オープンなのに授業っぽい
ソファに座り、改めて頭を下げる。
「お久しぶりです、ルーエ」
「ああ、久しぶりだねキミコ。とはいえ一週間程度だと私にとっては久しぶりと言う程でも無いんだが……まあ良いか」
一言多くないかと思ったが、人外は色々正直なのでそんなもんだろう。
初日のこの人もこんな感じだったしな。
そう思いつつ、席を外してくれたリャシーがご自由にと言ってくれたお茶菓子を手に取って一口サイズに千切って食べる。
……あ、おいしー。
美味しかったのでシェアの気分で残りの半分をクダの口の中へと放り込む。
隣に座っているクダは既に口を開けて待っていたのでこちらはただ放り込むだけだ。
体格やらの問題でソファには座れないイーシャは隣に立っている状態だが、一応視線で確認したら首を横に振られたので要らないという事だろうと判断して半分丸ごとクダ行きである。
……まあイーシャって食べ物大分馬寄りだしね。
馬にお茶菓子食べさせるのは流石にいかんような気がする。
食べれるかもしれないが、内臓的な問題が発生しても嫌だ。
「ところでルーエ、ルーエからの本題があると思うんですけどその前に私からも一つ二つ」
「私の方は急ぎの用でも無いから構わないよ。どうかしたかい?」
「まずはお礼ですね」
ありがとうございます、と頭を下げる。
「ルーエのお陰で私は何というか、周囲に恵まれて上手い事生きれてます。本当にありがとう」
「私は最低限の最低限を伝えて逃がしただけだから、礼を言われる程じゃないさ」
糸目をにこにこと弓なりにしてルーエは笑った。
「うちの国王はどうにも真っ直ぐというか応用が利かないところがあるからね。少なくとも城に奴隷使いが居ない、という状態になればあの子はそれで良いんだ。あとは追い出し方の方法だけど、あの子はどうにも臨機応変さが無いから」
仕方がない、という顔でルーエは息を吐く。
「適当に遠くへ飛ばしたと言えば、それで納得してくれたよ」
「それで納得するんですか? 一国の王が? 具体的にどこに飛ばされたかと確認して確固とした情報にしようともせず?」
「あの子は素直過ぎる程に素直でね。私達が嘘を吐かないという事を知っているから追及はしてこない。
……まあ、追及しないように言われた事があるのかもしれないが」
「?」
「これは王族と権力の闇についての話になるのだけど、知りたいなら説明しようか?」
「全力で結構です」
ゼッテェ聞きたくねえそんな闇。
表情でそうアピールしつつメンタルカウンセリングの為に隣に居るクダに抱き着いてその頭をわしゃわしゃ撫でる。
イーシャを撫でるのも有りだったがイーシャの背丈だと屈んでもらわなければならないので諦めた。
なんせ人間用と思われる普通のソファの為、座高的な問題で立っている時よりも身長差に開きがあるのだ。
……あー尻尾振って耳ぴこぴこさせてるクダ可愛いし仮面で目線わかんないけど耳がわかりやすくこっち向いてるイーシャも可愛いー。
イーシャは後で存分に撫でよう。
「はは、正直だね」
「正直に断らないと語られましたよね今の」
「知っていて損は無いと思うから。聞かれない限り語る気は無いけれど、相手が興味を持つようならモーションは掛けるさ」
「確かに興味は持ったけどそういう権力者のごたごた系に積極的に関わる気は無いデース……クダとイーシャ背負うので精一杯だし」
「うん、それ」
ルーエはにっこりと笑う。
「後でその二人についても紹介しておくれ」
「そうか初対面だった!」
「クダは主様についてた匂いから一方的に匂いだけ知ってるけどねー」
多分そういう事では無い。
・
クダとイーシャについてざっと説明した。
とはいえ込み入った事情があるわけでも無い為、本当にペット飼う時にこれこれこうでと友達に報告するような感じの説明となった。
いや本当にそんなモンなんだ。
ドラマチックなドラマは無い。
……押し売り女房二丁入りました感強いしねー……。
「うん、無事に奴隷使いとして相手を惚れこませる才能があったようで良かったよ」
「待って何ですかそれ」
「今は奴隷使いと呼ばれているだけで、本来は革命家だからね。革命家というのはそれこそ英雄と……呼ばれはするけど要するに灰汁が強くて普通の人間じゃ舵を取るどころか振り落とされるのが関の山みたいな曲者と一緒に行動する」
「な、何となく理解出来るけど曲者ホイホイ扱いは微妙に嫌だな……」
ナポレオンが革命家とすると、ルイニコラダヴー辺りが曲者枠だろうか。
軽く調べた程度だがあの人も結構灰汁が強そうな感じだったっけ。
「確かに言い方はあまり好ましくないものかもしれないけれど、良い事さ。他では持て余すような存在を受け入れて活かす事が出来る人材という事だからね」
「んん……」
確かに革命家ってそういうイメージあるけども。
よくまあこんな凄ェ人が全力で味方になってくれたなあやっぱ惚れこむ何かがあるんだなあ、とか思うけどもさ。
「ところで、脱線させたのは私だけれどキミコの方からの一つ二つは?」
「そうだお金!」
アイテム袋に手を突っ込み、あの時貰って一枚出したっきりのお金が入った袋を取り出す。
「アイテム袋はありがとうございますだしお金も一枚両替して使わせてもらってますけど、こんなにも要らんです!」
「貴族の町ならわりとすぐ無くなる金額だけど」
「えっ何それ怖」
庶民とお金持ちの間ってそこまでのレベルで桁が違うの? マジで? 金銭的な意味で桁違いヤバくない? しばらく生活出来る金をどうしてあぶく銭に出来るんだ意味わからん。
……このお金がある間に働けば貯金も出来てプラスになるだけなのに、何をどうしたらすぐに無くす事が出来んの……?
