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マネージャー  作者: 夕顔
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練習日記

 この年は文化祭も体育祭も日程が大幅にずれる事になる。

 恐らく前年度の反省によるものだろう。


 その兼ね合いで高校総体が近くなると文化祭の準備も始まる。


 昼休みなどを利用して私達も手伝うのだが、運動部では無い人達は放課後に残って作業を進めてくれる。

 申し訳ない思いがあったが


 「頑張れ!」

 「応援してるから!」


 と逆に背中を押してくれたクラスメイトには本当に感謝をしている。






 春の大会の後、ついに私の一年生の頃からつけていた練習日記が皆の前に出る事になった。


 きっかけはまた唯の「うっかり」からなのだが、今にして思うと謝ってはいたが「うっかり」ではないのではないかと考える。




 春の大会で私達は壁にぶつかった。


 今回は勝てるのではないかと思い挑んだ強豪校に敗戦した。

 しかも前回と数字の上での試合内容があまり変わらない。

 当然強豪校も日々精進をしているわけで中々差を詰める事は難しいのだが、あれ程頑張ったのにと、あまりの悔しさに泣いた部員もいた。


 夏に向けてどう対策していくかという意見を募った時に、あれ程自己主張が強い皆から意見が出ない程に落ち込んだ。


 そこでいつものんびりな監督が、今までは皆ウィークポイントを克服しようと頑張ってきたが、ここからは自分の得意なものをさらに特化してみようと珍しく提案した。


 それも一つの策だと思う。

 実力も申し分なく身長の高い彼女達に追いつく事は至難であり、体格にあまり恵まれない私達なりの特化スタイルが必要なのではないか。


 しかしそれに対して顔を上げた者もいるが、皆の表情が晴れたわけではない。

 今からそれと向き合うのには時間が短すぎる者の方が多い。


 自分が本当に得意なものは何なのか、「好き」や「向き」とは違うそれを今から探して把握して向き合うのでは、夏の大会までに特化などとても間に合わないのではないか。




 すると唯が顔を上げて私を見ると怪しい光を発しだした。

 嫌な予感のあれだ。




 「菜々子の日記を見ればいい!」


 


 私は固まった。


 私などより実力のある皆の事をまるで上から目線で見ているかのような日記を全て見せるなどとんでもない話だ。

 あくまで私個人のマネージャー活動を進歩させるためにつけているものであって、だから唯以外には秘密にしていたのに。


 皆不思議そうな顔でこちらを見ている。




 いや。どうしよう本当に。

 あまりに個人的に自分の感想を書いている日記が果たして本当に役に立つのか。

 しかし万が一役に立つ事ができるのならチームの力が上がる手助けになるのだろうか。

 

 皆が前進するためのきっかけを欲しがっている。

 例え間違っていても悠長にしていたり出し惜しみしている場合ではないかもしれない。

 しかし。


 何と言えば良いのか言葉が見つからないまま、素敵な笑顔の唯を見て溜息が出た。




 こうして私の23冊の秘密の日記ノートが皆の前に披露される事になった。


 監督を含め、皆は一言も発さずにそのノートを見ている。

 真剣に見てくれているのかもしれないが、私は生きた心地がしない。


 私などの分析が果たして実力者の皆の役に立つものなのだろうか。

 どちらかと言うと皆の日々の成長を喜んで記していたものだが、中には気分を害する者もいるのではないだろうか。


 沈黙が辛い。




 暫くして一人が口を開いた。


 「ありがとう菜々子。」


 スターターでは無いが人一倍練習を頑張ってきた女子だ。

 彼女は中学の時のハードな練習で膝を痛め、実力はあるのだが度々の故障で苦労をしている。

 

 「あんたがこんなに皆の事を見てくれていたなんて思わなかったよ。」


 するとそれを皮切りに


 「ありがとう。」

 「凄いな菜々子。」

 「毎日これ続けてたのか。」


 驚きやお礼の言葉が次々とわいてきた。

 

 胸が捩じ切れそうに心苦しく思っていたが、今度は喉が締め付けられるような感覚になった。

 

 その時唯が笑いながら

 

 「菜々子は視野が広くてよく人を見てる。

  みんなも菜々子が自分達の事一生懸命考えてくれているの分かってるよ。」


 すると部員の中から


 「菜々子は中学の時たまにしか試合に出てなかったけど視野が広いガードだったよね。」

 「回転早い子だったよね。動きは鈍いけど良い選手だと思ったよ。」

 「よく観察されてる日記だよこれ。」


 という声が次々とあがった。


 唯はうんうんと頷いている。


 私は堪えていた涙がいっきに溢れて泣いた。




 中学の頃私は実力の無いキャプテンだった。

 練習も筋トレも人一倍頑張ったが思うようには成長せず、それでもバスケが好きだし、キャプテンとして皆を引っ張るにはこれしかないと頑張ってきた。

 しかし試合に出られない事も多く、実力者ばかりの皆の記憶に残るなど夢にも思わなかった。


 だから怪我を口実にマネージャーに甘んじる自分もどこかにいたような気がする。


 そんな私の個人的なノートがこれほど喜ばれるとは。




 いつもどこかで感じていた不安は払しょくされた。


 私も皆と同じバスケ部員なのだ。


 「バスケ部に入部して良かった。マネージャーになって良かった。」




 つられて泣いた子も大勢いて部室は一気に修羅場と化した。


 修羅場の中心で唯が素敵な笑顔で立っていた。 

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