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とにかく


 シマント少佐は譲るわけにはいかなかった。これまで、立身出世のため、粉骨砕身で頑張ってきた。下げたくない頭を下げ続けてきた。それなのに、あんな小石(ヘーゼン少尉)などにつまづいて、出世を止めてしまう訳にはいかない。


「しかし、まずはジルバ大佐に謹慎を取り止めてもらわないと、何ともなりません」

「……それは、ロレンツォ大尉が『どうしても』と言うことにしては駄目だろうか?」

「だ、駄目に決まってます。さすがに私はそこまでお人好しじゃありません」

「くっ……」


 使えない男だと、シマント少佐は心の中で毒を吐く。上官の言うことは絶対だと教わってきた自分とは違い、下のヤツらは平然と上官に楯突く。


 まったく、今時の者は、とシマント少佐は思った。


「わかった。それは、後でやっておく。心配するな、必ず謹慎を解いてやるからな」

「……心配なのは、謹慎を解いてくれるかどうかではなく、キチンとジルバ大佐に話してくれるのかと言うことですが」

「するって言ってるだろ! 上官の言葉を疑うのか!?」

「どちらにしろ、ジルバ大佐から正式な辞令を受けるまでは動けません。軍規ですので」

「くっ……」


 頭の硬い男だと、シマント少佐は心の中で毒を吐く。よく考えることもせずに、すぐに『駄目だ』、『無理だ』と白旗をあげる。要するに困難に食らいつく気概がないのだ。そんなことで出世などできようはずがない。


 まったく、今時の者は、とシマント少佐は思った。


「しかし、用件だけは先に伝えてもらえませんか? せっかく、謹慎を解いてもらっても、実際にお役に立たないのであれば仕方がありませんし」

「そ、それは」


 シマント少佐は渋々説明を始めた。ロレンツォ大尉は、それを黙って聞いていたが、話し終わると、深い深いため息をついた。


「……なるほど、私ではお役に立てそうにありませんね」


 !?


「おおおおい! おおおおおおおい! 話が違う! は・な・し・が・ち・が・う!」


 扉を閉めようとするロレンツォ大尉を、シマント少佐は必死に引き止める。


「は、離してください。ヘーゼン少尉抜きで、交渉なんてできるわけないです」

「できる! 成せば成る!」

「じゃ、どうやってやるんですか? 通訳のエダル一等兵もナンダルも2週間は身動きが取れないんですよね? だったらヘーゼン少尉に頼るしか方法がなくないですか?」

「……それは」


 シマント少佐は歯を食いしばる。お前の部下のせいで、こんなことになっているのに。なぜ、そんなに他人事でいられるのか。その神経が信じられなかった。そして、こともあろうに上官に考えさせようなどと、最近の若者の考えることが、もうよくわからなくなってきた。


「ろ、ロレンツォ大尉から、あの男に指示すれば、私があの男を頼ったことにはならない」

「……さすがに、それは、思い浮かばなかったです」

「そうだろ! これが上官の力だよ」


 そう胸を張ると、ロレンツォ大尉が深くため息をついた。


「しかし、万が一ヘーゼン少尉が通訳を引き受けたとしても、実際に彼が通訳するのですから、その時にジルバ大佐は知ることになるだろうと思いますけど」

「……そこは、なんとか考えないといけないが。事前にリハーサルをやって台詞を暗唱するとか」

「はぁ……青の女王に台本を読ませる気ですか?」


 さっきから、このロレンツォ大尉は、こちらを見ながらため息ばかりついてくる。なんて失礼な部下なんだと、シマント少佐は心の中で思う。


「ジルバ大佐はこの要塞の長だぞ!? 事前に段取りを組むこととなど基本中の基本だろうが」

「それはそうですが、『ここでこう言ってください』とか、族長に向かって礼を失します」

「我々は帝国だぞ!? どれだけの戦力差があると思ってるんだ!」

「それはあくまで、こちらが優位な交渉カードを持っている場合でしょう? 主導権は完全に握られているのだから、それよりも帝国にとって好条件を引き出させる方が重要ではないですか?」

「くっ……」


 役立たずなくせに、正論めいたことだけは言うなこいつは、とシマント少佐は思う。


「とにかく、なんとかジルバ大佐には許可を頂くから、ヘーゼン少尉には、しっかりと指示をしてくれよ」


 有無を言わす前に扉を閉めて、シマント少佐は肩を落としながらジルバ大佐の部屋へと向かった。









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