どんな豪遊したら無くなるんだこんな金額。
一枚百万ゴールドがじゃらっじゃらに入ってるのに無くなるとか宵越しの金は持たねえにも程がある。
というかマジでギャンブルに全額突っ込んで素寒貧になるか、尋常じゃない額の借金背負ってる人間の肩代わりして払ってあげるとかしないと使い切るのは無理な金額では。
……貴族の町では物価がえげつない事になってるんだろうなあ……。
「とにかく現状一枚両替しても充分に余ってるし、冒険者として働いてるから一応の収入ありますし、まだ新米だから貰ったお金に頼ってるとこありますけどその内出費と依頼の報酬額が良い感じになってくるはずですし、なにより使わないし使うのが怖い金額の大金を持ってるの怖くて嫌です」
「正直だね」
「オブラートに包むと逆にこっちがそのまま丸め込まれそうな気がしたもので!」
「あはは、人外のやり口わかってるなあ。そういう風にこっちのやり方を見抜いた上で甘えようとしない人間だからこそ、頼って欲しくなるんだけど」
頬杖をつき、糸目を弓なりにして微笑むルーエに微妙な寒気を感じた。
寒気というか悪寒というか、いや悪い気配は無いんだけど、こう、クダやイーシャに迫られた時に感じた逃げられない感がする。
RPGでよくある、逃げるを選択しても逃げられなくなってるヤツ。
「ねえイーシャ私悪手打った?」
「最善手だと思うけど、人外は頼ってくれる人間が好きだから。甘えさせちゃって頼るよりも甘えるになって駄目人間化させちゃう事多いけどね」
「わあい……」
まあ確かに頼ると甘えるは違うだろうし、己の場合は百万ゴールドの価値がある一枚は必要なので貰い受けるという「頼り方」をした。
全額受け取るという「甘え方」はしなかった、と言えるか。
「で、お金引き取ってもらえます?」
「もう既にあげた物だから貰ってくれると嬉しいかな。欲に呑まれるようなら返すよう言ったところだけど、呑まれてないなら持ってても問題無いよ。
欲に目が眩んだ人間だとお金への執着が強くなって他の人とかに酷い当たり方をするから危険だけど、そうじゃないならオッケー」
「受け取ったら甘えになるんですってば! 頼るどこじゃ無くなるんですってば!」
「あんまり甘える人間は自立出来なくなるから駄目だけど、私達としてはそういう人間も可愛らしいと思ってしまうんだよね。人間だって丸々太った、家畜とは違う枠の動物相手にそう思うだろう?」
「確かにペットのデブ猫とか可愛いですけど、人外がそうやって甘やかすから人間の甘え癖が無くならないんじゃないんですか」
「おっと正論を言われてしまった」
でも、とルーエは言う。
「甘やかして反骨精神という牙を抜いた方が良い人間も居るからね。例えば罪を償う為に奴隷となる、罪人奴隷。犯罪奴隷とも言うけれど。
彼らの場合は大体人外が飼って甘やかして可愛がって牙を抜いて、死ぬまで可愛がる」
「それ怖い意味が含まれる隠語だったりします?」
「まさか。本当に言葉通りの意味だよ。敵が居るから抗うのであれば、敵が居ない環境で大事にされれば牙を剥く必要が無い、ってね。
まあ人外で奴隷になるような犯罪を犯した場合は再犯しないよう契約でガッチガチに固めた上で労働ってところかな。大体はギルドが買って人手不足のところに放り込んでる」
「それで良いんだ……」
「少なくとも契約で縛っている事もあり、奴隷側の身も守る契約にしてあるお陰で奴隷云々についての問題らしい問題は無い。歪んだ奴隷使い関係以外ではね」
また出たよ歪んだ奴隷使い。
偏見による差別の結果そういう歪み方をした奴隷使いの才がある人達、という感じらしいが、実際に会った事が無いのでよくわからん。
出来れば会いたくないしねそんな危険存在。
……人間からあれだけ奴隷使いが忌み嫌われてて、しかもその偏見があるせいでその想像通りの奴隷使いになろうとしちゃってるっぽいし!
