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マネージャー  作者: 夕顔
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高校三年生 夏

 私の練習日記は私が考える以上に役に立ったようだ。


 むしろ練習に参加できない私だからこそ見えたものもあるようで、指導はとてもできないが、ノートをもとに私に意見を求めてくる部員が増えた。

   

 当たり前の話だが得意なものと向きのものと好きなものはイコールではない。

 身長が高いから飛ぶのが好きだからゴール下が得意とか、シュート練習が好きだから本番で多く得点を取れるわけではない。

 

 これまでは向き不向きを見極め、その上で弱点を克服し穴を埋めるような意識で練習をしていたが、これからは短い時間で自分の得意分野に向き合い「特化」を目指す意識を持つように練習をする。


 大幅なポジション変更はしなかったが、練習にストレスを感じる者もいたはずだ。


 私は相変わらず「腰!」などと基本を叫びながら手を三回叩き意識付けを続ける。


 私が大人しく作業をしていると全く同じように手を三回叩きながら声真似をし


 「菜々子のまねー!ひひひ!」


 と笑う部員が毎日のようにいた。

 若干しゃくだが、それでストレスを軽減できるなら仕方ないかなと思いつつ

 しかしただでやられるものかと


 「今日の日記はバツつけとくわー。」


 と意地悪な顔で言うと「ひどい!」「良いこと書いて!」と言いだす皆に笑った。





 文化祭の準備の方は昼休み時間を利用して店の看板を作る事になった。


 我がクラスはたこ焼き屋を出店するのだが、いかんせん看板担当の運動部員に絵心のある者がいない。

 背景を白地にして赤で「たこやき」という字を書き、空いたスペースにタコとタコ焼きの絵を描く予定で、試しに鉛筆で下書きをしてみると誰が描いてもおかしなものになる。

 あまりの酷さに誰かが描く度に皆で大爆笑だ。


 会心の出来だった「たこやき」という字以外に何も進まない。


 そこで期待を裏切らない唯のスイッチが起動した。


 「描いちゃえばなんとかなるって!」


 と素敵な笑顔で下書き無しにカラーを筆にとり直接書き始めた。

 止める間など無かった。


 


 唯が描いたタコの完成図は「エイリアン」だった。


 リアリティを求めたのか歪な頭に目は描かれず、トレードマークの尖った口ではない牙のようなものが生えた何かから黒いものが噴出している。

 「丁寧」という言葉がよく分からない唯は勢いで描いたため黒が滲んでエイリアンと同化し、瀕死のエイリアンが黒色の血にまみれているようだ。

 何故か長い足も二十本ある。

 空きスペースにたこ焼きの絵をちりばめたのだろうが、ただの真ん丸のそれは最早惑星にしか見えない。




 皆大爆笑だ。


 いやこれ笑って済ませられるのか?

 でもカラーで書いちゃってるよ。


 唯は満足気に


 「何気に上手くない!?」


 と言っている。




 結局その看板のまま私達のクラスはたこやき屋を出店し、卒業アルバムにも残る。


 バスケ部の皆からは


 「それ絶対唯が描いたでしょ。」


 バレている。




 その後看板が飾られた日、唯は大喜びで澤村君に自慢しながら二人で店の前で写真を撮る。

 流石の澤村君も看板を見た時は変な顔をしたが、良い笑顔で写真に写っていた。 






 夏の大会が近付くと横山を電車で見かけなくなってしまった。


 私も朝練に顔を出すようになったために時間がずれているのだろう。

 少し寂しい気もしたが、彼が野球を始めた事が何より嬉しい私は心の中で応援した。




 高校最後の夏がきた。

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