ハトリと語る後日談
あれから色々あった。
本当に色々あった。
「お前は本当、初めて会った時はよくまあ重種のケンタウロス……それも冒険者やってるようなの相手に臆さず接する事が出来るなと思ったが、俺はその気持ちを今回更新したよ」
シュッ、と魔力が入った水の霧吹きを自身に吹きかけながら、ハトリが言う。
「ヨルムンガンドに阿修羅に魔王に勇者を奴隷にするとかどういう事だ。国ひっくり返す気かお前は。どころか魔王を奴隷にしてる時点で実質ひっくり返ってんだろ」
「まあ確かに魔王の肩書き効果を中和する為に奴隷にしたみたいな部分はあるかな……」
「革命家は得てして予想外の行動に出て新しい価値観などを与えるもんだが、まさかここまでとはな……」
どういう事かといえば偶然仕事終わりに出会ったのでハトリと飲む事になったのだが、丁度他の皆も時間が合ったので全員集合で紹介したらこの反応である。
私も聞く側だったらそういう反応になるだろうから何も言えないけど。
原種対阿修羅のアレなソレの時みたいに、常識をパンチしてズンズン進むような現実を知らされると驚きとかの感情は最早ついてこれないのだ。
残るのは諦めに近い疲れと納得のみ。
「しばらく会ってねえだけでそんな事になってるとか思わねえだろ、普通。人外でも思わねえよ」
「人間だってそんな事思ってなかったよ。成り行きでなっただけで」
「普通は成り行きでも意図的でもこんな事にはならねえだろうが」
「ごもっとも」
ハトリは見た目こそキノコに手足が生えた感じだが、中身が大分まともなので反論出来ない。
反論要素が無いし。
「つか、奴隷登録とか出来たのか?」
「一応は」
大分萎びてらっしゃったけど。
・
あの後、流石にマリクとルーエに同行してもらうわけにはいかないのでお城へと帰ってもらったが、魔王の肩書き云々を考えると早めに登録は済ませた方が良いだろうという事になった。
ザラームもずっと太勇から視線を逸らして意識を向けないようにするのは手間だろうし。
「………………」
そうして少々遅い時間ながらも受け付けしていたサンリに太勇とザラームを紹介したところ、萎びたようにカウンターへと突っ伏された。
正に枯れる寸前、花瓶の中の水が足りなくてしんなりしている花そのものみたいな姿。
「あのー……サンリ?」
「どこに勇者と魔王を連れて来る人間が居るんですか」
「ここに」
「普通そんな人間が居るだなんて思いますか。私は考えた事すらありませんでしたよ」
「私もそれに同意見だけど、成り行きとか色々重なってこうなったんだよサンリ」
「前から思っていましたが首領は流されやすさが尋常ではありませんね。名前からして極東人とは察してましたが、極東の謎文化、どんぶらこっこの継承者か何かで?」
「桃が流れる擬音が謎文化扱い!?」
「桃が流れて来る擬音が固定であるところが謎なんですよ」
否定出来なかった。
言われてみれば桃が川を流れて来る擬音といえばどんぶらこっこが定番だけど、普通はそんな定番無いよね。
馬の蹄の音がパカラッパカラッとかならまだしも、桃が川を流れてくる擬音とか汎用性が無さ過ぎる。
「あれ? っていうかザラームが魔王だってわかるの? あ、鑑定?」
「鑑定も何も、この間までボロ布を纏っただけの姿でその辺を様子見という名の監視をしておいででしたので、人外の中ではそれなりに知名度がありますよ。
それなりに生きていれば魔王の見目を知る機会など幾らでもありますし、魔王といえば変身能力なのに火傷痕を消さないのと同様、見目を一切変えていませんから」
「そういえば体の大きさは可変みたいな事言ってたっけ……」
後ろで大きな胸の下で腕を組んでいるザラームを見れば、まあな、と頷いた。
「この顔と痕は今後もこのままにしておくつもりだが……変えた方が良いか?」
「いや別に。私はザラームがそれで良いならそれで良いと思うよ。顔変わっても顔が変わる事自体に慣れればそんなもんかなってなると思うし」
アソウギ達がころころ変わったりするのにもすっかり慣れたのでそんなものだろう。
カプゥだって気分で顔変えてたし。
「……そうか」
「思い入れある顔だからあんまり変えたくないとかだったり?」
「…………ああ、そうだな。やはり憎しみの火は絶えず灯り続けているが、それでも愛しいと思っていた相手との思い出の一つだ。つけられた傷を厭う事は無い。寧ろ喜ばしく思えるものと言えるだろう」
