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マネージャー  作者: 夕顔
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夏祭り

 シャツを掴まれた彼は振りほどこうとしたが、唯の握力から逃れる事はできなかった。


 そうこうしているうちに監視員達の手によって捕えられ、監視小屋へ連行されていった。

 

 主将は驚いて笑ったが


 「今回はすごく助かったけど、中には危ない手段で抵抗してくる人もいるから不用意に手を出しちゃいけないよ。」


 と言っていた。

 だから監視員は複数で行動をするのだろうか。




 「覗きなんて勉強合宿の露天風呂思い出すね。」


 と言うと唯は顔を青くしてショックを受けた。

 

 この犯人が後にどうなったかは分からないが、私達はここで初めて犯罪を目撃し、唯はその解決に携わる事になった。




 そしてこの時から唯はまたやる気オーラが戻ってくる。

 

 この出来事をきっかけに彼女は警察官を目指す事にする。

 とりあえず大学を出てから地方公務員として採用試験を受ける方向で固まった。

 こうして唯は地元から一番近いところにある国立大学を目指す。




 お祭り女子達は皆驚いた。


 「唯が警察官なんて大丈夫なのか?」


 しかしまあ考えてみると、曲がった事が嫌いな彼女には意外に適正があるようにも思う。

 後はうっかりするのと少しずれている感覚をなんとかすればきっと良い警察官になるのではないだろうか。

 



 それとなくフォローしていると不思議女子の片割れの知美が

 

 「それなら私は消防署に勤める!」


 と言って廊下にある火災時用の非常警報ボタンを押した時は流石に助けようという気持にはなれなかった。

 



 不思議女子の考える事は本当に分からない。 

 

 

  

 

 

 私の方もこの夏は少し動きがある。

 地元で行われる大きな夏祭りに中学時のクラスメイト数人と参加する事にした。


 足の方も大分良くなっていたので、あまり目立たない軽めのサポーターを足首につけて浴衣を着た。

 暑いし歩き辛いのに何故浴衣にしたのかというと、横山も来るからである。


 この頃私は地元を離れる事を考えると、そろそろ横山にも告白する必要があるのではないかと真剣に考え始めていた。


 あわよくばうまくいくと残りの時間を彼と恋人として過ごす事ができるのではないだろうか。

 もちろん受験勉強をしなければならないため、それ程ラブラブに過ごす訳にはいかないのだが。




 「へえ。菜々子似合うじゃん。かわいいかわいい。」


 横山はこういう事をさらっと言ってしまう。

 これでうっかり惚れてしまう女子も今まで多かった。

 しかし本人に他意はないのだ。なんと憎たらしい。


 しかし好きな人に褒められるのはとても嬉しい。


 「へへ。」


 私も例に漏れずうっかり舞い上がってしまった。


 もし今夜チャンスがあれば告白しよう。

 彼が発した言葉は私の勇気を大きく膨らませた。 




 祭りは凄い人の波だった。


 囃子の音や音楽があちこちから耳に入り、話し声や笑い声などの中雑踏をかき分けるのは、日常とは違うテンションに皆を駆り立てた。

 はぐれそうな人ごみの中、皆で服を掴み合うなどをしながら歩く。


 しかし足のサポーターが弱かった事と日常より歩き辛い事から、皆と同じスピードで歩くのは次第に疲れてきてしまった。 

 ただ皆も屋台を覗きながら進み、時折足を止めたり何か買うタイミングで追いつく事が可能だったので、なんとか見失わずに済んでいる。

 

 「これは選択ミスだったか。」




 浴衣で来た事を少し後悔し始めた時、横山が私の様子に気付いた。


 「少し休もうぜ。みんなには言っておいたから。」


 自分の選択ミスが原因のために気を遣わせてしまったのだが、不謹慎な事にとても嬉しい。

 こういう優しさも彼の良い所である。




 出店の列の外にある小さな公園のベンチに腰をかけて少し休む事にした。

 横山はかき氷を買いに行っている。

 まさかこれはチャンスではないだろうか。


 雑踏も音楽も少し遠くに聞こえるこの場所は先程とは違い小さな音がちゃんと耳に入る。

 

 自分の心臓の鼓動が速くなっていくのも耳に入る。

 

 「ついに私も意を決する時がきた。」

 

 心臓がもたないのではないかという程バクバク言い出した。


 次第に自分の心臓の音の方が気になり、周囲の音が小さく小さくなっていく。




 そこへ横山がかき氷を持って帰って来た。


 私の隣に座ってかき氷を差し出すと彼は開口一番


 「そういやお前進路どうするの?」




 進路?

 

 すっかり頭の中が告白モードだった私だが、出ばなをくじかれ現実を考えなければならなくなった。


 なにしろそこは私も彼に聞きたいところである。


 「いくつか候補はあるんだけどまだ悩んでるところだよ。

  横山は決まってるの?」


 すると彼は

 

 「俺仙台行こうと思って。菜々子も一緒に仙台行こうぜ。

  お前の頭ならいける大学いっぱいあるんじゃね。」




 不覚にもまたときめいてしまった。

 少し気恥ずかしく思いながら


 「なんで一緒に仙台なのよ。」


 すると




 「菜々子俺が野球やめた時も始めた時も泣く程考えてくれたろ。

  そこまで考えてくれる友達はそうそういないと思うんだよな。

  そういう友達とはできればずっと一緒にいたい。」




 告白しようとはりきっていた私の意思はポッキリ折れてしまった。




 遠くの雑踏と祭りの音楽のボリュームが急に大きくなったように感じた。

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