のぞき
岩場から降りるともう一人が交代で登り始め、同じように覗く。
後に登った方が岩場から降りると二人で何かを話してから慌てて逃げ出した。
今にして思うとあの時声を発しなくて良かった。
発する事ができずにいたのだが。
私達グループ以外は誰も気づいていない。
二人の姿が見えなくなってから
「何あれ。」
「今度は何考えてるんだ。」
と話題にはなったものの、昨日の今日なので皆ひそひそと話した。
不思議女子の頭の中はいったいどうなっているのか。
部屋に戻った私達に唯と知美が慌てながら露天風呂での事を説明しはじめた。
「本当に覗く事ができるのだろうか?」という疑問を持って露天風呂へ行ってみたのだとか。
そこで先に知美が実際に岩場に登ってみると男性用の露天風呂が丸見えだったようだ。
それを聞いた唯が自分も確かめてみようと岩場に登り、垣根に手をかけてそっと顔を出した瞬間
全く同じタイミングでそっと垣根から顔を出した男子と目が合ってしまった。
なんでそんな事になるんだ。
暫く無言で目を合わせてから二人同時にそっと顔を引っ込めたらしい。
その後は怖くなりとりあえずその場から逃げて来たようだ。
皆ドン引きである。
「あんた達昨日の男子とやってる事変わらないじゃん。」
二人はショックを受けた。
しかし間違いないだろう。
男性用露天風呂を覗くという行為をした事には変わりない。
目が合った男子は大谷のようだ。
「これ澤村君聞いたらどう思うんだろうね。」
唯の顔がみるみる青くなっていく。
冗談では済まされない話なのだ。
大谷と澤村君はクラスメイトで、彼女達がこうして私に話しているように彼等も話している可能性が非常に高い。
「後先考えないで興味本位だけで行動するからこうなるんだよ。
うっかりとかいい加減にしなよ。
あんた達明日から『痴女』って呼ばれる事になるよ。」
二人とも涙目になってしまった。
言いすぎただろうか。
そのまま勉強合宿夜の部の開始時間がきてしまったため、私達は勉強道具を持ってホールへ向かう。
二人ともしょんぼりして下を向いて歩いている。
先程までは覗いた男子に憤りを感じていたが、まさか同じ事をする女子がいるなんて。
しかも自分の身内に。
不思議女子は本当に何をするか分からない。
しかしマネージャーもかなり焦っている。
このままでは唯が澤村君に何と思われる事か。
二人の事を怒ったものの唯と澤村君が破局するような事を断じて願ってはいない。
彼女達も反省しているのだから対策について考える必要があるのではないか。
そこで授業が終わってから大谷を呼び出し話しをする事にした。
「みんなが見える見えるって騒ぐから見てみたくなったんだよ。
そしたら唯の顔があってびびったぜ。
俺結局唯の顔しかみてねーし。」
大谷は笑っている。
こいつら同じ思考なのか。
「私達も大谷が覗きしたって秘密にしておくから、この二人の事も秘密にしてちょうだい。」
少し脅しのようにも聞こえるがこれは取引だ。
彼女達を守るにはこれが常套手段ではないだろうか。
幸い大谷は快諾してくれた。
澤村君へはまだ話していなかったようだ。助かった。
大谷も都合が悪かったのだろうか。それとも唯の事を考えてくれたのだろうか。
痴女二人は涙目になりながら
「ありがとう。」
と頭を下げた。
知美はともかく唯は相当焦って反省した事だろう。
叱ってばかりだと可愛そうなのでジュースでも買ってあげようとしたら
「知美が覗いた時誰入ってた?」
「うんとねー。」
とキャッキャし始めたのでジュースを買うのは止めて、暫くこの二人はセットで「痴女」と呼ぶ事にした。
そう呼ぶと二人は顔が青くなり大人しくなる。効果覿面である。
結局女子は最終日までその露天風呂を誰も使用しなかった。
初日の覗きの件はかなり大事になったようで、男子から聞いた話によると引率の先生が男性用露天風呂に張り込むようになったそうだ。
この勉強合宿はただ勉強をするだけではなく、私達の受験と将来について深く考えるきっかけとなった。
私はマネージャー時代から薬学に興味を持ち始めたため進路もその予定なのだが、そうなると県外へ出る事になる。
皆は最終的にどこへ行く事になるのだろう。
唯はどこへ行くのだろう。
横山の進路の予定はどうなっているのだろう。
現実を突きつけられたようだった。




