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マネージャー  作者: 夕顔
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二年生冬

 冬の大会では強豪校に負けた。

 この時の相手チームは昨年の冬から度々私達の行く手を遮る。因縁のあるところだ。

 

 私達も一生懸命練習をしてきたつもりだが届かなかった。

 ただ少しずつ対策を考えてきた事もあり、以前のように全く歯が立たないという訳ではない。

 

 ここで唯が提案をした。


 「基本の練習時間は減らしてゲーム形式の練習時間を増やそう。

  その分基本は今以上に集中して、それをゲーム形式で忘れないようにする事。」


 皆はその案に乗った。

 強豪校程のチームが相手となると応用以上の練習を多く積まなければ追いつかないと判断したのだ。

 「基本を固めるだけではだめだ」と思わせる程強豪校は強く、ゲームも苦しいものだった。

 

 そこで私はこの日を境に

  

 「腰!」「足!」「手!」


 など三回手を叩きながら声をあげるという事をしつこい位に繰り返しするようになる。

 おかげで部活動の練習が終わる頃には声が出なくなってしまう事もあった。

 こうする事で練習時間が減るにあたって忘れがちになってしまう基本中の基本を意識付ける手伝いをしようという考えだ。

 それにこれなら皆も私に言われたところでそこまで嫌な思いをしないのではないだろうか。


 本当にすごく基本的な短い言葉しか声にしないのだが、基本は何よりも大切で、それがしっかりできて初めて全ての動きの向上に繋がるはずだ。

 

 


 ただあまりにしつこいからか、そのうち何でもないときに真似をされからかわれるようにもなる。 






 冬休み期間中に中学のクラス会があった。


 失恋の傷が癒えない私だが参加する事にした。

 当然当時のクラスメイトの横山も来るのだが、失恋ごときで中学のクラスの皆を避けるなどおかしな話ではないか。 

 などという建前を自分に言い聞かせ、実際は辛い気持ちと同じ位やはり彼の顔を見たいという思いがあり、どちらが勝ったかというだけの話だ。 


 中学校の近所のお好み焼屋さんに集まり、忙しい中なのに三十人程の元クラスメイトが集まった。

 その日お店は貸し切りにしてもらった。


 変った者もいれば変わっていない者もいれば、皆で懐かしみながら笑って過ごした。


 皆を一番驚かせたのは子どもを連れてきた女子だった。

 もう一歳だと話していたのだが、そうなるといつできた子どもかという事で皆はさらに大騒ぎする。

 相手は他のクラスの男子で、彼女は高校へ進まなかったが彼は高校へ通っているようだ。


 バスケ部に所属していた彼女は、謹慎や部活動停止の処分を個人的に何度ももらう程に尖っていたのだが

 

 「高校卒業したら結婚するんだ。」


 と子どもを抱いて幸せそうに話す姿にはその面影が無かった。

 

 


 その彼女が横山に


 「あんたも野球やりなよ。三年間はあっという間なんだから。勿体無い。」


 と言っていたのには何か説得力を感じた。

 彼女は高校へ通っていない。そんな彼女から見ると高校生活は眩しいもののようだ。


 横山は都合悪そうに


 「うるせえなあ。」


 と言って頭をかいていた。




 彼女は私のところにも来た。


 「菜々子まだバスケやってるの?」


 私は彼女にマネージャーをしている事を話した。

 彼女こそ私が最初に出会った不思議女子だったのだが、不思議女子の気配が無かったためつい話してしまった。


 「もうプレーしていないのか。」


 彼女は凄く寂しそうに私にそう言うと


 「私は菜々子がバスケやってる姿かっこいいと思ってたよ。」


 そのような事を言ってくれるのは彼女だけだろう。

 うっかり涙が出そうになった。 




 解散の前に皆で「また来年集まろう」と約束をして別れた。


 このクラス会は今でも毎年冬に行われている。

 私も帰省とタイミングが合えばその都度参加している。


 この時既に母になっていた友人は、後に彼氏と結婚をして子だくさんの肝っ玉母さんになる。






 久しぶりに皆と話した私はご機嫌に家路についた。

 やはり今日は参加してよかった。




 すると後ろから横山が走ってきた。

 気付かないふりをしながら前を見て歩いていると隣に並び


 「なあお前俺の事避けてない?」


 当たり前だろう。避けずにいられるものか。

 恐らくこの時の私は随分な顔で彼を見た事だろう。


 今にして思うと横山にとっては理不尽な話なのだが、私も私で本当に大変だったのだ。




 「俺一年の春からずっと美喜の事かわいいと思っててさ。」


 最悪のパターンだこれは。


 「お前と同じ制服着てるから、いつかどんな女子か聞こうとか思っててさ。」


 すると私はその時にもう失恋確定していたわけか。


 「告白された時は本当に舞い上がって嬉しかったんだけどさ。」


 傷口が広がりそうだから耳をふさいでしまおう。


 「そんなんでも別れる時はあっという間なんだな。」


 


 別れた?

 私は驚いて彼の顔を見上げた。




 「『やっぱり好きじゃなかった』ってフラれたんだよ。

  終業式の日の帰りに言われたんだけどさ。

  束の間の喜びだったわー。

  お前何か聞いてない?」




 なんだか肩の力が抜けしまった。

 

 「いや聞いてないけど。

  思ったよりかっこ悪かったとか?」

 「お前かなりひどくねえ?」


 ひどいのはお互い様だ。

 

 横山はうなだれていたが、私はそれどころではなかった。

 

 高校での美喜は相変わらず元気で、何の変化もなかった。

 私に遠慮したとも思えない生活ぶりだし、終業式にも笑顔で横山の話をしていた。



 

 色んな思いを渦巻かせながらうなだれる彼を見ていた。




 不思議女子はやはり分からない。

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