出会い
海の中で、青年が一人、佇んでいた。岩に寄りかかり、足を組んで。青年の髪は、美しい濃紺の色で、長さは肩につく程度と少し長め。瞳は深緑と海色のグラデーションの瞳で、星屑のような煌めきがある。服は着崩されている白いシャツ、ズボンは動きやすそうな黒のものだ。
とん、と青年の身体に何かが当たった。青年はわざとらしくため息をついて、自分に当たったものを見た。一度はやっぱりか、というような落胆を見せたが、思わず二度見した。
青年に当たったのは、美しい少女だった。
瞳が伏せられ、長い髪を波に任せている少女。肩をかき抱いて、膝を抱えて。寒さに耐えるように。彼女から漂うのは、孤独。青年はそれを感じ取って、彼女の頬をそっと撫でた。
「……いつも通り連れていくか」
青年は彼女の手をほどこうとしたが、すでに固まっていた。仕方がない、と諦めて、丸くなった姿のまま抱き抱えた。少女の身体は固くなっていた。
彼はすいすい岩や魚を避けて泳ぐ。その泳ぎに迷いはなく、とても手慣れているように感じられる。前方に何やら建物が見えてきた頃、青年はだんだんとスピードを落とした。
その建物は豪邸で、海の中で建てられたにしてはかなり豪勢で丁寧で綺麗な造りだった。まるで「竜宮城」のような。
青年は門の前で立ち止まった。そこで青年を待っていたのは、一人の老婆。小柄で少し腰が曲がって、白髪になってしまった彼女だが、目の奥の光は若い頃と変わらず、優しい光を宿している。青年は少女を抱え直し、片手を上げて老婆に挨拶をする。老婆は深く礼をして、穏やかな顔で青年を見る。そして、少女を見て、少しだけ眉を下げて笑う。
「お帰りなさいませ。その方は、いつものような方ですか」
青年は、老婆の問いに頷いて肯定する。
「ああ。ばあや、父上への面会の手配を頼む」
老婆は浅く礼をし、青年の顔を再び見る。少し顔を引き締まらせている。乳母のモードから仕事のモードへと切り替えたようだ。
「承知いたしました。お部屋にお戻りになられますか?」
青年は首を振った。
「いや、ここで待っている。少しの間だろうから」
「承知いたしました。では、すぐに手配してまいりますね」
青年とのやりとりを素早く終えて、老婆は一つ礼をすると、すいすいとどこかへ泳いで行った。少し落ち着いた状況になった青年は、改めて腕の中にいる少女を見た。
華奢な体躯。力を少しでも込めれば折れそうな細い手足。真っ白な肌。漆黒の長髪。酸素を求めて苦しんだ痕跡はなく、安らかに眠っていったように感じられる。
「綺麗な子だっただろうな」
ぽつりと、青年は顔を歪めて呟く。魚が彼のそばを通り過ぎていく。彼はそれには目もくれず、じっと少女を見つめていた。
少女と青年が出会いました。老婆をばあやと呼んでいるあたり、お金持ちのお坊ちゃまなのかもしれませんね。




