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18 龍と虎とワンピースの似合わない女

 

 拝啓、親愛なる我が妹へ


 ラフィリア、姉はなんかご飯奢ってもらいにクソ暑い中外に出たら(婚約者が)不良の殴り合いに巻き込まれました(巻き込まれに行ったともいう)けど元気です。


 ところで、回復魔法かけて起きた不良の取り巻きーズになんか見られてるんですが、姉は何かしたでしょうか。


 PS.私はただ不良のリーダー格の拳を片手で止めただけなのに。



 なんて、手紙風にラフィリアへの思いをつらつらと並べたが、取り巻きーズの視線がうるさいし鬱陶しい。なんだ?こんな可愛いワンピースの女が強そうなヤツの拳を片手で止めたからびっくりしたか?



「ア、アニキの拳が……」


「魔物でさえぶっ潰した拳が………」


「コウリュウさんでも止められなかった拳が……」



 耳を澄ませて彼らの会話を聞いてみるに、だいたいそれであっているらしい。うんうん、やっぱりびっくりするよな、こんな



「「「こんな、死ぬほど似合わない可愛いワンピース着た女に止められただと!?」」」



 満場一致の言葉だった。その場にいた私と彼以外は全員同じことを言った。

 やめろよ、分かってることを指摘されるといたたまれなくなってくるんだから。


 ばーちゃんとかアンナとかラフィリアは似合うって言ってくれるけど、それは身内の贔屓目だから。普通はツリ目でキツめの顔した女に白いワンピースは似合わない。


 あれだよね、おかーさんは似合わんものは似合わんって言うけど、ラフィリアは似合ってなくても可愛いっていう。

 そこら辺がラフィリアとおかーさんの似てないとこだよね。


 そういや、突っ立ったまま喋らない婚約者はどうなったんだろうか。

 さすがに二発は避けられないと思って割って入ったんだけど。さすがに女に庇われるのは男としての矜恃が傷ついたか?


「君ってそんなに口悪かったんだ。意外」


 真顔で皮肉っぽくそう言われる。なるほど、やはり男としての矜恃が傷ついたか。でも皮肉っぽいのはちょっとイラッときたのでこちらも皮肉で返す。


「あいにく、貴方が求めるようなお上品な育ち方をしていないのでね」


 そう、お淑やかなラフィリアみたいな淑女がいいならいつだって婚約破棄していいんだぜ?

 ニタリと悪女のように笑うと、彼はため息をついて私から目を逸らす。


「え、可……」

「悪……ラなのに………い」

「な…ほ…、恋す……は…愛いのか」


 またなんかヒソヒソ聞こえるけどもう耳は澄まさない。どうせ悪役みたいに見えるんだろ、知ってるよ。


「悪いが、少しいいだろうか」


 私達の間に入るようにリーダー格の……コウリュウさんって言われてたかな?その人が話しかけてきた。隣にはアニキと呼ばれていた人もいる。


「俺はコウリュウ。こっちのはキトラ。とりあえず、キトラの馬鹿野郎がそこのお嬢さんを不本意とはいえ殴る形になってしまったことを謝りたいと思う。すまない」


 あれま、なかなかに紳士。河川敷で殴り合うなんて一昔前の少年漫画くらいでしか見たことなかったからどんな不良なのかと思ったけど。


「ほら、キトラ。お前も謝れ」


 しかも、コウリュウとキトラ。漢字にしたら黄龍と黄虎という、背後に龍と虎が出てくる浮世絵的な感じに思えないこともない。どんな関係か気になるな、切実に。

 つか、単純にコウリュウさんめっちゃ好きだわ。褐色肌じゃないけど、筋肉あるし、顔がいいし、あと不良なのに紳士だし。


 ほら、だって今も関係性はよく分からんけどキトラさんを諌めようと……


「ぜってーやだね」

「あ"?」


 おっと、思わぬ言葉にコウリュウさんから野太い声が。切れたら声のトーンが変わる……いいね!そういうのカッコイイと思う。


「だって?俺の渾身の一撃が止められたんだぜ?割かし本気で殴ったのに。ただの可愛いワンピースが似合わな過ぎる女に止められたんだぜ?」


「そうだな、しかも片手で止められたな。超余裕そうに。可愛いワンピースが似合わないのに超余裕そうに。だからって謝らないのは人としてどうかと思うぞ」


「しかも?そっちの男は俺とお前が二人がかりでやっても触れさせてすらくれなかったんだぞ?つか、俺達ただ組織間で対立してただけなのになんで止められたの?」


 確かに、キトラさんの言うことは最もである。別に河川敷で殴り合うことは推奨されているわけではないが、禁止されているわけでもない。


 よって、真っ先にぶん殴りに行った張本人を三人でじっと見つめると、


「君たちが知ってるかどうか知らないけど、最近騎士団の見張りが強くなってるんだよね。あとちょっとで」

「あとちょっとで、なんだ?ノア」


 あ、この声は。


「お久しぶりです、シャーリー卿」

「ええ、こちらこそ。しかし、マーティス家のご令嬢がこんな所で何を?」


 さすがに一般市民ぶん殴った証拠隠滅してましたとか言えないから黙ってニコニコしとく。


 スファルト・シャーリー。騎士団の経理を主に担当している人で、私がまだ小さかった頃は魔道士団の団員だった人である。ちなみにうちの父の後輩で、その頃の団長はばーちゃんだった。


 いや、ほんとに凄いんだよこの人。いくら調べても貴族の血が一滴も入ってないのに魔法使えたわけ。マジで奇跡じゃない?

 結局は魔力の量が足りなくて騎士団の経理担当になったんだけど、これまた剣の才能に満ち溢れた人らしく、あのアストリッド辺境伯にも認められてるのだとか。


 …………なんで経理なんかやってんの?


 つか、私がマーティス家のご令嬢だってことをナチュラルにバラされたせいで外野がうるさい。彼が喧嘩に割って入ったのは騎士団の見回りが来るからだったわけね。


「なるほど」


 シャーリー卿はニコニコして何も喋らない私の意図を汲み取ってくれたのか、納得したような顔で頷く。


「これは不粋な真似をしました。まさか逢い引きだったとは知らず」


 ん?なんかおかしい。いや、間違えてはないけど。これ、デートじゃなくて買い出し。明日の準備してからお昼奢ってもらうの。


 …………いや、よくよく考えれば、婚約者同士でご飯食べに行ったり買い物行ったりするのってデートなのか?そこら辺どうなんだろ。


 シャーリー卿はコウリュウさん達とちょこっとお話してからどっかに行ってしまった。多分見回りに戻ったんだろうね。


 いやでもさ、ほんとにごめんだけど、デートの定義って何?それくらいは教えてくれてもいいんじゃない?



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