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馬車


 翌日。ヘーゼンはヤン、カク・ズと共に、馬車に揺られていた。いつも通りヘーゼンは本を読んでいたが、なんだか生暖かい視線を感じる。


「……なんだ?」

「別に」


 ヤンがニヤニヤしながら、こちらの方を見ていた。


「……」

「……へへ」

「な、なんなんだよ? 言いたいことがあったら、言ってくれ」

「いいところもあるんですね?」

「なんのことだ?」


 ヘーゼンは怪訝な表情を浮かべる。


「ほら、昨日。結局、お義母さんとサンドバルさんが会うのに、関知はしないって」

「……それは、誤解だぞ」

「へへ……嘘ばっか」

「……」

「冷血人間かと思っていたら、可愛いところもあるんじゃないですか」

「…‥はぁ」

「ツンデレ」

「アホか、君は。ヤン、僕は君がどのような行動を取ろうと、最終的には2人に多少の自由を許していたよ」

「えっ!?」

「人を掌握するためには、鞭だけでは上手くいかない。適度に飴も与えなければ、効率よく働かない。君も人を使役する時のために覚えておくんだな」

「嘘……嘘ばっか。冷血人間なんですか? やっぱり、冷血人間なんですか!?」


 ヤンはだんだん不安になる。


「そんなことより。そろそろ外を見ておきなさい。自分たちの治める領地がどのような場所であるかはよく知る必要がある」


 麦畑がどこまでも広がる風景の中、馬車が悠々と大通りを闊歩する。御者の制服や豪奢に彩られた客室キャビンから、すれ違う商人や農夫は、一目でそれが貴族であるとわかり、道を譲り平伏する。


「ここですか。なかなか、いい土地ですね」


 車窓から顔を出したヤンは、心地よさげに風を感じながらつぶやく。


「……いや、ここじゃないぞ」

「え? だったら、なんで見ろって」

「ここは、隣のカトレア地区だからな。攻め込まれた時に備えて、地形などを確認しておきなさい」

「思ってた感じとニュアンスが違う!?」


 ガビーンと驚愕の表情を浮かべるヤンを尻目に、ヘーゼンは土地の観察をする。統治する土地は、帝国ゼルクサン領クラド地区。ここから、数十分ほど先の場所だ。


 新任下級貴族は『領』を更に分割した『地区』を任せられる。上級貴族は『領』を統治するため、名目上は主従関係が成立し、下級貴族は上納金を納めなくてはいけない。よって、地区に住む者からの税金のノルマは非常にキツイものになる。


 馬の歩は進み、景色は次々と移ろいゆく。ヘーゼンは、その漆黒の瞳で汗だくになって働く農夫たちを見つめる。


「……ひどいな」

「ええ」


 ヤンも思わず同意する。クラド地区に入ったぐらいからだろうか、豊穣だった農地は目に見えるほどに痩せ細って行き、農夫は痩せ細り虚ろいの瞳を見せる。


 ゼルクサン領は帝都とも隣接しているし、付近には平地や河川も多いので、おおよそ良い条件は揃っている。にも関わらず、クラド地区は『見放された土地』と揶揄されているほど酷い荒廃ぶり。これは、一重に、ろくでなし貴族の画策による。


 18年前この一帯に原因不明の疫病が流行った。そこで、ろくでなし貴族は元老院の会議において、驚くべき決定を行った。自領の収益を上げるため、疫病患者をここクラド地区に集めた。もちろん、大量に人が死に、田畑が荒れて、農民は減少した。


 以降、ゼルクサン領クラド地区のノヴァダイン城は下級貴族左遷の地となり、農夫たちにとっては次々と無能貴族に仕えなければならぬ事態となった。


 荒廃した煉瓦で囲まれた一帯。野盗などの侵入から防衛するための防壁は修繕もされずに放置されている。おそらく、中に価値のあるものがないため、彼らでさえもこの地を見限っているのだろう。


「ひどいな……」


 再び。ヘーゼンが忌々しげにつぶやく。


「ええ」


 ヤンは首を縦に振った。


 黒髪の少女自身、不本意ではあるが貴族位を得た。そして、この惨状を見て俄然ヤル気が湧いてきた。


 ヤンは領主としてすべきことを無数に思い浮かべた。


「師。やりましょう。城下町で商売をする人々の税制面の優遇。農夫たちへの負担の軽減。荒廃した農地の復興。このクラド地区を統治する者の責務として、一刻も早く、民が救われる施策をーー」























「絞り取れて小金貨3枚……赤字だ」

「えっ?」

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