イメージそのままのアウトな奴隷使いと考えると、例え後天的に歪んだ結果だろうが会いたくない。
こちとら少年漫画の主人公でも無ければお相手が昔の幼馴染という事も無いのでエンカウントしても普通にただ困るのだ。
熱血根性で光あれとばかりに光属性で照らしまくって和解するのは少年漫画の男前主人公だけ。
掠りもしない自分なんかはその通りに掠りもせず異世界ライフをエンジョイしたい。
「実際、処刑するまでも無いけど重罪ではある性犯罪者とかの場合は性奴隷として売られるけど、その結果再犯とかも無くって平和になってるからねー」
「待ってクダ今物凄い発言しなかった!?」
さらっと性奴隷とか言った! 言った!
こちらは動揺を隠しきれないのに、クダは完全にきょとん顔。
「あー、人間って発情オープンじゃないタイプだもんね。だから性犯罪率高いし」
「待って人外の場合だとどうなってんの?」
「発情期あるなら発情期に合意の上で発散。発情期だけやってる人外娼館もあるよ。同じ種族だと同じ時期に発情期来たりするから。
あと人間と違って母親だけで子育てとか、産んだ子供オスに任せて出てくとかザラだから、ヤリ捨てっていう概念が無い種族も結構沢山」
「うっわあ……」
それだと人間の女子から見たらクズみたいな人外男が発生するんじゃと一瞬思ったが、人外の今までの傾向を見る限り、多分合意を得る時にそこまで赤裸々に語る気がする。
「……人外の場合、最初っからワンナイト宣言した上で合意を得てから実行しそうだね」
「わー! 主様大正解! その通りだよ! だから甘い言葉で嘘囁いてヤリ捨てする人間が捕まる事多いよ!
人外引っかけるとわりとその辺ラフだから気軽なんだけど、人間側自体が交尾するなら同属相手じゃないとってなりがちだからまた事件になるんだよねー」
「わあい赤裸々ぁ……」
赤裸々が過ぎて照れる事すら出来ん。
何と言うか前から思っていたが、人外が言うのって下ネタというよりも授業感が強くて照れるとかそういう次元じゃない。
保健体育どころか生物の授業って感じだし。
「性奴隷……つまり性犯罪者達は自制心が無くて襲う」
ルーエは指先をくるんと回してそう言った。
それと同時、指先から出た光が自動で何かを描き始める。
「恐らく発情を止められないんだろう。しかしそれはインキュバスやサキュバスといった者達が襲って良い悪いを見極めた上で食べている事を思うと、インキュバスやサキュバスでも耐えられる物に耐えられていない、となる」
欲に堕とす事が得意な種族だけれど、彼らは欲に溺れがちな種族でもあるからね。
そう言うルーエの指先から出た光は、サキュバスとかインキュバスなのだろう二等身の可愛らしいデフォルメイラストを宙に描いていた。
「勿論発情の度合いにも個人差はあるだろうが、誰よりも発情に近い位置にいる彼らが耐えられる以上、人間でも自制心があれば耐えられない道理は無い。
まあ、自分の体すら制御出来ない程に頭での思考をしていないなら、耐えられないかもしれないけどね」
「それ下半身の衝動的欲求に呑まれて馬鹿やらかすヤツは自制心以前にそれを止めるだけの脳みそも無いって言ってます?」
「少なくとも制御出来るだけの頭があれば踏みとどまるだろう?」
否定出来ん。
「というか襲うとか食べるとかって」
「合意を得て性的に襲う、あるいは犯罪者の体液採取の為に性的な意味で襲う。そしてインキュバスやサキュバスの主食は対象の精気。性行為イコール食事」
「わかりやすい」
ルーエの指先から出てる光がデフォルメ人間と人間用の食事、そしてデフォルメ淫魔とハートが浮かんだベッドを描いてくれたので差がわかりやすかった。
リアルなドッキングシーンをデフォルメで描いてきたりもしなかった部分も好感度が高い。
「まあ発情に自制心云々と言っても発情期がある種族は吞まれやすい、が、それは一時的な発情だからだ。常に発情してるタイプの種族はそれが日常だから自制心で押し留めるくらい容易い」
「確かに年一のイベントならはしゃいで飲みますけど、毎日やってるイベントだったら気が向いた時で良いやくらいのテンションになりますもんね」
「うん、そういう事。理解が早くて良いね」
褒められたのは嬉しい。