「成る程」
「待ってボス今何に納得したんですか」
「勇者に同意すんのは気に食わねえが今のは俺も理解不能だぞ大将」
太勇とシュライエンに待ったを掛けられたが、そこまで意味不明だっただろうか。
「要するに凄い猫好きの人が猫と遊んでたらエグイ程の爪痕残されて、でもそれすらも嬉しそうに自慢するアレ」
「んな人間居んのか?」
「ああ……時々居る過剰な程の猫好き……」
「居るのかよ……」
納得したように頷く太勇に、ピンと来ていなかった様子のシュライエンはちょっと引いた様子を見せていた。
そっか、シュライエンは人から避けられるか人を誘拐して売るかって二択だったからその辺のアレコレも無いのか。
シュライエンは意外と本を読む事を好むので、まだ文字的な問題から絵本しか読めていないけれど、今度読みやすい小説でもオススメしよう。
ああいうのは特徴的な人間がいっぱい出るので個人差の勉強になる。
流石に現実であのレベルの個人差があるとは言わないけれど、少なくとも色んな人間が居るんだなあという実感には繋がるだろうし。
「……まあ、首領ですからね。つい先程なんて城の方から厳命されましたし」
「え、何を?」
「ギルドの方で囲い込もうとするのは彼女をこの地に留める事に繋がるから止めないが、今後彼女の資質や彼女の有する戦力、資産等を私利私欲の為に利用しようとする者が居れば有罪とする。心せよ」
「………………」
……どっちだ……!
これはルーエとマリク、どちらがやらかしたのだろうか。
眉間に手を当てながら天井を仰いで考える。
……そういえばマリク、ルーエに言われて一応自粛してたけど何か言ってたしなあ……。
しかし考えても考えても、出る結論はどっちもやりそうという一択のみ。
マリクがやるならルーエは止めないだろうし、ルーエがやるとしたらわりと独断だろうけど知っててもマリクは止めなさそうだし。
致命的でさえ無ければスルーだもんなーあの二人は。
「…………何か、ごめんね」
「いえ、人外としては厳命内容は当然のものでしかありませんので特には。城の方からそんな厳命がされた事に驚いただけです。特定の誰かに、というのはありませんでしたからね。勇者様相手ならともかく」
「ははは……」
「人間の職員の場合はやらかしかねないからこそ厳命という形を取られたのでしょう。そちらのシュライエンの件でご存知の通り、職員も人間だと当たり外れがありますので。
人は環境次第で考え方に個人差が生じますが、常識とされている部分が間違っていると似たような思想の人間が大量生産されてしまうのが困りものです」
「大量生産て」
しかしまあ、言いたい事はわからんではない。
……孟母三遷の教えとか、それだよね。
中国の孟子という方が、幼少期に墓場の近くに住んでいたら葬式屋ごっこをして遊ぶようになったから母親が引っ越しを決めて、そしたら次の場所は商人が多かったから商人ごっこをするようになって、今度は学校の近くに引っ越したら教師ごっことして勉強し始めたから母親はようやく安心出来た、っていう。
要するに環境によって子供の性質は変化するという事だ。
勿論その子自身の性質はあるだろうけれど、馴染みがあるかどうかは強い。
……私なんかは野原さん家の息子さんの映画で味方になる頼もしいオカマさんが多かったし、当時はオネェの方々の番組もあったから、そういう人達に全然偏見無いけど……。
偏見以前に、幼少期から当然のように見てるので違和感を抱かないと言うべきだろう。
そういう方々と馴染みが無かった世代は否定的な意見が多いけれど、テレビなんかで幼少期から見慣れている世代はそこまで違和感を抱いたりはしない。
それはやはり、幼少期から馴染みがあるから、という事だろう。
韓国の人は幼少期から辛い物を食べてるから辛い物への耐性がバリバリにあるみたいなものだ。
……なのにあのアニメ、子供に見せたくないアニメのトップを占拠してるんだもんなあ~……。
確かに下品さはあるけどあの年代の子なんてそんなものだし、怒る大人や引く同年代の子も登場するからこそそういうのはやらない方が良い行為なんだと理解しやすいだろうに。
寧ろ子供らしく人を助けるのに理屈とかを使わないので、道徳を教えるのには凄く良いと思う。
