪や髭はアイテムの材料にもなるしね!」


「わあい……」



 とりあえず素手で触れたくはないので魔法を使いつつ小柄なオッサン達をアイテム袋へと入れていく。

 見た目が小柄なオッサンなので血塗れの惨状というのは大分ハードな気分だが、これがこれからの生活にとって日常になっていくだろう事を思えばこの程度で弱音を吐くわけにもいかない。


 ……本当小柄なオッサンが死んでるって感じで色々リアルだけど、この依頼受けたの私だしやらせたのも私だし!


 尚戦い方がわりと原人っぽくて馬っぽくもあったからか、イーシャに対して怯える、とかは無かった。

 わかりやすく弱肉強食の気配だったからだろうか。

 まあドヴェルグは放っといたら旅人襲って酒を造りかねないという危うさがあるらしいので仕方のない駆除だと思おう。


 ……人間と共存する気があるのは魔族で、そうじゃないのが魔物らしいしね。


 つまり彼らは共存する気が無いタイプなので仕方がない。

 害がある前に駆除しようとするのは人間側の酷く自分勝手な都合でしかないが、人間である以上はこういう考えしか出来ないわけだし。



「よし、ドヴェルグの死体は回収出来たけど……この血塗れの惨状はどうしよっか」



 ホラーというよりも大分スプラッタな状態となっている。

 完全に死人が出てるタイプの事件現場だ。


 ……まあ実際に魔物が死んでる以上はほぼそれで合ってるんだろうけどねー……。



「普通に魔法で綺麗にすればどうにかなるよ?」



 当然のようにそう言ったクダが指パッチンをするように指先の爪を擦れ合わせてカチリと鳴らせば、坑道内をデコレーションしていた血は綺麗サッパリ無くなった。

 一瞬にしてのビフォーアフターに思わず感動し、拍手を贈る。


 ……でもこれ隠蔽に最適な魔法では……。


 存在としては妖怪というより呪い寄りらしい上に元々は色んなところで好き勝手使われていたらしいので、クダの過去については考えないでおこう。

 死体隠蔽に使ってそうとはいえ、イーシャが突っ込まない辺りこちらの世界では魔物を倒した後の当然の処置という可能性も高いし。



「じゃあ後はノッカーに金と錫の注文だけど……姿見ないようにって言ってもどこに居るかわかんないと交渉出来なくない?」


「いやわりとその辺に居るけど」



 イーシャがそう言うと同時、すぐ近くからコンコンとノックする音が聞こえた。

 坑道の岩壁を叩いたような音。


 ……あ、ノッカーってそういう音出すからノッカーなんだっけ。



「あの、すみません。商人ギルドからの依頼で金と錫が急ぎで必要らしいんですけど、このくらいの箱いっぱいの金と錫って用意してもらえます?」



 このくらい、と手のジェスチャーで大きさを示しつつ言ってみる。

 音がした方を見て良いのかはわからないので、視線は微妙に斜め上辺り。

 日本人なのでそういうのはあんまり気にならない。


 ……神道だけど万物に命が宿ってるって思考も染みついてるから、何かあったらとりあえず自然相手でも話し掛けるってのが思考の根底にあるんだよねー……。


 岩壁に話しかけるくらいならノッカーも多分そう嫌がらないでいてくれるんではないだろうか。

 万が一があってもクダ達が守ってくれるだろうから、その辺は結構気楽なものだ。

 万物に命があるわ付喪神やら妖怪やらも普通に居るような居ないような扱いの日本人なので、目に見えない存在に対してのハードルは低い。

 少なくとも元人間な悪霊じゃないだけ接しやすさはある。


 ……それに視線を合わせず会話するっていうのは日本人の得意技だしね!


 あまり誇れないコミュ障民族性。



「何を対価にすれば良いのかわからないので、そちらに提示してもらう条件次第なとこもあるんですけどー……」



 コンコン、と背後から音がした。



「向こうに木箱があるだろう。あれの上にある物を見ろ」



 聞き覚えのないしゃがれた声に振り向きそうになるも、見ない方が良いんだろうなと判断して言われた方向を見る。

 振り返ったり相手の姿を見たりしたらアウト系は黄泉の国での定番ネタだ。

 イザナミの姿を見たイザナギの話は有名だし、ギリシャでも確か黄泉の国から完全に出るまで振り返るなよと言われたのに、うっかり振り向いたせいで折角迎えに行ってそこまで連れて来れた愛する人を再び失ってしまった話があった気がする。

 つまり振り返らない方が良い。


 ……クダ達が耳はこっち向けてるのに視線逸らしてる辺り、わかりやすい……。



「……ん?」



 視線を向けた先には何やら綺麗な首飾りがあった。

 いやにキラキラ輝いて魅力的に見えるが、もしやアレがヤバいと噂のドヴェルグお手製装飾品だろうか。



「あれを俺達に寄越すと約束するなら、お前が望んだ量の金と錫をやろう。寄越さないと言うなら金も錫もやらん」


「あ、じゃあそれで」



 言った途端にあちこちから大きなノックの音が響き、思わず肩がビクリと跳ねる。



「…………良いだろう、契約は成立だ。一分待ってから振り返れ」


「いっぷん」



 何の数字だろうと思っていたら視線の先にあった首飾りが消えたので、何か色々やってる間の事らしい。

 用意するから一分待て、という事か。



「それと、俺の名はザハヴと言う。あの首飾りの価値を知りながらきちんと渡したお前であれば、この坑道に来るのは厭わん。別途交渉とはなるが、金や錫が必要となればいつでも来い、キミコ」



 一分が経過したらしく、コンコン、という音が背後で鳴った。

 一応クダに大丈夫かと視線を向ければ頷かれたので振り返ってみると、先程手の動きで示したサイズの箱が二つ置かれていた。

 一つは金、一つは錫で溢れそうなほどに満たされている。


 ……一つの箱に半々ずつの金と錫くらいのイメージだったんだけど……。


 良いのかなあと思うが、多分向こうはこれで妥当な対価と判断したのだろう。

 ならばありがたく受け取ろう。



「あの、ありがとうございます!」



 坑道に響かせるようにしてそう告げれば、コンコン、と返事をするように再び音が響いた。

 ノッカー、そしてザハヴが良い人達だったようで本当に良かった。


 ……多い分はどうなるかわかんないけど、とりあえず持って帰って買い取りになるかどうかとか色々聞けば良いかな。


 しかし名乗ってないのにどうしてノッカーはこちらの名前を知っていたのだろう。

 とても不思議だが相手は何でもありなイメージの強い妖精だし、鑑定でこちらのステータスを見て名前を知ったという可能性もあるのでまあ良いか。



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