嬉しいのだが、テーブルに乗せたままのお金を受け取る気が無いのは何なんだ。
褒めるついでに回収して欲しかったそのお金。
「だからそういう自制心が弱い人間用に性奴隷扱い。自制心が足りないなら、いつでも発散出来る環境に置いてしまえば良いわけだからね。合意じゃない相手を襲うからアウトなだけで」
「性奴隷ってなると、大抵は性欲強めの人外が飼うからねー」
「そして人外からすれば人間は愛玩枠。性的にも愛玩的にも可愛がるから、人外はしっかりと人間を飼い続ける。
性欲が強い種族となるとその分マンネリを嫌うから性奴隷側を飽きさせる事も無いし、至れり尽くせりで世話をされるから性奴隷側も満足」
「だから性奴隷側もその環境を手放したくなくなるのか、刑期が終わって性奴隷解放ってなっても個人的に奴隷契約を更新してそのまま死ぬまで飼われ続ける事が多いんだー」
「うっわ……」
凄い平和的なはずだし人外が居るからこその画期的な方法にも思えるのに微妙な拒絶感を覚えるのは自分が人間だからだろうか。
……多分理屈を先に考える人間だからだろうなー……理屈じゃ駄目なんだろうなコレ多分……そもそも性行為って理屈でやるもんじゃないだろうしなあ……。
「でも、結構理には適ってるんだよ」
上半身を屈ませる事で声が届きやすくし、イーシャは言う。
「刑期なんてのは時代で変わるし、被害者側のメンタルを加味する事なんて少ない。でもそうやって加害者を満足させて状況を維持させれば、実質無期懲役と変わらない。
不満を覚えた人間はどうしてか他を巻き込んで自爆しようとする性質があるから、隔離した空間で満足させておいた方が安全なんだよねえ」
加害者も、勿論被害者も、片方が隔離されてればお互い満足いく安心生活だ。
イーシャはそう微笑んだ。
「わあい否定出来ない……」
「無関係の人を巻き込めばそれだけ本人の魂に罪が刻まれて死後に裁かれる事になるのに、どうしてそうなるんだか。
死が救いと主張したって、それを他人に強要するのは押し付けでしかないのに」
「耳が痛ぁい……」
イーシャとルーエの言葉がマジで刺さる。
人間ってマジそういうとこあるよな感強くてめっちゃ刺さる。
そういう人間ばかりじゃないと言いたいところだけど、そういう人間も居る時点で否定出来ない事実になってるんだよなあ……。
・
お茶とお茶菓子で削れたSAN値を回復させ、一息つく。
「何か後半殆ど性奴隷の話になるっていう盛大な脱線をしちゃったけど、とりあえず私からはお礼と返金の二つが用事です。両替した一枚分も返金した方が良いなら」
「脱線させたのは私にも一因があるから、その分としてこのお金をキミコが受け取る、というのは?」
「理にかなってないのでちょっと」
「はは、そういう筋を通すところが良いね」
……通してるかなあ……。
筋を通すというよりも普通に慣れない大金超怖い、という保身に近い。
なのでそうも好意的に受け止められると反応に困ってしまう。
「それで、ルーエの方の用事は?」
「ああ、キミコが無事かどうか、そして今はどうやって生活してるのかを知るのが目的だったから、キミコが無事に顔を見せた時点で終わってるよ」
……あ、それが本題だったんだ。
心配してくれた事実に、胸の奥がぽかぽかした。
アソウギもそうだったが、こちらを気遣ってくれる人が居るというのは嬉しい事だ。
「既に奴隷居るし、奴隷に懐かれてて仲良いし、血色も良いから大丈夫そうで安心だ」
「危ない事が無いようクダ達で守るしね!」
えっへんと胸を張ったクダに、ルーエは笑みを浮かべて頷く。
「うん、私達が巻き込んでしまった彼女の事は任せたよ。何か困った事があれば力になるから、気軽に言っておくれ。
ギルドの者に言ってくれれば伝わるだろうが、人間だとイタズラと判断して通達しない可能性があるから何かあったら人外にね」
「いや気軽って」
「はーい!」
「了解」
気軽って立場的に相当無理があるのではと言おうとしたが、二人の返事に遮られた。
今まで空気を読んで大人しくしてたのに急にこちらの声を遮った辺り多分わざとだろう。
こちらの世界についての知識が足りない私だけれど、この二人が結構気遣い上手で空気を読むのが得意というのは知っている。




