高校卒業
秋になると進路が確定する者が増えてくる。
それと同時に少しずつ登校する人数も減り、雪が降り始めるとクラスの半分以上の座席が空席となる。
受験の兼ね合いもあるため学校も登校を強制しない。
クラスのお祭り女子八人は、うち六人が県外の志望となる。
最も進路として多く選ばれたのは宮城県だ。
地元よりも宮城の方が多いというのは複雑な気もするが、地方の進学校はとかくそういうものではないだろうか。
もちろんその兼ね合いで別れる恋人達が大勢いる。
宮城志望の外崎と東京志望の幸も離れ離れになる事で意見の食い違いから喧嘩をして別れてしまった。
あれ程仲が良かった二人だが、遠距離の壁は大きかった。
当然育実と真田のように遠距離恋愛に臨む者達もいる。
しかし携帯電話やインターネット等が無い時代の遠距離恋愛というのは難しい。
手紙や固定電話でしか連絡が取れない当時の遠距離恋愛は、果たしてどれ程の割合のカップルが成就できたものなのだろう。
唯と澤村君も近い方ではあるが遠距離になる。
私と横山は恋人同士ではなかったが、そう考えると側にいられるのはやはり幸せな事ではないかと思う。
横山は先に推薦で進路を決めると、私にも頑張れとエールを送ってくれた。
最終的に知美以外の皆は各々それなりに希望に沿うような形で進路を決める事ができた。
知美だけは全て落ちたのだが、後に地元ではない地域の地方タレントとなり毎日楽しそうに過ごしている。
その地域に住んでいる同級生からテレビに映る彼女の近況がよく耳に入る。
卒業式当日。
雪がちらついていた。
この日バスケ部の皆は後輩達から花束と寄せ書きの色紙をもらった。
それを受け取った私達卒業生は後輩達に新品のリストバンドを贈る。
これは伝統で、私達もこうしてひとつ上の上級生が卒業する時、同様に最後の挨拶を交わした。
感情の起伏の激しい部員が多い事もあり、大泣きする三年生が多く見られた。
それを見て笑っていると副主将が私の上半身程ある大きな花束を持ってきて私に差し出した。
「卒業生から菜々子マネージャーへも。」
彼女は花束を抱えて笑っている。
私は驚いて皆の顔を見たが、皆は笑顔で私の方を見ている。
驚いたまま花束を受け取ると
「みんな菜々子には世話になったから卒業式には何かお礼をしたいって話してたんだ。
勿論みんなもバスケ頑張ったけど、菜々子はみんなのために頑張っていたからね。」
花束の中には手作りのメッセージカードが入っている。
表紙には、笛とストップウォッチを首からぶら下げる私の似顔絵が描いてある。
カードを開くと
「菜々子マネージャーのおかげで見られた景色がありました。
今までありがとう。お疲れ様でした。」
私は泣いてしまった。
「私の方こそありがとう。
みんなのおかげで見られた景色があったよ。」
私の実力ではとても県大会の決勝のコートなど見る事は叶わなかったはずだ。
皆が私をあそこまで連れていってくれたのだ。
「ありがとう。ありがとう。」
唯は私の肩をぽんぽんとすると、笑顔で二年生のマネージャーに
「初代マネージャーが残したもの大事にしなよ。
必ずみんなの支えになるから。」
すると二年生のマネージャーが
「はい。」
と言って下を向くと彼女の目から涙が落ちた。
こうして私の高校生活とマネージャー生活の全てが終了した。
右も左もノウハウも分からない私はがむしゃらにやってきた。
だから私が本当に良いマネージャーだったのかは分からない。
そのチームによって求められるものは異なる事が多く、それぞれ重要とするポイントが変わる。
ただ持論として全てにおいて根本に必要なのは「愛情」だと考える。
愛をもって皆を見る事で、そのチームで何をしたいか何をするべきかが自ずと見えてくる。
見返りを求めず皆を思い動く事。母親のような感覚に近いのだろう。
その頑張りは必ずチームの力に結びつき、皆もちゃんと気付いていてくれているものだ。
だから私はもし「マネージャーに必要なものは何だ?」と聞かれたら、「母親のような無償の愛」と答えるだろう。
後日私は高校の友人達と共に仙台に移り住み、新生活を始める。