お花見
横山は失恋したがあまり変わらず元気に見える。
相変わらず野球部にも戻っていない。
そして私も彼に告白した訳でもない。
ヘタレと言われそうな展開だが、私にとって人生初めての愛の告白は簡単に踏み切れるものではないのだ。
また泣く事になるかもしれないというのに、心底情けないと思ってはいるのだが、こればかりはどうしようもない。
三年生の春、クラスのお祭り女子数名と桜を見に行く事になった。
学校からはそれ程離れていない所に花見スポットとして人気の公園がある。
この公園は桜の季節になると朝から屋台がたくさん出るので、そこで食べ物を買って食べながら桜を眺めようという話になった。
公園は一般客も多く集まってくるので、通路は人でごった返す。
今回美喜は来なかった。
いざ公園へ向かおうとした時、唯がついに我慢しきれずに相変わらず私の後をついてくる美喜に疑問を投げかけたのだ。
「美喜はなんで菜々子の後ついて歩くんだ?」
すると彼女は首を傾げて暫く考えてから
「そういえば用事あるの思い出したー。
今日は行けないや。ごめんねー。」
と笑顔で言うといなくなった。
何かを察したなどという事ではないと思う。
むしろ「何かを思いついた」ような表情のように私は捉えた。
しかし不思議女子の考える事は分からない。
正直恐怖さえ感じる事がある。
唯は美喜の回答を得られない事に少しイラつきを見せていた。
それでも見事な桜が目に入ると彼女の笑顔はまたいつもの素敵なものになっていた。
もう一人の不思議女子知美と桜の下をくるくる回りながら踊り出した時はどうしようかと思ったが、酔っ払いも多くいたためかあまり注目を浴びずにすんだ。
唯はケチャップたっぷりのフランクフルトが大好きで嬉しそうに何本も食べている。
様々な高校の生徒が私達と同じように友達を誘って桜を見にきている。
桜の花を眺めながら歩く人達の中に横山の姿を見つけた。
彼もこちらに気付き、指をさしてから友達を引き連れて向かってきた。
「菜々子も来てたのか。」
情けない事に美喜がいなくてよかったとほっとしてしまった。
横山と共にいる人達もクラスメイトのようだ。
その中に坊主頭の人が一人いる。野球部なのだろうか。
そのまま私達は合流して総勢十人程となり、桜はあまり見えないがそれ故人気が無い公園内の東屋でおしゃべり等をしながら過ごした。
唯は相変わらずフランクフルトを食べ続けている。
横山の友達の中にバスケ部に所属している男子がいて、私はその彼と横山と唯と4人で会話をしていた。
面子的にお互いのバスケ部の話になるわけで、横山は少し退屈そうだ。
すると横山がとんでもない事を笑いながらバスケ部の男子に言った。
いや、もしかすると彼等にとっては普通の会話だったのかもしれない。
話題が退屈と感じた横山が茶々を入れたかっただけなのかもしれない。
しかし私には我慢ならなかった。
「何だかんだ言ってもお前試合に出てないだろ。
バスケ部やめちゃえよ、時間の無駄だって。
残りは彼女つくって遊ぼうぜ。」
気付いたら横山に平手打ちを飛ばしていた。
横山もバスケ部男子もかたまった。
しまった。
しかし謝ろうとは思えず、とっさに逃げる事にした。
だが悪い事をすると逃げられないようになっているのか、私は5歩程走ったところで右足を挫いて転んだ。
思ったより痛みが少なかったのはコルセットのおかげだろう。
突然ダッシュをしようとしたのがいけなかった。
唯は血相を変えて私のところに走ってきた。
身体をおこして確認するように右足首を抑える私を見てから立ち上がり、横山のところへ向かったと思うと
彼の頭を思い切りフランクフルトで殴った。
ソーセージはその衝撃で勢いよく飛んでいった。
マジか唯。
横山の頭の天辺にケチャップがたくさんついている。
まるで流血でもしているかのようだ。
さすがに横山がキレかけた時、先に唯がキレた。
「あんた今菜々子の前で絶対言っちゃいけない事いった!
菜々子は足の怪我が治らなくて試合どころかバスケもろくにできないんだよ!
でもバスケ部辞めないでマネージャーを頑張ってくれている!
一年生の時からずっと!」
その時の横山がどういう顔をしたかは分からない。
私は自分の足首をおさえながら顔を下げてしまったから。
「先輩と喧嘩したくらいで野球やめたくせに偉そうにすんな!
自分だって野球やりたいくせに!」
私が横山に野球の話をしなかったのは、自分自身がバスケをプレーできていないのに偉そうな事を言いたくなかったからだ。
もちろん恋愛感情が絡むためにそういう大事な部分に触れるのも怖かった。
涙が滲んできた。
横山に言いたかった事を唯が全部言った。