最近のは知らないけれど、昔のは本当にオカマさんが格好良い役どころやってたりするので受け入れやすくなるし。
「……ん? あれ、そういえば太勇が奴隷登録するのはツッコミ無い感じ?」
「その方つい先日も首領相手に好意全開の結果要らん騒ぎを起こしてましたので今更です。それ以前からこちらのギルドを使用するようになった理由についても正直に伝えられましたし、首領の情報は出来るだけ教えてくれとも言われたくらいなのでとても印象的です」
「太勇!? 職員さんに情報漏洩頼むのは駄目じゃない!?」
「世間話で話せる範囲の情報を頼んだだけです!」
「もうちょっと立場考えてね!?」
勇者は結構な特別扱いらしいので、その辺自覚を持って欲しい。
何気ない一言が要らん厄介を巻き起こす事もあるんだぞ。
真実はいつも一つな方の名探偵漫画とかもそういう系多いし。
・
回想終了。
そんな感じでサンリは全体的にしんなりしながらも奴隷登録をやってくれた。
何でも私達を担当する事が多かった為、シフト入ってる時に私達が来たらサンリが対応する暗黙ルールまで出来てるんだとか。
それもあって頑張ってくれたらしい。
……うん、ちょっと申し訳なかったかな……。
何か色々とヤバそうなお客担当にさせてしまい申し訳ない。ヤバそうなお客が私達だけど。
私も接客してる時にそういう事がままあったのでいたたまれない気持ちはわかる。
……まあ七割はストーカーさんだったし、三割は悪質なタイプだったけど揉め事起こる前にストーカーさんが何とかしてくれたから問題らしい問題は無かったけどね。
寧ろ安定した固定客扱いで売り上げ上昇したのを評価されたものだ。
まあやっぱり客層が謎なのは困惑されたけど。
学生からキャバ嬢からヤがついてそうなおじ様からテレビに出るような重鎮までいらっしゃるとかマジで客層が謎。
今私の周囲を固めてるメンバーもそんなもんだけどさ。
「…………ま、問題が発生してるわけでもねえってんなら良いか」
もう一度霧吹きをシュッと自身に吹きかけ、ハトリはそう言った。
「でも多分国のアレコレについてはお前も関わってるよな? 特に奴隷使い云々の真実についてが公表された事についてとか」
「黙秘権を行使させてほしいかな!」
あれからそれなりに間が開いたわけだけど、マリクはしっかりやってくれた。
しっかりというかガッツリやりおった。
元々国王傀儡化を進めていた悪質貴族なんかは罪状暴露されてボッシュート状態になり、彼らは大前提として仕事らしい仕事なんてしてないどころか寧ろ情報をこっそり改竄などするので逆に邪魔だったらしく仕事は寧ろスムーズになったそうな。
要するに腫瘍となる要らんお偉いさんは切除済みだった上、有能な人材達は本領発揮が可能な状況下に。
……結果、色々な情報が開示されてる上に改革もされ始めてる、と……。
奴隷使いへの偏見を無くそうというのをメインに据えつつ、色んな人材を送り込んであちこちの改革を進めているらしい。
自分で考える事を学び、知識欲が多く、考える事さえ出来ればちゃんと答えを導き出せるマリク。
そして今までマジで長年国を支えてきた実績があり、知識も物品も多量に所有しているルーエ。
他の有能な人材方も邪魔が居なくなったという事でアクセル全開らしく、特に偏見が強そうなところから改善していっているとか。
……まあ、閉鎖的なところだと偏見強くなりがちだもんねえ……。
要するに、視野が狭すぎるところから攻め落としている感じなんだろうけど。
その方が話が早いのも事実なのでわからんではない。
「それよりも貴様、ハトリと言ったな」
「はい? まあ、そうですが、それが?」
流石に魔王相手となるとアレなのか、ハトリはワインを飲んでいるザラームに敬語でそう返す。
「テングタケマイコニドで間違いはないな?」
「見ての通りに」
「つまり貴様が、あの粉末を与えた輩か!」
「えっ」
目を見開いて牙を剥いたザラームの姿に、ハトリは顔が無いながらも驚いたように肩を跳ねさせた。
いやまあ、突然過ぎる怒りだったから普通に驚いたんだろうけど。
「あー! そうだよハトリ! あの粉末でまさかの展開だったんだからねー!?」
「ハトリにそんな意図が無かったのも護身用って渡したのも知ってるけど、けど、それはそれとしてアレは心臓に悪かった……!」
「いや何の話だ」
ネズミ料理をツマミにしながら日本酒を飲むクダと、大量の水が入ったジョッキを机に叩きつけて嘆くイーシャと、ひたすら困惑なハトリというカオス。
というかまさか前のアレの事だろうか、コレ。
「そうかアレを渡したのはお前か……!」
「「飼い主様アレのせいで本当ヤバい手段に出ちゃったんだからね!?」」
「一応解毒手段もあったし服用まではしてないとはいえ、アレが無かったら別の手段に出てたでしょうし、ね」
「マスター様は流される事が多いとはいえ謎に思い切りが良い事も多々あるので、あの時は本当に肝が冷えましたわ……」
「だから何の話だってんだよ」
カトリコ、ミレツとニキス、エルジュ、リャシーに詰め寄られてハトリは微妙に身を引かせる。
「つまりコイツのせいで大将があんな発言をしたってか。俺の面倒見るとか言った癖にあっさりあんな行動に出ようとしやがって……!」
「怒りが彼か旦那様か太勇か……どちらの方向に向いているかが不明ですが、実際どうにかなる術があるからといって自分の命を粗末にして良いわけではありませんからね」
「私は戦闘種族だからあの時実はこっそりわくわくしていたものだけど、殿様の行動には一気に血の気が引いたよ。戦いとはまた違う諫め方だったというのもあるけれど、阿修羅は愛する者への執着強いから尚更ね」
「アレは本当に、本当に……俺が思わず喧嘩を買ったのも悪かったけど本当に怖かった……!」
「………………」
シュライエン、ガルドル、青のアソウギ、太勇の言葉にハトリがこちらへ顔を向けた。
どこが顔なのかわからないけれど、無言の圧が凄い。
もしも目があったなら酷く胡乱気な目で何があったか説明しろという視線を向けて来ていた事だろう。
……いやでもあの場を収めるには一番手っ取り早いし、インパクト最大級だからアレで大人しくならないなら無理だなってなるだけだったし……。
視線を逸らしてお酒を飲みつつ脳内で言い訳するが、目が無いはずなのにハトリからの視線が刺さる。
ザクザク刺さる視線に、私は屈した。
「……その、ピクニックしてたら太勇が来て、そこにやってきたザラームが誤解から暴走して、魔王対勇者のガチバトルが発生しちゃって」
「何だその世紀末! ……待てまさか予定外の雨が降った上に大量の雷が舞い落ちたあの日か!?」
「いえーす」
やけっぱちの笑みを浮かべて乾杯でもするように酒の入ったグラスを掲げれば、ハトリはうわあというようなジェスチャーをした。
顔が無くてもわかるものだ。
「で、普通に止めても止まらなそうだったからハトリから貰ったハトリの分裂体の粉末が入った小袋掲げて、止まらないとコレ全部服用するよって」
「死ぬ気かお前は!?」
「とりあえず私の命を人質に取るのが手っ取り早いと思って。効果あるって自信もあったし」
「お前らはコイツをどういう育て方したんだ」
「主様は最初から押しに弱かったし謎に割り切りが早かったよ。結婚生活とかで多く見られるけど、押しに弱くてもその後ずっとクダ達と一緒に生活出来るかはまた別なのに、その辺全然気にしなかったくらいだもん」
「そうか…………」
さっきまでハトリに文句言ってたはずなのに何故今は分かり合ってるんだろう。
酒が入ってるからかな。
「一応弁明させてもらうが、コイツなら悪用しないだろうからと護身用に与えただけだ。まさか自分で服用しようとするとはな」
「悪用はしてないよ」
「自分の命を粗末にする為の手段に使うのが悪用だ」
「否定が出来ない」
用法容量守らず使えば人は死ぬので、悪用というのは間違いない。
「ちなみに俺の粉末はどうなった? 次が無いよう引き取っても良いが」
「アレは我の暴走が主な原因だったというのもあるが、第二弾があっても困るのでな。我が預かっている」
「はぁん、成る程。魔王が持ってるなら安心か。とりあえず他の知り合いにも首領にだけは護身用でも危険物渡すなよって言っとかねえと」
私勇者でもヒロインでも無いのにめちゃくちゃ最善の行動取ったと思うんだけど、結果的に自衛についての信用を失った気がする。
そう思いつつグラスを傾ければ、口に広がる酒の味。
……うん、お酒美味しいし結果的に色々良い感じに纏まったし第二弾は無いだろうし別に良っかぁ!
こちらに来てから色々あったが、めでたしめでたしで締め括ろう。
完結!!!!!




